ユンギボの映画日記

ユンギボ(@yungibo)によるあらすじ紹介、ネタバレなしのレビュー、解説・考察をお届け‼

『クリーピー 偽りの隣人』感想

2016年6月27日(月)、『クリーピー 偽りの隣人』を観賞して来ました。

ホラー映画のイメージが強い黒沢清監督ですが、履歴書を見てみると『DOORⅢ』や『キュア』などサスペンス・スリラー作品でも、のっぴきならない作品を世に送る血まみれ優等生。今作は久々の原点回帰。
主人公の夫婦が引っ越して来る所から始まるんですけど、早々に隣人役の香川照之がヘン!! 予告編とか観た人は解ると思うんですけど、怪しいと言うか胡散臭いと言うかヘン!! 支離滅裂な事を言ってたと思うと、やたら冷静に理屈の通る事を言ってたり、本音なのかウソを言ってるのかもよく分からない。
犯罪心理学者の主人公を西島秀俊。奥さん役を竹内結子が演じてて、美男美女のおしどり夫婦と思ってたら、おやおや。旦那役の西島秀俊もヘン!! 未解決の一家失踪事件の調査を依頼されて、唯一の生き残りである長女役を演じる川口春奈に話を聞きに行ったりするんですけど、話を聞きながら興奮し出したり、事件の調査を「趣味」とか言い出して、デリカシーがちょっとあれなんですね。
この事件調査のエピソードと謎の隣人が距離を縮めてくるエピソードが同時進行で描かれていき、気が付いたら、あっぱらぱーな世界へ放り込まれてる畳みかけサスペンス。未解決の一家失踪事件だけでも謎が多いのに、隣人の動向の怪しさが謎をポコポコ発生させていくんですね。それでいて、「このシーン、オチに絡んでくるんじゃないかね?」みたいなシーンもいくつかあるんですけど、全然、関係なかったりする。やれやれ。
香川照之の正体が段々と明らかになってきてからの後半はもはやダークファンタジー。『悪魔のいけにえ』とか『死霊のはらわた』とかと一緒です。あり得ないけど、怖いから見ちゃう。面白いから見ちゃう……って世界。でも、前半がリアル志向だったから「こんなのウソだよー」とかと突っ込んで冷める気分では無くなってる辺りが上手いですよね。

上手いと言えば、本作のロケ地やセットが素晴らしいですよ。主人公の住む家は奥多摩らしーんですけど、すたれた感じとか、傍を通る高架橋(電車だか高速だか解らないですけど、人々が通り過ぎる場所であーゆー事件が起きているという人知れず感)とか。後半に登場する部屋とか、もう『カリガリ博士』とかの世界で、不気味でしたー。
あと、本作は横長のシネマスコープ・サイズなんですね。ウディ・アレンの新作『教授のおかしな妄想殺人』もシネマスコープで、「小規模な作品ほどシネマスコープが合ってると思うんだ」みたいな事をインタビューでアレンは言ってましたが、その事も念頭に入れて観てると意図が解らなくもないなと。

本作のパンフは厚みがあって読み応え抜群。監督・西島秀俊竹内結子の対談が掲載されてるのに、それと別でインタビューも収録されてる辺り、グッときましたね。スタッフの証言や現場レポート、樋口泰人×柳下毅一郎の対談、黒沢作品過去作解説など黒沢清ファンは買いの一冊でした。中でも宮台真司さんの心理学からの解説には脱帽。



