ユンギボの映画日記

ユンギボ(@yungibo)によるあらすじ紹介、ネタバレなしのレビュー、解説・考察をお届け‼

ウディ・アレンが描く大人の恋と名作映画オマージュのバランス『サン・セバスチャンへ、ようこそ』

やっと観て来ました!!

ウディ・アレンの新作『サン・セバスチャンへ、ようこそ』。舞台は、スペイン北部の美しい街。だらしない大人たちの恋とか愛とか嫉妬とか。先行き不透明な恋の矢印を、名作映画オマージュでデコレーションした一本。

映画宣伝の仕事をする妻とサン・セバスチャンを訪れた主人公。この旦那が顔からしてダラしないんだけど、インテリ。大学で映画をおしえつつ、いつまでも完成しない小説を執筆中。……というウディ作では常連みたいなバックボーン。ウディ・アレン監督は毎年のように新作を作っています。なので、ウディ作品は同じような設定、同じようなシチュエーションが多発します。その中でバージョン違いやアップデートしていくのがウディ流。

 

今回は、設定がいつになく面白いんです。それが、サン・セバスチャンの映画祭へやって来た理由。主人公の夫が「妻の仕事に着いてきた」という設定なんです。いつものウディ作なら“主人公が映画監督”“プロデューサーに言われて嫌々やって来た”“奥さんがプロデューサーをやってて頭が上がらない”とか。そんな感じになりそうな所。それが今回、妻の仕事のついでに好き好んで旅行に来たという。ウディ作の変化を感じました。まだ進化するのか!!

そこに絡んでくるのが、妻が担当する新作映画の新人監督。どこへ行くのも同伴。この新人監督にイラ立つ主人公。この若手監督に対する主人公の嫌味なセリフの数々に爆笑。コミカルで抜群のワードセンスが素敵。

 

ともあれ、そんな状況で、体調を崩した主人公。現地の病院へ行ってみる。そこから物語は更に急展開。そこの女医に一目惚れ。立て続けに診察予約。知人への聞き込みで女医の情報をゲット!!

奥さんの映画祭での社交会はそっちのけ。女医へのアプローチで頭いっぱい。何とかデートへ漕ぎ着けて距離の縮まる2人。ただ、ひっかかるのは、その女医は既婚者。旦那がいるんです。しかも、評判激悪の!!

物語は河のように蛇行。どこへ向かうことやら。

この作品がユーモラスなのは夢のシーン。主人公は慣れない土地で現実を反映したような夢を見続けるんです。その夢が明らかに数々の名作映画をオマージュしてるんです。これは映画好きには堪らない!!

オーソン・ウェルズに始まり、ゴダールトリュフォーフェリーニブニュエル、そしてベルイマンなどなど。ウディ監督が度々、インタビューで影響を語る監督たち。なんという巨匠の遊び!!

シーンの丸々の引用は勿論、ご丁寧に撮り方や編集の仕方までクリソツ。オリジナルを観返したくなること請合い。なんなら比べて観たくなる!!

ウディ版では、そこまでそっくりにマネておいて、下らないにも程があるオチを追加。アホらしいパロディに仕上げてる所は気が利いてます。

ウディ・アレンは『愛と死』や『スターダスト・メモリー』でもベルイマンのパロディをやってます。もはやオマージュやパロディさえもウディ流と言える作風の一つ。ですが、今回のギャグとして成立する上、この乱れ打ちっぷり。爆笑と感心の連続でした。

編集はウディ作品を20本以上も担当してきたアリサ・レプセプター。近年は毎年ウディ作で編集を担当。いつもの人です。今回の名作映画パロディシーンも「はいはい、こんな感じね」とヤリトリしてるのが想像できます。

 

さらに本作の魅力はまだまだ。美しいロケ地と淡い濃淡での撮影によるコラボ技。本作で撮影を担当するのは、『地獄の黙示録』『レッズ』『ラスト・エンペラー』でアカデミー賞を受賞しているヴィットリオ・ストラーロ。『カフェ・ソサエティ』『男と女の観覧車』『レディ・イン・ニューヨーク』など近年の相棒カメラマン。いつも抜群の映像センスを駆使。移動による流れるようなワンカットで芝居合戦を途切れる事なく魅せてくれます。しかも、どこで一時停止しても絵ハガキとして飾りたいくらい、どの瞬間も素晴らしいのです。

主人公の女医への恋心。妻に隠れてのデート。そこへ度重なるユーモラスなアクシデント。妻への白々しい夫婦関係。それらは主人公の悩みを通し、ラストに向かっていきます。

 

ちなみに、インタビューなどもなく、激薄情報のパンフは買う必要なし。オシャレ系年寄り映画風に編集された方向性迷子な予告編も可能なら観ない方が良いと思います。

 

サン・セバスチャンへ、ようこそ』

星4つ

★★★★☆

『シリーズ・江戸川乱歩短編集 1925年の明智小五郎』「D坂の殺人事件」「心理試験」「屋根裏の散歩者」(#78)

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NHK BSプレミアにて放送されていた本シリーズ。初回は2016年で、度々、再放送。その都度、観ていたのですが、今回は「楽屋トークSP」として、各話の間に主演の満島ひかり さんと監督やキャストとのトークが挿入されています。

そもそも本シリーズは、“江戸川乱歩による原作小説を全く変えずに映像化する”がコンセプト。逆に言えば、原作に明記されてない所は、自由に作れるという事でもあります。
そこで、宇野丈良さん、佐藤佐吉さん、渋江修平さんの三人がそれぞれの短編の脚本&演出を担当。新しい江戸川乱歩の映像作品に仕上がったのです。