『クリーピー 偽りの隣人』
★★★☆☆
星3つ

『A2 完全版』 感想

2016年6月22日(水)、『A2 完全版』をユーロスペースで観賞して来ました。

オウム真理教を内部から密着したドキュメンタリー『A』の第2弾で、2002年に公開された『A2』の未公開シーン追加の完全版が本作。

ラストのオチに向かって構成されていた『A』に比べて、日本のあっちこっちのオウム真理教の支部でのエピソードを垂れ流ししている『A2』は見辛かった印象があったのですが、今回、改めて観賞してみると、各支部でのエピソードが多岐にわたっている事に驚きました。
そして、超笑える。
特に、出所して来た上祐史浩の居るマンションの前で警備をする警察とデモをする右翼のヤリトリが爆笑でしたわ。
規制線の中へ入ろうとして警察に止められた右翼が、「俺らは刺したり、撃ったりしか出来ないんだから、身体検査してくれれば無力なんだから、入れろよ。」というオリジナリティー溢れる主張に爆笑。そんな右翼VS警察の間に割って入ってくる酔っ払いのオジさんにも思わず吹き出してしまいました。オウム+右翼+警察って、こんなに笑えるのかと。
あと、最初はオウムの支部に反対運動とかしてた地域ボランティアの人たちとオウム幹部たちの交流エピソードとかもグッときましたね。「事件後も町に居座るオウム支部を監視する」と支部の隣の空き地に監視テントを組んで見張ってたはずなんだけど、毎日、顔を合わせてるから、いつの間にか仲良くなっちゃっているというね。みんなワラワラ集まって来て、談笑して、地域の人たちの憩いの場になってるっていうね。監視テントの解体をオウム幹部が皆でワイワイ楽しそうに手伝ってる不思議な図には、観てるコチラまで和んでくる魅力がありました。
挙げ句、オウム幹部の引っ越しの日のシーンでは、地域のオバちゃんが「体には気を付けてね」と見送るんですけど、もう完全に孫との別れみたいになってて、グッときちゃうんですね。
中でも、1番、ツボに入ったのは、会見の準備をするオウム幹部が消臭スプレーを手に「マスコミ集まって、急にコレ(消臭スプレー)撒いたらビックリしますかね(笑)」というブラックにも程があるジョーク。
構成的には雑然としている印象は変わらなかったけど、オウム真理教の修行風景や当時、取りざたされた暴行監禁容疑事件の詳細、麻原彰晃の三女=アーチャーへのインタビューなど、見どころ満載。
ちなみに、アーチャーの出演シーンが本作の追加シーンらしーです。試写と山形国際ドキュメンタリー映画祭までは入ってたらしーのですが、アーチャーが当時、未成年だった為、カットされたそーです。
今回、観てみたら、素直に「学校へ行って勉強したかった」という姿は普通の中学生。当たり前ですが。英語で自己紹介を求められて、本名の「麗華(りか)」を使った事に対して質問され「だって、お父さんが付けてくれた名前だから……」と返す姿に涙!


『A2 完全版』
★★★☆☆
星3つ

『FAKE』感想

2016年6月22日(水)、『FAKE』をユーロスペースで観賞して来ました。

本作はゴーストライター騒動の後の佐村河内守さんを追ったドキュメンタリーですけど、覚えてますか? 耳の聞こえない作曲家の佐村河内さんが作曲した曲には新垣さんというゴーストライターがいた……って騒動。...あの頃、会見の様子をテレビ見て、矢継ぎに飛び交う質問に対して「一人一人、話して下さい!」「聞こえてるじゃないですか?」のクダリに爆笑してましたよ。まぁ、その爆笑していた〔あの頃の自分〕がどれだけマスコミの情報操作の中で踊らされていたのか……っていう話なんです。笑っていた人間には、ちょっとチクチクくる話でした。
正直、「で、実際の所、どーだったのよ?」って聞きたいじゃないですか?「本当は耳が聞こえるんじゃないの?」とか「実際の作曲作業の話は?」とか「ゴーストライターの噂のある新垣さんとは、今、どんな感じよ?」とか。そーゆー疑問が、マンションの一室で洞窟に籠ってるよーな生活をしている佐村河内さん夫婦へ密着するストーリーの中で小出しに出てくるんです。だから、段々とそんなに興味の無かった夫婦の生活をついつい見入っちゃうんです。
テレビ局のお偉いさん達が「うちの番組に出てくださいよー。悪いようにはしませんからー。」みたいなウソ臭さプンプンの出演依頼の様子とか、新垣さんがバラティ番組に出てるのを静かに見つめる佐村河内さんの様子とか見せながら、気になってた疑問を本作の森監督が聞いていくんです。で、ちょっとずつ解っていくんです。気になるでしょ?
それでいて、夕飯には手を着けずに豆乳ばかり飲んでいる佐村河内さんに森監督が「豆乳、好きなんですか?」tって聞くシーンとか、「森さん、タバコ吸いに行きましょう」と佐村河内さんがマンションの喫煙所と化しているベランダへ誘うシーンは爆笑でした。佐村河内さんが我々の予想をはるかにフライングするユーモラスなキャラクターなんですよ。猫と本域でジャレてたり、頬っぺたをポコポコ叩いて音楽を奏でたり。ついつい笑っちゃうシーンが多々あるんです! 会場内、大爆笑!! それでいて、森監督が「奥さんの事、好きですか?」というダイレクト過ぎる質問をするシーンとかは大号泣ですよ。
みんなが気になってる話題を笑わせたり、泣かせたりしながら見せていくドキュメンタリーって最強じゃないですか?
気が付くと、最初に気になってた疑問とかは途中で、どーでもよくなってて、「そんな事より、この夫婦はどーなっていくんだ?」という方へ興味が移っちゃうんですね。そんな感じで、森監督もバンバン仕掛けていくから、「次は何を仕掛けるんだ?!」みたいな興味も沸いて観ていると、劇場の観客強制ポカーンの衝撃ラストへ流れ込んでいくんです。みんな呆然としてましたよ。
もう、ことごとく事実確認を見せない演出が一貫してるんです。カメラの前で起きること以外の過去エピソードは、あくまでも佐村河内さんサイドの証言だけで構成されてるから、騒動のバックボーン全容解明が明らかになってるよーで実はピンボケ気味。「佐村河内さんはこう申しておりますが、あなたはどー見ますか?」っていうのを観客に考えさせる演出なんです。怖いですね、森達也。絶対、密着とかされたくない。ホラー映画みたいですよ。


『FAKE』
★★★★☆
星4つ

【イベント】「あゝ新宿―スペクタクルとしての都市」

先日、早稲田大学演劇博物館で開催されてる「あゝ新宿―スペクタクルとしての都市」展を観てきました。

要は新宿を中心とした映画や演劇などのアングラ文化についての展示企画でした。今と昔の街並みを写真や映像で比較する所から始まって、当時の映画や演劇のポスターとかの展示がメインでした。その中でキーパーソンな人達にフューチャーしており、それが寺山修司だったり唐十郎といったアングラ演劇の担い手たち。或いは大島渚を代表とするATG映画で活躍した映画作家陣。はたまた、三島由紀夫横尾忠則山下洋輔などの文化人になる訳ですね。なもんで、会場では大島渚の『新宿泥棒日記』が垂れ流し上映中でしたよ。

まぁ、何が興味津々って、蜷川幸雄が劇団現代人劇場時代に演出した『想い出の日本一萬年』の記録映像ですよ! 何か去年あたり整理してたら『想い出の日本一萬年』のフィルムが出てきたそーです。どんな状況だよって言うね。凄いですねー。有り難いですねー。もうね、「謎のフィルムがありそうなら、オイラを読んでくれ。綺麗に片付けるから」と思いましたよ!
肝心の映像はガビガビで非常に見にくいものでしたが、当時の雰囲気はビシバシ伝わってくる代物でしたよ!


そして、もう1つのお目当ては図録! これから、ゆっくり読みます。

エマ・ストーンへの思いが我慢できない『教授のおかしな妄想殺人』ネタバレなしレビュー

f:id:stanley-chaplin-gibo:20200424121739p:plain
日本版ポスター
2016年6月14日(火)、『教授のおかしな妄想殺人』を観賞して来ました。
皆さん、年に1本のペースで映画を作り続ける幸せな映画監督=ウディ・アレンの新作ですよ! そんなん、どーでもいーんだよっ!! 今作のヒロインはエマ・ストーン!! 天使ですね!! 可愛い×100点!!! ……あ、いやいや、その前に説明せねば。本作はですね、ユーモラスなサスペンスなんですよ。意味わかんないでしょ? 何だよ、ユーモラスなサスペンスってね。意味は分かるんですが、ちょっと邦題が悪い方へミスリードさせてる気がするんですが。早速、ネタバレなしのレビューをお届け!!

あらすじ・ストーリー

この映画、元活動家の大学教授が赴任して来る所から始まるんです。この役をホアキン・フェニックスが体重を15キロ増やして演じてるんですけど、この男が酷い。アル中で偏屈。口を開けばネガティブ発言だらけ。誰とも仲良くならない。ある意味、学内では噂の的。でも、そんな偏屈教授と妙に話の合ってしまった女学生との交流をユーモラス&ポップに描いているのが前半。後半は、急展開。この教授がある事件に手を出してしまった事から着地場所不明なシリアス展開に発展していき、2人の関係も大きく変わって、ゴロゴロ転がっていくもんだから、もう目が離せなくなります。