本作は『1925年の明智小五郎』と題し、「D坂の殺人事件」「心理試験」「屋根裏の散歩者」の3本立て。

3本に通して主演の明智小五郎 役を演じているのが満島ひかり さん。えっ? 明智小五郎って男だよね? でも、その満島さんの明智小五郎がめちゃんこ魅力的なんです。それはセリフ回しだったり、奇行としか言えない挙動不審な動き。ミステリアスでサスペンスフルな本作の中で、ユーモラスも担当。
他のキャスティングもいちいち変。ミュージシャンで詩人としても活躍している松永天馬さん。怪しき雰囲気を放ち、ナレーションも含め狂言回しを担当。異様な姿が何ともカッコイイ。本作の放映後、2019年頃から映画にも出演したり脚本や監督もされるようになりました。
実相寺昭雄 監督による江戸川乱歩作品で明智小五郎を演じていた嶋田久作さん。まさかの女性役です。異様を通り越してインパクトの塊で最高でした。
さらに、柔道の篠原信一さんが「屋根裏の散歩者」を演じているのです。これにもビックリしました。そして、意外にもハマって見えるんですね。
明智役の満島さんが会話しながら篠原さんの背中に登っていく描写には大爆笑しました。まさか江戸川乱歩作品で爆笑する日が来ようとは。

また、遊び心満載の合成やミニチュアを使った演出など、次から次へと独特な世界観が披露されていきます。全く飽きずに観れる作品ばかり。

今回の放送から追加された「楽屋トーク」も、撮影の裏側や隠れ演出など、聴き応えありました。過去の放送分も録画保存してましたが、本作が永久保存版になりそうです。


星4つ
★★★★☆

ジム・キャリーのノンストップ爆笑コメディ『ジム・キャリーのエースにおまかせ!』(#77)

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ソフト版タイトル『エース・ベンチュラ2/ジム・キャリーのエースにおまかせ!』。

1994年に公開された『エース・ベンチュラ』の続編。とは言え、ご安心ください。前作を観てなくても、ストーリー的な繋がりは激薄なので、全く問題なし。
前作でもハイテンション芝居のみで映画一本分を駆け巡ったジム・キャリー。本作でも……というか、前作以上にハイテンション!!

主人公はペット専門の動物探偵ベンチュラ。冒頭から『ミッション・インポッシブル』や「007」シリーズのように、アライグマ一匹を助ける為、切りだった山を登るプレアクションシーン。
しかし、アライグマを助けられなかった事が原因で出家。高い山の上にある寺院で修業中。そこへ“伝説の白いコウモリ”の探索を依頼されます。

今回はアフリカが舞台。つまり、“ベンチュラはアフリカへ行く”なんです。密猟者たちや先住民族を相手に大暴れ!! 行き過ぎた行動と破天荒な発想。周りを巻き込んだ事件の捜査。

寺院から出ていくベンチュラに大喜びの修行僧たちから大爆笑。飛行機の中でも“迷惑な客”以外の何者でもないベンチュラ。いちいち車を大破させる駐車。大使館でのパーティではイカれた行動を連発。金持ちを毛皮のマフラー代わりに首に巻く奇行。どこから手に入れたんだかロボット・シマウマからの異様な脱出シーンに抱腹絶倒。麻酔矢に刺されてからのジム・キャリーのやり過ぎ芝居は絶品!! 先住民族の力自慢や襲ってきたワニなど、様々な相手と爆笑の格闘戦!!
大して意味は無いけど、とにかく笑えるシーンをテンポ良く繰り出し、1秒たりとて落ち着かないんです!!

前作に続き、ジム・キャリーの吹替えを担当するのは、江原正士さん。ジム・キャリー同様、早口なセリフを流暢に披露。アドリブのような呟きセリフで笑いもゲット!!
とてもトム・ハンクスと同じ声とは思えません!!

星4つ
★★★★☆

「飛べば、見える。」世界一カッコイイ豚の空物語『紅の豚』(#76)

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顔だけ豚の男が飛行艇(水面に着陸できる機体)で空を飛ぶだけで、もう面白いです。ボクは宮崎駿監督作品の中で、本作が一番好きです。その理由は、激シブかつユーモラスな主人公の魅力です。豚だと言う事が細かく追求されないミステリアスさ。
さらに、主人公の声を担当する森山周一郎さんの低音ボイスにも、グッときてしまいます。

本作は、1930年代のイタリア・アドリア海。空の盗賊=空賊により、金貨と女学生たちが拉致される事件が発生。そこで豚の主人公です。主人公の名はポルコ・ロッソ。彼は元イタリア空軍の退役軍人であり、今はフリーの賞金稼ぎ。要請を受け、金貨と女学生たちを助けるのです。

空賊の飛行艇を破壊。素直に投降しない空賊に対し、「金貨は半分やる。女学生たちを返せ」とモールス信号で伝えるんです。もう「金貨なんかくれてやる」なんですね。
一方の空賊たちの「ボス、(金貨が)修理代だけでも残って良かったですね」「バカヤロー! 志を高く持て!!」というヤリトリも笑えます。大好きなシーンです。

その後、小さな島にあるホテル・アドリアーノを営むポルコの昔馴染みの女性ジーナが登場します。彼女とのヤリトリで、ジーナの戦闘機乗りの夫が戦死した事が伝えられます。それを聞くとポルコは首から下げてたナプキンを取り、グラスに酒を注ぎます。豚なのに格好いい!! 豚なのに切ない!!
ポルコの声を担当する森山周一郎さんが凄いイケメンに演じています。そのギャップよ!!
森山周一郎さんは、刑事ドラマ「刑事コジャック」の主人公テリー・サヴァラスが有名です。悪役っぽい善玉アウトローをクールに演じていました。
その他にもチャールズ・ブロンソンジャン・ギャバンなど格好いい男たちの吹替えをしています。ボクの中の「カッコイイということは、こういうことさ。」を作り上げた人でもあります。

ポルコに毎度、フルボッコに合っていた空賊たちはアメリカ人の飛行艇パイロットのカーチスを雇います。用心棒みたいなもんですね。カーチスはポルコの不意をついて、ポルコは飛行艇を追撃。

普通なら、このカーチスというキャラも悪役です。が、この男こそコミカル。女に目がなく、自信過剰。トボけた笑いを振り撒きます。
声を担当するのは、大塚明夫さん。バラエティやドキュメンタリーのナレーターとしても活躍。ゲーム「メタルギア」シリーズの主人公スネークの声も有名です。吹替え映画も数多く担当。ニコラス・ケイジやスティーブン・セガールクライヴ・オーウェンサミュエル・L・ジャクソンなどなど、もう大塚さんの声じゃないと認識できないレベル。
そんな大塚さんのコミカル演技というのも大変、楽しいです。

ボロボロになった愛機をミラノの馴染みのある工房へ持ち込みます。そこで、馴染みの職人ピッコロとその孫娘ファオが登場。まだ17歳のフィオが設計すると知り、一度は帰ろうとするポルコ。しかし、フィオの熱意に設計を任せます。
ここでも名言が!! 「睡眠不足は良い仕事の敵だ。それに美容にも良くない」です!! これは、本当によくモノマネします!! 「ポルコ、最高だぜ!!」と思わず腕を上げてしまいます。

ポルコは、ミラノでもう一人の人物に会います。それは空軍時代の戦友。ファシスト政権により、目をつけられているポルコ。2人は映画館でコソコソ会うんです。この密談って格好いいですよねぇ〜。『パトレイバー2』の車の中の密談の次に好きな密談シーンです。

秘密警察が近づいてきている事を知ったポルコ。まだテスト飛行もしてない愛機と逃亡を決意。それを知ったフィオは、飛行艇の調整をする為、“人質”として同行すると言い出します。
そのシーンでのポルコがまた格好いいなんです。機関銃を一機外し、フィオの乗れるスペースを作らせます。続けて「マゴマゴしているとバァちゃんたちまで着いてきそうだ」とギャグを言ってみたりするのです。キャ~!!

このミラノからの脱出シーンのアクションが大変にカッコイイのです!! なかなか飛び上がらない飛行艇が街中の川を猛スピードで進みます。たまたま通り掛かった船を避け、橋の下を潜り、歩道へ大量の水しぶきを放ちながら!! そして、ポルコの「上がれぇ〜」というセリフと共に勢い良く機体が中に上がります!! 燃えるぜ!!
ホッとしたタイミングで、ポルコの戦友の飛行艇が近づいて来ます。「この先、待ち伏せされてるぞ。逃げ道を教える」とサインを送ってきてくれます。この旧友からの助けもグッときますね!!

アドリア海の隠れ家に戻ると当然、飛び出して来る空賊たち。切りだった崖の裂け目から華麗に(?)登場したカーチス。皆がポルコをフルボッコにしようとする中、フィオが素敵な提案。“ポルコの飛行艇の支払い&カーチスとフィオの結婚“”を掛けた決闘が開催される運びに。

その晩、ポルコがフィオに語る不思議な経験談。まるで幻想のような、夢のような。このシーンはポルコの死んでいった仲間たちへの思い、今の自分への思いが伝わってきます。名シーンです。

そして、クライマックスはポルコとカーチスの一騎打ちへと雪崩込んでいきます!!

宮崎駿 監督による演出ノートには「疲れて脳細胞が豆腐になった、中年男のためのマンガ映画」と記しています。脳ミソの代わりに豆腐が入っているようなボクにはピッタリの映画。

宮崎監督は、本作の続編を作りたいと度々、語っており、ポルコ役の森山周一郎さんもそれを望んでいたようです。それが叶わないまま、先日、2月8日に亡くなられてしまいました。『紅の豚』ファンとしては非常に残念であり、森山周一郎ファンとして、悲しくてなりません。
それでも、本作が生まれた事、今でも観れる事に感謝しております。


星5つ
★★★★★

ムチムチなクリスティーナ・リッチの色気がムンムン『僕のニューヨークライフ』(#75)

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公開当時、ボクの好きなクリスティーナ・リッチが、ボクの好きなウディ・アレンの作品に出る事自体が個人的大ニュースでした。
クリスティーナ・リッチと言えば、「アダムス・ファミリー」シリーズや『キャスパー』など子供から大人まで楽しめるキャラものエンタメ映画がヒット。実は、そんなヒットの最中、リッチの両親が離婚。精神不安定になった彼女は自虐行為へ。『キャスパー』が1994年の公開。
それから、第二次ヒットが1998年の『バッファロー'66』。当時は俳優やモデル、カメラマン、建築まで、アーティストとして活躍していたヴィンセント・ギャロが初監督した『バッファロー'66』。本作の中で、主人公に連れ去られたにも関わらず、どんどん恋愛関係へ発展するヒロインをチャーミングに演じていました。そのアーティスティックな作風もあって、リッチの魅力ムンムンでした。

I love ペッカー』や『耳に残るは君の歌声』、『スリーピー・ホロウ』など、様々なジャンルに出演。映画ファンのハートに刺さる玄人系の映画ばかり。それでも、以前ほどのヒット作はなく。そんな2003年に公開された『僕のニューヨークライフ』。

本作の主人公は、スタンダップコメディやステージでのトークネタを書く若き作家。主人公は、リッチ演じるヒロインと同棲中。このヒロインが良く言えば“自由奔放”。悪く言うと“ワガママ”。そんなヒロインをリッチが演じると、なんともチャーミング。主人公がメロメロなのが解る!!
しかも、自分の容姿を「ブス」「デブ」と言い放つヒロイン。拒食症だった過去を持つリッチ(オッパイを小さくする手術も受けています)のセルフパロディのように見えてドキッとしてしまいます。
ただ、ムダに足を上げたりする姿勢が無性にエロいんですけど!!

所が、話はそれだけでは終わらず。ヒロインに負けず暴走系の母親が、主人公の部屋へ転がり込んできます。最悪の3人暮らしです。
その他の人物も変な人ばかり。“良いヤツ”なんだけど、仕事の出来ない主人公のマネージャー。ウディ・アレンが演じる主人公と同職の老人。彼らからアドバイスを貰ったり、逆に巻き込まれたりする主人公。

物語は、「えっ?!」という運命論なラストへと向かっていまきます。観ている時は、本当に先行き不透明。「この話はどうやって終わるんだろうか?」と観ていました。
このラストも公開時には不満を感じましたが、今は軽妙で粋な終わり方に感じました。