考察・評価・感想

映画のストーリーはウディ・アレン監督作品が過去にも何本か作ってきた「罪と罰」オマージュなお話。「自分の思想の為に犯罪を犯すのは正しい事か?」みたいなテーマを内包していたドストエフスキーの暗くて重い世界をアレン流にアレンジといった趣向ですね。

f:id:stanley-chaplin-gibo:20200424121826j:plain
このエマ・ストーンのキュートな魅力!!
過去には、コメディパートとシリアスパートを同時進行で描きつつ「因果応報は無い」という衝撃のラストに着地した『重罪と軽罪』や、サスペンスのドラマ・パートを掘り下げエンタメ重視でヒットした『マッチ・ポイント』、下町兄弟を主人公に「罪と罰」+「カインとアベル」にアレンジした『カサンドラ・ドリーム 夢と犯罪』の流れがありました。
それでいくと本作は「罪と罰」+「本当の愛とは何か?」というラブ・ストーリーのオプション追加バージョンですね。
f:id:stanley-chaplin-gibo:20200424121903j:plain
スラっとした足のエマ・ストーンの魅力!!
そんな事はどーでもいーんだよっ!! もう、エマ・ストーンの話しか書きませんよ!! 本作のエマ・ストーンの可愛さは法で取り締まるレベル。男子のハートを総カツアゲ! 最終兵器彼女です!! エマ・ストーンと言えばメジャー作品だと『アメージング・スパイダーマン』のザ・清純なヒロイン役や『バードマン』の主人公のヤンキー娘役でアカデミー賞にノミネート。ウディ・アレン監督の前作『マジック・イン・ムーンライト』では聡明なヒロイン役でした。どの作品のエマ・ストーンもハマってて、可愛かったですねー。どんな役でも上手く演じちゃうんだ、エマ・ストーンは。でもね、本作のヒロイン役はエマ・ストーンを1番、魅力的に演出してますよ!!
だってね、本命の彼氏がいるのに偏屈な大学教授に猛烈アタック。堂々と二股かける役どころ。それでいてビッチじゃない。こんな難しい小悪魔な役、今時、エマ・ストーンくらいしか出来ないわ!!
f:id:stanley-chaplin-gibo:20200424121942j:plain
可愛いエマ・ストーンの隣でムスッとした人がホアキン・フェニックス



顔立ちが若い頃のジョディー・フォスターっぽくて、醸し出す雰囲気も知的な印象を与えますよね。勉強も出来て、頭の回転も早いけど、天真爛漫で性格も良いお嬢様……って感じですよ。しかも、表情豊かで、微妙な心情の機微も見事に表現できる。そのコメディエンヌっぷりは往年のダイアン・キートンやゴールディー・ホーンを思い出させます。天才か、天才なのか、エマよ。女優として1000点ですよ!!
本作の明るく笑顔を振りまくキャラクターも主演のホアキン演じるネガティブ教授との対比になってて、グッドですね!
ポイントはこちら! 前半で教授にレポートを褒められた時に見せるハニかんだ表情! この際、一瞬ですが、下唇を噛むので、お見逃しなく。見逃してしまったら、後半にも教授から何か(エマ・ストーンに注目し過ぎて忘れた)をプレゼントされて、もう一度、下唇を噛む表情を見せます。
ポイント2!! ファッション!! 「これはエマのファッションショーか?!」と言うくらい衣装がチェンジします。ヘソ出しから、ジーンズ姿、ドレスアップに、地味なコンビニ・スタイルまで。よく見てないと、ほんの短いシーンでしか着てない服もあるので要チェック。ミニスカートにパーカーというのも良かったけど、白地に赤い刺繍の入ったガーリーなワンピースを着たエマは可愛さ1億点!!
なんか、これを書いてる自分が気持ち悪く感じてきたので、終わります。
そんな100兆点のエマ・ストーンが素晴らし過ぎて、「もう映画の内容なんかよりエマだけ見てれば良いかな」と思っていたら、唐突なオチにより、実は物凄い哲学的な映画だった事に気づかされる訳です。その哲学要素の説明はパンフに載ってるので、解説で深読みしたい人にはパンフは買いです。あと、エマの魅力的な写真の数々も豊富です。
早くネットフリックスなりamazonで吹き替え版の配信を求めます!!
★★★★☆
星4つ
エマ・ストーンの可愛さ1000光年点

『教授のおかしな妄想殺人』

スタッフ

監督・脚本
ウディ・アレン
製作
レッティ・アロンソ
ティーヴン・テネンバウム
エドワード・ウォルソン
共同製作
ヘレン・ロビン
製作総指揮
アダム・B・スターン
アラン・テー
ロナルド・L・チェズ
共同製作総指揮
ジャック・ロリンズ
撮影監督
ダリウス・コンジ
美術
サント・ロカスト
編集
アリサ・レプセルター
衣装
スージーベンジンガー
キャスティング
ジュリエット・テイラー
パトリシア・ディチェルト