監督・脚本・出演と三足の草鞋で本作を撮ったのは、ウディ・アレン。年に1本ペースで作品を世に放っています。公開当時のアレンは、『おいしい生活』や『スコルピオンの恋まじない』、『さよなら、さよならハリウッド』など軽妙で破茶滅茶な設定のドタバタコメディを連発していました。が、スランプと言っても良い程、ヒット作もなく、評価も芳しく無いものでした。
インタビューによると、「『さよなら、さよならハリウッド』では、“目の見えなくなった映画監督が新作を作る羽目に合う”という話をやったので、今度は独創的なキャラクターがドラマの中心になる映画を作りたかった」という旨の話をしていました。
なるほど。ウディ・アレンの映画って、ほとんど同じフォーマットに感じていましたが、そんな違いがあったんですね。

ウディ・アレンの映画によく出る傾向が本作にも続々登場します。例えば、作家の主人公。そして、大抵はアレン本人同様、スタンダップコメディアン
ヒロインは、大体が女優や歌手の卵。スターを目指してレッスンに明け暮れています。『アニー・ホール』、『インテリア』、『ブロードウェイと拳銃』、『誘惑のアフロディーテ』とか。
ストーリー的には、若い主人公の場合、主人公とヒロインが出合い、スレ違い、別れまでを描くパターンが多いです。
過去作品との共通点で言えば、“第四の壁”を超える所。『アニー・ホール』や『地球は女で回ってる』でもやってました。それ以降も、『人生万歳!』でも使ってました。

逆に、公開当時に以外だったのは、主人公のスタンダップコメディで小説を書いている設定。若い頃のアレン自身が演じるキャラに多い設定でした。それが本作では、ジェイソン・ビッグスが演じています。ビッグスもリッチ同様、子役からキャリアをスタート。1999年にお下劣おバカコメディ『アメリカン・パイ』に出演、ヒット。その後、シリーズ化されます。2003年に「アメリカン・パイ」シリーズ第二作『アメリカン・サマー・ストーリー』に出演。同年、アレン同様、自身で脚本と監督を兼任するケヴィン・スミスのコメディ『ジェイ&サイレント・ボブ 帝国への逆襲』に出演(ただしクレジットなし)。
2001年には、『私は「うつ依存症」の女』でリッチと共演済み。アレンによる本作での2人の起用は、その際の2人の相性を見てなのかな?

その見立ては正しく、本作での2人のヤリトリはまるで舞台での演劇を見ているようなテンポの良さ。ストーリーは多少、停滞し、退屈な部分もありましたが、この2人のヤリトリを見れるだけでも観る価値のある作品でした。

星3つ
★★★☆☆

デ・パルマ監督の日本未公開アート・ドキュメンタリー映画『ザ・レスポンシプ・アイ』(#74)

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前回の『ウォートンズ・ウェイク』(#73)に続き、『スカーフェイス』や『アンタッチャブル』のブライアン・デ・パルマ監督、初期の日本未公開映画の紹介です。本作も、『愛のメモリーBlu-rayの特典映像で観れるレア作品です。

本作は、ニューヨーク近代美術館で開催されたアート展覧会の様子を捉えた1966年のドキュメンタリー映画。原題は、『The Responsive Eye』。本作の中では「応答する眼」展と翻訳されています。

視覚や目の錯覚を利用したアート作品が多数、展示されています。
影の方向によって立体感の変わる円。幾重にも同じ方向へ並ぶ直線。幾何学模様によって構成された絵。見る人間の位置によって線が動いているように感じる平面などなど。
今で言うトリックアートのもっとシンプルな物でしょうか。

映像も凄くシンプルです。会場に展示された作品たち。会場での、キュレーターたちや観覧客たち、観覧に訪れた画家や彫刻家といったアーティストたち、研究者たちへのインタビュー。

また素材がストレートなだけに、編集がとても面白いです。インタビューが入り乱れた構成。アート作品のインサート。これらが興味を引きつつ、分かりやすいのです。一つ一つのアート作品もじっくり見せています。

その主役とも言えるアート作品は、色彩豊からしいのですが、モノクロなのでサッパリ解りませんでした。ただ、影によって、球体の立体感が変わる説明や作品の魅力など、多面的な見方が出来て、興味深かったです。

ラストのエンドクレジットでは、テロップ映像に、「面白かった」「つまらない」「意味不明」などの観客たちの賛否両論の意見を音声のみ流していく編集が新鮮でした。


星3つ
★★★☆☆
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デ・パルマ監督の未公開初期短編映画は犯罪ミュージカル『ウォートンズ・ウェイク』(#73)

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スカーフェイス』や『アンタッチャブル』のブライアン・デ・パルマ監督、初期の日本未公開映画が本作。『愛のメモリーBlu-rayの特典映像で入っています。こんなレアな作品が観れるのは、大変に嬉しいです。

本作は、1962年の28分の短編映画。無声映画なんですが、全編にシーンを説明するような歌が挿入されています。ヘンテコな犯罪コメディです。原題は『Wotons Wake』。

なんと本作の主人公は犯罪者。しかも殺人。女性の首を締めたり、ガソリンをかけて焼いたり。
その主人公の名前がタイトルにあるウォートンズ。鼻がピノキオのように長く、長髪。濃ゆいアイシャドー。目はギョロっとしいます。怪人のような男へ変装しているのです。
人を殺し、屋根の上を移動。隠れ家へ帰り、女性の下着で戯れ、恋人との時間を過ごすウォートンズ。

それでいて、ルールも知らないチェスに興じたりもします。唐突な展開や設定も含め、シュールで笑えます。

目線カット、俯瞰アングル、足元だけのカット、近づいてくる影、シルエットのみの不気味な画。アルフレッド・ヒッチコック監督のファンを公言するブライアン・デ・パルマ監督らしい撮影。ドイツ表現主義風のバランスの崩れた美術。

さらに、ウォートンズのビジュアルは怪奇ホラーへのオマージュも感じられます。クライマックスの追い詰められていく展開や画作りも『フランケンシュタイン』や『カリガリ博士』、イングマール・ベルイマン監督作品のよう。

粗削りとは言え、まさにデ・パルマ印の一本。本作を知った上で、メジャーのデ・パルマ映画を観るとまた違った側面が感じられます。

星2つ
★★☆☆☆
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おバカなハイテンション!! ジム・キャリー伝説の始まり『エース・ベンチュラ』(#72)

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本作以降、立て続けにヒット作を出すジム・キャリー。まさに本作からスタートしようなものなんです。