キャスト

ジェイミー・ブラックリー(ロイ)
ホアキン・フェニックス(エイブ)
パーカー・ポージー(リタ)
エマ・ストーン(ジル)
ベッツィ・アイデム(ジルの母)
イーサン・フィリップス(ジルの父)
公開日:2016年6月11日公開 95分
Photo by Sabrina Lantos (C)2015 GRAVIER PRODUCTIONS, INC.
原題 IRRATIONAL MAN

『デッドプール』(MX4D版・吹替え版)感想

2016年6月13日(月)、やっとこさ『デッドプール』を観賞して来ましたよ。
しかも、TOHOシネマズ富士見で日本語吹替えの4DX版で観賞ですよ。関東近郊で吹替え&4DX版を公開している劇場が少なくて、ホントわざわざですよ。

原作はアメコミなんです。ボクはもともと原作のファンだったので、もう2年くらい前から楽しみにしてましたよ! ちょっと楽しみにし過ぎましたね。まぁまぁでした。
でもね、でもね……、原作の悪ノリなテンションが見事に映像へ、トランスフォーム。
何と言っても原作の魅力を見事に移植できてたのは主人公のデッドプール(通称:デップー)のキャラクター。デップーは常にフザけてて、どんなにガチヤバな状況でも緊迫感のないジョークや下ネタを披露。さらに傭兵あがりなので、とにかく強い。しかも人体実験で死なない体にされてるんです。セガール並みに負けそうにならない。むしろ、敵キャラに同情しそうになるくらい人を殺す事を何とも思ってない。だから、アクション・シーンの迫力は破壊的! そう、強くて面白い男。それが、デップー。
そんなデップーの弱点は愛する恋人:ヴァネッサ。ジョークのセンスから考え方、セックスの相性までピッタンコカンカンな娼婦。所が、不死身の体に改造される際、顔がただれてモンスターのような容姿になってしまったトラウマにより、「彼女に嫌われてしまうのではないか」と中二病のようにストーカーをする日々。ここら辺は『フランケンシュタイン』等の優しき怪物系映画あるあるですね。まぁ、そんな繊細な面も持ち合わせる憎めないお喋りクソ野郎っぷりがボンクラのハートにジャストフィット。本作を見れば、みんなデップーファンのイッチョあがりなんです。
見せ方……と言うか編集も凝っていて、壮絶な銃撃戦を冒頭からストップモーションで見せるんですけど、甘いムーディーな曲がかかってるんです。これ、重要!! アクション・シーンをストップモーション(あるいはハイスピード撮影)で見せながら、一見、アクション・シーンに合わないようなセンチメンタルな曲を使ってる映画にハズレなしですよ。イギリス出身の監督とかがよく使いますね。ガイ・リッチーの『シャーロック・ホームズ』やザック・スナイダーの『ウォッチメン』とかね、古くはスコセッシの『レイジング・ブル』。編集と言えば構成も。現在のデップーがある男を追っていくエピソードと「なんでデップーがこのようなヒーローになって、男を追っているのか?」という、冒頭のシーンに至るまでの生い立ちが現在と過去を行ったり来たりしながら、同時進行で描かれていきます。なもんで、グイグイと作品の世界観に引っ張られていきます。こーゆー構成も名作映画には多いですね。タランティーノの映画でもよく使われてますし、『ファイト・クラブ』や『カジノ』とかね。


そんな流行りのアメコミ原作ですが、他のアメコミ作品とは趣向がちょっと違うんですね~。デップーが観客に向かって話しかけてきて、シーンの説明をしてくれます。『ウルヴァリン』や『ダークナイト』のウジウジ系ヒーローでは考えられないくらい親切かつクレイジーですね。他のアメコミ作品をネタにディスります。特に映画版には全然、出てきませんが、原作は『Xメン』から登場したキャラなので『Xメン』の映画版はキャストまでイジられてます。更にはデップー役を演じるライアン・レイノルズまでがネタにされてたりします。
そこら辺の元ネタが気になる人はパンフに記載されてるので、是非。逆に知ってる人には大して読み応えの無いパンフでしたので、買わなくてよかったなーな内容。

なんで映画ネタが満載なんです。そんな喋りっぱなしのデップーのセリフを文字数に制限のある字幕版ではフォローしきれなくて、幾つかのセリフのパロディは省略されています。勿論、吹替え版ではフォロー済み。しかも、ノータレント。芸人やアイドルは一切、吹き替えに参加してない解ってる仕事っぷりなので安心設計。アナタの周りで、アメコミ映画好きが通を気取って字幕版を観賞してきて、「あれは、あのアメコミ映画のパロディなんだよね~」なんてウンチクを吹っかけて来たら鼻で笑ってやりましょう!

デッドプール』(4DX版)
★★★★☆
星4つ

【演劇】『尺には尺を』感想

2016年6月8日(水)、彩の国さいたま芸術劇場で『尺には尺を』を観劇して来ました。

先日、死んじゃった蜷川幸雄の遺作になります。稽古中に死んじゃったんですね。「これが最後になるのだから、是が非でも行かなくては」と向かったので、作品の内容はノーチェックでしたが、これは「なんじゃこりゃー!」の連続でしたよ!
今作はシェイクスピアの戯曲なんですよ。全然、知らねーですね。確かに、シェイクスピアっぽいんですが、突然、シェイクスピアらしからぬシーンが出てくるんです。
フィアンセを妊娠させてしまった若い貴族が「結婚前に関係を持った罪」で死刑宣告され、投獄される設定なんですけど、これって、今で言う「できちゃった結婚」みたいなもんですよね。今の時代に、こんな法律があったら次々に死刑ですよ! 死刑執行人の募集が出ますね!
そーゆー設定なんで、シェイクスピア劇なのに、「これは『テッド』か?」ってくらい、下ネタがバンバン出てくるんです。観客はオバさんばっかでしたが、みんな大爆笑してましたよ!


で、1番、面白いのは、投獄された若い貴族の妹。修道女見習いなんです。街を納める公爵代理に兄の死刑を取り消してもらいに行くんです。そしたら、一目惚れされて、「兄の命を助けて欲しかったら、オレの女になれ!」と余計、話がややこくなる始末。でも、修道女を目指してますからね。「男性と交わるのは神の教えに逆らう事だから、お兄様は神の教えの為に死んでくれるわね。」とお兄ちゃんを困惑させるんです。このシーン最高で、兄も「婚約者と子供つくっただけだよ? これって罪じゃないよ? 罪だとしても、七つの大罪の中でも一番、軽い方だと思うなー」と何とか説得しよーとするんです。もう、このヤリトリが最高に笑えます!
この妹役を多部未華子が演じてるんです。神の教えに従順でピュアな余り、完全に空気の読めてない感じが、童顔の多部未華子にハマってましたよ!
今作の悪役ポジションである公爵代理も根っからの悪党って訳ではなく、自他共に認める真面目人間だったのに、多部未華子に会った途端、恋に落ち、職権乱用してしまう男なんです。それで、悩んだりと、これまた一筋縄ではいかないキャラを藤木直人が映像作品とは違ったメリハリ演技で、上手いんですよ!
そんで「マジかよ!」っていう、トンデモなオチへ流れ込んでいくんですね!

本公演、喜劇だけあって爆笑こいてたら、カーテンコールが閉まった後、再度、カーテンが開いてと思ったら、そこに蜷川先生の巨大写真が。しかも、あの遺影の写真。涙ガーっですよ!
ボクの両サイドに座ってたオバさんたちも泣いてましたよ!

もう蜷川幸雄の舞台が観れないと思うと、もう何を観に行った良いのだか……。

『尺には尺を』
★★★★☆

『青春100キロ』感想

2016年6月9日、渋谷アップリンクで『青春100キロ』を観賞して来ました。

爽やかなタイトルですね!
子供連れで行くと良いかもしれません!
エロ・ドキュメンタリーです!