タイトルにもなっている“エース・ベンチュラ”とは主人公の名前。ベンチュラはペット専門の私立探偵。動物探しを得意とし、何故かペット禁止のアパートで多種の鳥や犬、猫、ネズミ、ペンギンなど室内に入る動物と住んでいます。
そんなベンチュラの元にイルカ誘拐事件の依頼が。そこで捜査に乗り出すベンチュラ。

とにかく、カートゥーンのアニメから飛び出したようなベンチュラのキャラ。常にハイテンション。常にフザケています。誰カレ構わずおチョクって歩き回ります。一切、リアリティはないのですが、そのハイテンション芸についつい見入ってしまいます。
本作の面白いのは、タガが外れているのは、主人公のベンチュラだけで、周りの人物たちは普通の演技をしているのです。コミュニケーションが取れているのが不思議なくらいです。

それでいて、中盤は結構マジメに謎解きミステリーになっているのも面白いです。意外にも操作能力は高いのてす。ちょっとムリヤリ感はありましたが。

本作が公開となった1994年のジム・キャリーは驚くべき活躍を見せていました。2月に本作『エース・ベンチュラ』が公開。本作では、脚本も担当。7月に『マスク』公開。ご存知スマッシュヒット!! 12月に『ジム・キャリーはMr.ダマー』(監督は『グリーン・ブック』でアカデミー賞を受賞するファレリー兄弟)が公開。主演作が連続公開しているのです!!
翌年1996年にも『ケーブル・ガイ』公開とハイテンションキャラが大暴れする破天荒コメディで人気を確立。
1997年の『ライアー ライアー』、1998年の『トゥルーマン・ショー』では、ただのオバカなコメディではないヒューマン・ドラマ要素のある作品にも出演。幅を出してきます。
そして、1999年の『マン・オン・ザ・ムーン』では、実在したコメディアンのアンディ・カウフマンを熱演。笑いだけでなく、コメディアンの孤独も表現。演技力の高さを見せます。『カッコーの巣の上』や『アマデウス』のミロス・フォアマン監督とのタッグでした。
その後、『グリンチ』『マジェスティック』『ブルース・オールマイティー』『ナンバー23』と様々な作品へ出演していく事になるのです。

ちなみに、本作でジム・キャリーの吹替えを担当しているのは、江原正士さん。この頃のジム・キャリーの声を多く担当しています。イカれたハイテンション芝居をノリノリガンガンで吹替えています。聞いてるコチラも体力を奪われる勢いです。それでいて、探偵モノならではの長々とした説明セリフも軽妙に演じています。本当に素晴らしいです!!

星3つ
★★★☆☆

どこかで見たような天才監督とコロンボが対決『新・刑事コロンボ 狂ったシナリオ』(#71)

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今回のゲストキャラにして犯人は映画監督。しかも若きワンマン映画監督なんです。スタジオを我が物顔でかっぽ。
そこへ訪ねて来たのが同郷の幼馴染み。彼は落ち着かない様子で語り出します。それは、一つのフィルムを見つけた琴線。それは事故で死んだと思われていた自分の妹が、監督の撮影中のバイク事故で死んだと。そのフィルムには、妹の死の瞬間と、監督の姿が。
そこで監督は、この幼馴染みを殺す訳です。

翌日、感電死した遺体が発見され、コロンボの登場です。本作は、約10年明けての新シリーズ第二話。コロンボの声は小池朝雄さんから石田太郎さんへチェンジ。初老に差し掛かり、座った深いイスから立ち上がるのも一苦労なコロンボ
映画の撮影所を興味津々にウロウロ。何度も勝手にスタジオへ入って来てはウザがられます。

事件のヒントを見つけては犯人に、いちいち報告。さすがのプロファイリング能力を披露してドギマギさせます。

今回、犯人役を演じるゲスト俳優は、フィッシャー・スティーヴンス。アイドル出身のアメリカ人俳優です。SFドラマ『ショート・サーキット』シリーズなどに出ていました。多数の映画やドラマに出演。様々な映画の製作をし、自身でも『はじまりはキッスから』監督としても活躍。最近では、アル・パチーノクリストファー・ウォーケンアラン・アーキンなどベテラン俳優たちが共演した『ミッドナイト・ガイス』を撮りました。さらに有名所でいうと、アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門を受賞した日本のイルカ漁を題材にした『ザ・コーヴ』などがあります。

そんなフィッシャー・スティーヴンスの吹替えを担当するのは『ガンダム』シリーズのシャア・アズナブルや『銀河英雄伝説』でお馴染み池田秀一さん。ボクの中では『るろうに剣心』の比古清十郎ですが、今の若い人たちには「名探偵コナン」の赤井秀一のイメージでしょうか。吹替えだとジェット・リーテレビ朝日 版の『アイアンマン』シリーズのロバート・ダウニー・ジュニアも印象深いです。
そんな池田秀一さんの鬼才監督役。ヒョウヒョウとした石田太郎さんとのヤリトリだけでも見物です。

クライマックスの派手な演出によるタネ明かしシーンは映画を題材にした本作のエンタメ色の強いラストで、『刑事コロンボ』シリーズでいっても珍しく感じました。

星3つ
★★★☆☆

懐かしき、とにかく明るい頃のDC映画『バットマン オリジナル・ムービー』(#70)

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マーベル・スタジオの映画とは裏腹に『マン・オブ・スティール』や『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』、『ジョーカー』など暗い映画がてテンコ盛り。まだ明るい方だった『スーサイド・スクワッド』も大コケ。『ワンダーウーマン 1984』もコロナで公開日は変更しまくり。当初の監督による再制作の『ザック・スナイダージャスティス・リーグ』やDC新作『ザ・スーサイド・スクワッド』も注目を集めていますが、どうなる事やら。

そんな中、今回は、ご存知バットマンのテレビシリーズを1966年に映画化した『バットマン オリジナル・ムービー』を観賞。子供向けバットマンで、最近のDC映画からは想像もつかない程ノーテンキで明るい作品です。リアリティはゼロ!! むしろ、ノーテンキ過ぎて、薬物中毒者の悪夢のような脳ミソからっぽっぷり。