現役引退するAV女優の上原亜衣と、最後にゴムなしの中出しセックスする為、上原亜衣ファンの素人さんが彼女の待つスタジオまでの100キロを走る……っていうだけのドキュメンタリーです。飛んでもないくらいアホみたいな企画ですね!
ただ、これが笑えるのは勿論、段々と泣けてくるという、グッとくるドラマになってるんです。素晴らしんです。
構成としては、走る素人さんと、それを自転車で追いかけ撮影する本作の監督である平野監督。車で2人を追いかけ撮影するオジさんスタッフが2人。さらに、スタジオで最後の出演AVを撮影する上原亜衣ちゃんとの3つの視点が同時進行で描かれる構成。
しかも、別々の場所で各々の話をしてるのに話の内容がリンクしている所をカットバック編集で見せるという芸の細かさが作品への興味をグイグイ引っ張っていきます。
そして、度重なるアクシデント、衰えていく素人さんの体力、迫り来るタイムアップの時間……という感じで、無駄にサスペンス映画に必要な要素がバッチリ揃っているという。そんな中で追い詰められていく素人さんとは裏腹にノーテンキ&マイペースな平野監督との対比がユーモラスで笑えました。フラフラで走る素人さんの前で平野監督が自慢のマイ自転車がどれだけ坂道に強いか力説するクダリは居たたまれないシュールな笑いが爆発してましたね。
あと、素人さんの自転車を見失ったシーンでの平野監督の「オレがハメ撮りしないとマズイかなー」という心の声がテロップで出るクダリも爆笑!
一方、車班のオジさんは頑張る若者(素人さん)の姿に段々、感情移入していくのも面白かったですね。ポロッと「若いっていいなー。セックスする為にあんなに頑張れるんだぜ。」のセリフに不覚にもグッときてしまいましたね。コッチもノーガードで軽く観てるから、グッとポイントが深いんですよ。
そんで、亜衣ちゃんも何だか趣旨の解らない企画モノのAVを撮影してるのも笑えるし。その中でAV撮影のメイキング的ウラ側映像が写し出されるのですが、全裸の男たちの中で、オッパイとマンコの部分が露出されたスクール水着みたいなの着てる亜衣ちゃんたちが真顔で打ち合わせしてるんですよね。AVと言えど映像作品だから、まぁ、そーなるんでしょーけど、何だか不思議な画でしたね。これもレアです。
そんな事より、素晴らしいのは上原亜衣ちゃんのヒロインっぷり。ボクは本作で初めて彼女を知りましたが、可愛くて、笑顔がキュートで、どこか刹那的というラブコメなら100点なキャラクター。
そんな彼女の為なら「100キロ走れちゃう」という信憑性が抜群でしたね!



『青春100キロ』
★★★★☆

『キャプテン・アメリカ/シビル・ウォー』(吹替え版)感想

2016年5月14日(土)、池袋で『キャプテン・アメリカ/シビル・ウォー』を観賞して来ました。

冒頭からリアル・ヒーローものの定番「ヒーローは危険じゃないのか?」問題が勃発。
それって、この前の『スーパーマンVSバットマン』でもやってたし、『ウォッチメン』や『X-MEN』とかでも散々、やったネタじゃんと思いますよね。まぁ、そーなんですけど。
でも、今回の話はそこからキャプテン・アメリカとアイアンマンか仲違い。対決するストーリーになってて、これが一筋縄ではいかんのですよ。アメリカ政府は「お前ら、アメリカ政府の許可なく、暴れすぎ。国民に対して責任を持てないから、国連の指示で動くヒーロー活動をしろ。嫌なら引退しな!」と言ってくるんです。
自分が暴れまわった為に一般人への被害を出してしまったアイアンマン。そーでなくとも前作『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』では自ら敵を作ってしまった訳ですからね。害妄想から心配性の塊になってしまってるんです。だから、以前のようにコミカルなジョークを飛ばさなくなり、むしろアベンジャーズを組織として維持する事に必死な大人へ成長。ソッコーで政府の意見に賛同。
方や、キャプテン・アメリカは前作『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』で「アベンジャーズが所属していた組織=シールドは悪の組織=ヒドラに乗っ取られてた」トラウマから、大好きなアメリカ政府さえも信じられないメンタルに。 それがピュアな少年まま現代に甦ったキャプテンだけに、「本当に信じられる物はなんだ?!」と兵隊としてのアイデンティティー探しですよ。勿論、政府の申し出には乗っかりません。
でもね、キャプテンの気持ちも解るよ!!
かと言って、アイアンマンも悪くない!!
複雑!!
これは、子供が観ても解らないですねー。大人のドラマですよ。現にボクの隣に座ってたお父さんに連れられた小学生はアクション・シーン以外、ずっとポカーンとしてましたよ。あと10年後に見直せ!!
そんな中、キャプテンの元親友、元宿敵=ウィンター・ソルジャーがテロ活動に勤しんでると情報が入るんです。アイアンマン・チームはバッキーをボコる為に血眼。キャプテン・アメリカは秘密裏にスタンドプレー。そこから、政府的には反逆者となったキャプテンと政府の所有となったアイアンマンが対決する羽目になるという燃える展開に。
本作ではキャプテンとアイアンマンは勿論、キャプテンとウィンター・ソルジャーとの関係や新キャラのブラックパンサーとブラック・ウィドウの関係などが掘り下げて描かれていく辺り、非常にグッとくる訳ですよ! そして、何よりも、今までの作品で時間を掛けて描かれてきたドラマもありましたよ。トニー・スタークとローディーの友情だったり、ホークアイとスカーレット・ウィッチの疑似兄妹関係、キャプテンとブラック・ウィドウの恋愛に発展しそうでしない危うい関係とかね。それが、もうどんどん後戻り出来ない境地までズタズタに崩れていくんです。観ていて、ヒヤヒヤですよ。特にラストはシェイクスピアの悲劇かと言うくらいに胸が痛みました。ちゃんと人間ドラマで見せていく上に伏せんとアクションとサプライズの連続ですよ。
もう、盛り沢山ですよ。盛り沢山すぎて、途中で「なんで戦わないといけないんだっけ?」と前半のストーリーを忘れる始末です。
そーゆーシリーズ通して観ている人は「今まで色んな事があって、乗り越えてきた仲間だったじゃん!」と感情移入もヒトシオな訳です。その境地に達するには、ホントは全作品、観といた方が良いんでしょーけど、とりあえず下記の作品を押さえておけば大体OK!
①『アイアンマン』
②『アイアンマン2』(『アイアンマン3』は駄作なので観る必要なし!)
③『インクレティブル・ハルク』(本作は余裕があればでOK!)
④『アベンジャーズ
⑤『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(『アベンジャーズ』の2作目)
⑥『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(『キャプテン・アメリカ』の2作目。)
⑦『アントマン