ジョーカー、ペンギン、マドラー、キャット・ウーマンの悪党4人組が集結。宿敵バットマンを倒そうと画策。バットマン&ロビンが4人を追跡。……というシンプルなお話。

ただ、悪党4人がおバカ。バットマンも行き当りバッタリ。ただのお調子者のジョーカー。実行部隊ながら詰めが甘すぎるペンギン。常にテンションの高いマドラー。仲間たちを怒鳴り散らすばかりのキャット・ウーマン。昔の戦隊モノの悪役くらいのレベル。しかも、犯行を事前になぞなぞで報告するご丁寧さ。

次から次へとトンチンカンな悪事の数々。さらにそれを上回る破天荒な作戦で突破していくバットマンたち。

海軍から払い下げの潜水艦を購入した悪党たち。それを察したバットマンが海軍長官に電話。秘書の女性と談笑しながらゲームをしている長官にズルコケ。

悪党たちの用意した爆弾はバットマンが解決するまで一向に爆発はしません。

催涙ガスバットマンとロビンを眠らせるのに成功したペンギン。所が、2人を放置。バットモービルを盗んで喜んでるのには爆笑。

海に落ちたバットマンの足にサメが噛み付いてたり(しかも爆死する)、敵のアジトへ「体調が良いからランニングで行こう」とナナメ上な提案をするバットマン

突っ込み所を挙げたら切りがないのですが、もう脳ミソを使うのも勿体ない珍作。

ただ、バットマンの吹替えを担当するのは、名優声優の広川太一郎さん。若々しくハリのある広川さんのイケメンボイス。ヒーロー然とした声でムチャなストーリーを進めていきます。

本作は、ドラマ・シリーズのヒットを受け、製作された劇場公開。本作もヒットしたとの事。良い時代です。


星2つ
★★☆☆☆

死んだ妻と瓜二つの女性が誘うサスペンス・ミステリー映画『愛のメモリー』(#69)

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本作がどのくらい知名度があるのか、よく解りませんが、他の人と話していて話題に出た記憶がないですね。
スカーフェイス』や『アンタッチャブル』、『ミッション・インポッシブル』のブライアン・デ・パルマの初期のサスペンス・ミステリー。“ヒッチコキアン”という言葉があります。『サイコ』や『めまい』、『北北西に進路を取れ』、『引き裂かれたカーテン』など数々の名作を残した“サスペンスの巨匠”アルフレッド・ヒッチコック監督。映画ファンの間では、ヒッチコック・フリークの事を“ヒッチコキアン”と言ったりします。

本作のブライアン・デ・パルマ監督も有名なヒッチコキアン。『愛のメモリー』の頃は、熱烈なヒッチコック・オマージュを惜しげも無く作中へ投下。映画好きからすると、そーゆーのを探す楽しみもあります。

さて、やっとストーリーの紹介です。
主人公は、不動産会社の社長。ある日、強盗により妻とまだ小さい娘を誘拐されてしまいます。挙げ句、殺されてしまいます。
時は経ち、16年後。まだ妻と娘の事が忘れられない主人公。仕事でイタリアへ行きます。フェレンツェの教会で妻と瓜二つの若い女性に出会います。2人はデートを重ねていきます。

冒頭からテンポ良く誘拐事件が発生。観客の興味をカツアゲ。勢い良く事件の詳細を見せ切ります。もうそれだけでも主人公に感情移入。よく出来た脚本ですね。
この脚本を書いたのは、マーティン・スコセッシ監督の『タクシードライバー』『レイジング・ブル』や高倉健ロバート・ミッチャム共演、シドニー・ポラック監督の『ザ・ヤクザ』でも脚本を担当したポール・シュレイダー。その後、『ハード・コアの夜』や『ミシマ:ア・ライフ・イン・フォー・チャプターズ』などの監督作品を作った方です。

ブライアン・デ・パルマポール・シュレイダー名画座ヒッチコックの『めまい』を観て、「こんなん作ろうぜ」と脚本を執筆。演出も目一杯ヒッチコックに寄せました。
特に、ブライアン・デ・パルマの得意技であるスプリット・レンズを多用。スプリット・レンズとは、クローズアップ・レンズと素通しのレンズが一枚に合体。画面の左右で、奥と手前の被写体、両方にピントを合わせる事が出来ます。それが何なのか? セリフを喋る手前の人物と、画面奥で起きている出来事を同時に一画面で見せられるのです。
本作の場合、奥と手前の二人の人物の芝居のヤリトリを同時見せ。ミステリーを牽引する演出に使われています。

もう一つ、撮影の特徴があります。それは、ソフト・フォーカスです。ソフトフォーカスとは、画面をモヤがからせる事で柔らかい印象を与えます。例えば、昔の映画だと女性を美しく綺麗に見せる為に使われていたりしました。本作では、死んだ妻と瓜二つの女性をソフトフォーカスで撮影。幻想的に表現。主人公の心情をビジュアルで見せています。

本作でのヒッチコックへのオマージュと言えば忘れてはならないのが音楽。本作の音楽を担当するのは、『ハリーの災難』から『めまい』『北北西に進路を取れ』『サイコ』『鳥』『マーニー』など、8本ものヒッチコック映画の音楽を担当。しかし、『引き裂かれたカーテン』でケンカ別れ。その他、アメリカ特撮の父であるレイ・ハリーハウゼン作品やフランソワ・トリュフォー監督の音楽を担当。アメリカを代表する映画音楽の作曲家なんです。
本作で脚本を担当するポール・シュレイダーが脚本を書いた『タクシードライバー』が最後のセッションになります。
本作では、ほぼ全編、スコアが鳴り響きまくり!! ミステリアスで幻想的な本作を盛り上げています。

クライマックスでの真相判明。ラストの名撮影など、見どころは尽きない本作。なんすですが、妻ソックリ女性と主人公のデートシーン満載な中盤が結構、退屈。集中力が切れてしまいました。

あとヒロインが主人公の家を訪れて、前妻の情報を収集する設定は、ヒッチコックの『レベッカ』を思い出し、センチメンタルな気持ちになりました。

星2つ
★★☆☆☆

昔の恋人は今なにを?初老の男の人生を見つめ直す旅『ブロークン・フラワーズ』(#68)

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ジム・ジャームッシュ監督の作品で1番好きな作品です。そもそも、ジャームッシュ映画って、起承転結が曖昧であまり好みではないのですが、本作に限っては数年おきに観返してしまいます。唯一、持っているジャームッシュ作品です。

若い頃は幾人もの女性と浮き名を流したドン。もう初老に差し掛かっています。そんなドンの元へピンクの封筒に入った手紙が届きます。
そこなは、「あなたの息子が家出したので、あなたの元へ現れるかも」と。差出人の名のない手紙。
当時、関係を持った女性4人の名前を思い出し、お節介な隣人の手を借りて、住所を突き止めたドン。4人の女性から、手紙の差出人を探す旅へ。

主人公のドンを演じるのは、円熟の域に達しているビル・マーレイ。昔は『ゴーストバスターズ』シリーズや『恋はデジャ・ブ』、『3人のゴースト』など、「サタデー・ナイト・ライブ」出身らしい陽気なコメディ作に出演していたマーレイ。歳を取り、表情だけで心情を伝える独特の空気感で、個性派俳優へスキルアップ。再評価を決定的にした『ロスト・イン・トランスレーション』と同じ年に公開された『コーヒー&シガレッツ』のジム・ジャームッシュと最タッグ。

4人の女性へ会いに行き、歓迎されたり、旦那を紹介され変な空気になったり、追い返されたり、他界した元カノの墓の前で泣いたり、殴られたり。。。。
人生の折返しを過ぎ、岐路に立った男を哀愁タップリに演じています。

4人の元カノもナイス・キャステング。
郵便配達は二度ベルを鳴らす』や『トッツィー』のヒロインを演じたジェシカ・ラング。『氷の微笑』、『トータル・リコール』、『ラスト・アクション・ヒーロー』のヒロインを演じていたシャロン・ストーン。『ナルニア国物語』シリーズや『少年は残酷な弓を射る』のティルダ・スウィントン。ドラマを中心に活躍し、最近では『ジョーカー』でアーサーの母親を演じたフランセス・コンロイアメリカを代表するような女優陣が集結。

また、お節介な隣人をユーモラスに演じ、ワライを誘うジェフリー・ライト。彼も『バスキア』でバスキア役を演じ、ドラマ『エンジェルス・イン・アメリカ』でもオカマの看護師の役で様々な賞を受賞。まさに名優なんですが、本作ではリラックスした演技で主人公のケツを叩くヤリトリが爆笑です。

主人公の旅の全編で奏でられるエチオピア音楽。セリフも無く、淡々と歩く、或いは車を運転するシーン構成。主人公の心情同様、どこへ行くか解らないストーリー展開。カラフルに彩った画作り。センチメンタルな気持ちを駆り立てるプロット。
メンタメ作品とは言い難いですが、琴線に触れる本作は、ついつい何度も観返してしまいます。

まさに、ジム・ジャームッシュ監督が『ダウン・バイ・ロー』や『ストレンジャー・ザン・パラダイス』などで見せた、ロード・ムービーの集大成のような作品なんです。

一つ残念なのは、吹替え版が無い事。出来れば、ビル・マーレイのフィックス声優である安原義人さんか江原正士さんで吹替え版を作って欲しいです。


星4つ
★★★★☆

ノリノリ音楽で送るドラマスカスカ音楽映画『ピッチ・パーフェクト』(#67)

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とりあえずノリノリな音楽を流しておけ!!とばかりに畳み掛ける選曲センス。なんですが、ストーリーは驚く程スカスカ!!

大学へ入学してきた主人公。音楽プロデューサーになる為、一人で音楽のサンプリングをする日々。しかし、入学した大学の教授をしている父親とは反対しているんです。
全く社交的ではない主人公。常に一人。なんですが、校内ラジオ曲でバイトを開始。積極的にデモデータを渡したりと、なかなかブレブレ。もっとブレて見えるのが、校内で浮いた存在のアカペラグループに誘われて、断ってたはずなのに、あっさり入部。特に葛藤なし!!
で、そのアカペラグループには愉快痛快な面々が。なんですが、サクッとキャラ紹介はしてくれるんですが、その日常ドラマは少なめ。とりあえず、こーゆー魅力的なキャラを入れておけば良いっしょ!!って程度。
もっと謎だったのが、やたら同大学内の男子アカペラグループと対立してるんです。何か過去にあったんだろーなーと思ってたら、特にそんなシーンはありませんでした。
クライマックスまで引っ張るのが、主人公に突っ掛かってくるグループのリーダー。意地悪なくらい突っ掛かってくるんです。これまた何か理由があるのかなと思ったら、クライマックスで「父が厳しくて」と。何それ? 何の関係があるの?? そのセリフだけで同情は出来ませんよ!!

いつの間にか友情の芽生えた友人たちと、いつの間にか芽生えたグループへの愛で大会に挑むラスト。もう興味ないですわ!!
男子グループとの恋物語も多少あるんですが、やはり「だから何?」レベル。恐ろしい程、スカスカな内容にビックリしました。

音楽シーンだけ繋いで、長いPVくらいが丁度いいです。

星0
☆☆☆☆☆

スパイ映画の“あるある”集大成『007 ロシアより愛をこめて(007 危機一発)』(#66)

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本作は、映画「007」シリーズの第二作。本作でジェームス・ボンドを演じているのは、初代ボンドことショーン・コネリー。吹替えファンにとって、コネリーと言えば若山弦蔵さん。なんですが、今回は若山さんの吹替え前に収録された1975年のTBS「月曜ロードショー」にて放映版。日高晤郎さん版のショーン・コネリーです。

日高さんには芯のある通った声のイメージでしたが、今回のコネリー役は、少しかすれた声の出し方。渋く、女を口説くシーンの二枚目さが際立っています。それでいて、洒落の効いたセリフは軽妙。
若山弦蔵 版のとは違った趣きがあって、興味深いです。

本作の敵役で、殺し屋“レッド”役を演じるのは、『スティング』や『ジョーズ』のロバート・ショウ。吹替えは、内海賢二さん。TBS版のショウは内海さんのパターンが多いですね。気さくにボンドへ近づいて来たら、実は殺し屋だった……という切り替えの上手さが際立つ吹替えでした。

ちなみに、ショーン・コネリーロバート・ショウは、本作の13年後に『ロビンとマリアン』というロビン・フッドの後日談映画で再共演。ロバート・ショウが悪役、オードリー・ヘップバーンがヒロイン役というメタ的な要素のある映画でした。

本作は、その後に作られるスパイ映画のお約束や定番が満載。今観ると“あるある”の集大成みたいな一本。

ボクが「007」シリーズで好きなのは、なんと言ってもガジェットの数々。大人になった今でもついつい、ワクワクしてしまいます。本作では、秘密アイテムだらけのアタッシュケース型のカバンが登場。ナイフや金貨が仕込まれており、ちゃんとした手順で開けないと催涙ガスが放出される仕組み付き。
MI6武器開発担当のQが、新開発のカバンを紹介するシーンで、「こんなのが役に立つの?」的な態度ながら、必ず役に立つのが“お約束”。
移動中の列車の中で襲われたボンド。金貨で興味を煽り、催涙ガス噴射。仕込みナイフで反撃。しっかりと役に立っています。

女性を見れば口説かずにはおれないボンド。上司のMからミッションを受け、やれやれと受付嬢のマネーペニーを口説くのも“いつものパターン”。このシーンも待ってましたの楽しい場面!!

悪役が個性的なのも「007」シリーズの魅力。今回、悪役組織“スペクター”の面々が使う靴の先から飛び出す毒の塗られたナイフ。シャキンとナイフが飛び出すまではカッコイイけど、それでチョンと蹴る感じが間抜けで大好きです。

場面のテイストによって使い分けるジョン・バリーの音楽にもワクワクしてしまいます!!

知れば知る程、色んな意味で楽しめる一本です。

星3つ
★★★☆☆
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あまり語られない泣けるマフィア映画『バラキ』(#65)

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ボクはマフィア好きというワケではないのですが、「ゴッドファーザー」シリーズや「仁義なき戦い」シリーズなどが大好きです。家族や一族間の葛藤。血縁関係は無くとも、擬似的な家族モノ、兄弟モノでもあります。任侠です。仁義です。バディものでもあります。組織の中での生き方を模索する登場人物たちは、自分の生活とオーバーラップ。映画の中のように、生きる死ぬのレベルでなくとも気を引き締めて生きようと思います。

ゴットファーザー」シリーズや「仁義なき戦い」シリーズほど有名ではないのですが、確実に名作なのが本作『バラキ』です。
本作は、「仲間を裏切ったらブッ殺す」という“血の掟”を破り、マフィア組織内の全てを証言したジョゼフ・ヴァラキさんの実話。

物語は、逮捕されたヴァラキさんが、刑務所へ入る所からスタート。FBIに過去を告発する構成で回想シーンへ。
イタリア移民のヴァラキさん。職探し中に、マフィアの運転手の職を発見。敵対組織の暗殺ミッションでプチ活躍。ボスにお気に入りに。と同時に、敵対し合っている組織同士で抗争が勃発。どんどん死んでいく幹部たち。どんどん出世していくヴァラキさん。正式な組員へ加入。ボスの娘と結婚。
組織内で仲間が出来たり、信用できない奴が現れたり。ボスとは親子のような関係になったり。

主人公のヴァラキさんを演じるのは、チャールズ・ブロンソン。へチャムくれた顔面力とマッチョなボディというギャップ萌えの持ち主。ある程度、上の世代の方は「ん~マンダム」の人です。当時50代のブロンソンが、髪を黒くしたり白くしたりして、若い頃から晩年までのヴァラキさんを演じ分けています。顔はずっとシワクチャだったけど。
半殺しの目に合った友人を「楽に死なせてやる」とトドメを刺す描写があるんですけど、メチャクチャ泣けるんです!! ブロンソンの表情は変わらないけど、ちょっと涙目なんです。顔がへチャムくれてるせいか、妙に悲しく見えて、泣けるんですよね!!

また、ヴァラキのボスで、実在したヴィト・ジェノヴェーゼ役を演じるのは、名優リノ・ヴァンチュラ。冷静で冷酷な存在感たっぷりのボスを演じています。

そんな本作ですが、元になっているのは、1963年、アメリカでの公聴会でヴァラキさんの告発“バラキ公聴会”。さらにそれをまとめた「マフィア/恐怖の犯罪シンジケート」という本が1968年に出版されました。本はベストセラー。早速、「007」シリーズのテレンス・ヤング監督が映画化権を購入。電光石火で映画化しようとしましたが、問題が。当時はヴァラキさんもジェノベーゼさん、他に登場するマフィアの方々もご健在。報復の可能性もあったので、製作できず。
動きがあったのは、1971年後。ジェノベーゼにヴァラキと相次いで獄中死した事で、映画化の話が再スタート。
フェデリコ・フェリーニなどの映画を作る名プロデューサーのディノ・デ・ラウレンティスが担当。1972年の3月にニューヨークで撮影スタート。ニューヨークマフィアから脅迫を受け、仕方なくローマへ。
それでも1972年の11月には公開されているので、本当に死ぬのを待って、ソッコーで作ったんですね。

本作の、他のアメリカのマフィア映画と違うのが、正義感に駆られての告発ではない点。刑務所にいるヴァラキさんに、FBIが「お前は死ぬまで刑務所だぞ。シャバのカミさんと子供は無事に生きていけるかなー?」と脅されるんです。家族の為に告発するんですね。その描写は映画内でも描かれています。
劇中では、このFBIとのヤリトリと過去の回想が交互に展開。最初は口論ベースだったヴァラキさんとFBIの関係。徐々に友情のようなものが芽生え、ラストの2人の後ろ姿にグッときます。

今回は吹替え版にて観賞。ブロンソンの声をフィックスの大塚周夫さん。そして、大塚さんと二分して、もう一人のブロンソンのフィックス声優でもある森山周一郎さんが、リノ・ヴァンチュラを担当。さらに羽佐間道夫さんや小林清志さんなど、洋画吹替えファンにもオススメの一本です。


星5つ
★★★★★