メチャメチャ続きな切なさ+気になるラストでしたが、まぁ、シリーズものですから。



キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』
★★★★☆
星4つ

『SHARING』(ロングバージョン)&(アナザーバージョン)感想

2016年5月5日(木)にテアトル新宿で『SHARING』のアナザーバージョン(99分)を。5月6日(金)にはロングバージョン(117分)を観賞して来ました。

劇場で観賞しながら、「これは、なかなか観れない斬新な作品を観てるぞ」という気持ちになりました。
というのも311東日本大震災をホラーというか怪奇なダークファンタジーとして撮った作品でして、劇中、都内でのみ話が進行していくので、一見、不謹慎にも思えたのですが、当事者でない日本人の心境をサラリと描き倒した印象があります。
東日本大震災で恋人を亡くし、それ以来、恋人の幻を見る心理カウンセラーの女性と東日本大震災で被災した人を演劇で演じる事になった女子学生の2人を主軸に、ちょっとズレた日常が描かれていきます。心理カウンセラーの女性の方は、「震災の前に予知夢を見た」という人々の研究をしていて、まるっきり震災での出来事を消化できてなく、トラウマから脱出できたない訳です。方や、演劇少女の方は「被災者の気持ちになって演じる事なんて出来る訳ない」と仲間たちと衝突し、孤立化していくんです。「震災をどう受け取るか?」「被災者の気持ちに寄り添えるのか?」みたいなテーマがチラホラと垣間見えて、その問題提議と向き合ってないボクの胸に突き刺さったりします。
それでいて今作が説教臭くないのは、謎の男子生徒のドッペルゲンガー登場、ドコまでが夢か分からない構成、「神は本当にいるのか?」的モチーフ、虚像の記憶など、様々な要素をブチ込み、着地点不明な興味の引っ張っり方にあるんです。デヴィッド・リンチとか黒沢清な雰囲気ですよ。重厚なホラーテイストな音楽も最高でした。迷宮のような大学の入り組んだ構造を上手く使ってる演出もグッド!
個人的には、「現実の話かと思ったら、演劇の作中劇でしたー」とか「現実に起きた事かと思いきや夢でしたー」という構成や震災という現実にあった出来事を映画の中で語り、また、その映画の中で演劇として再構築している辺り、ウディ・アレンの『スターダスト・メモリー』やゴダールの映画を思い出しましたけど、まぁ、意識されてないでしょー。
ただ、観ている時に気になっていた「冒頭のイマジナリーラインを越えてる理由」や「画面に写ってない物の音」や「一眼レフカメラによる手持ちのぎこちなさ」「カット割りの乱暴さ」等の本筋と関係ない所なんかに観賞しながら意味を見出そうとしてたものだから、集中力を妨げられました。まぁ、そこら辺の事は、どーやら「こだわり」があったらしく大体、パンフレットに答えが載ってましたが。
ちなみに、アナザーバージョンはロングバージョンの主人公2人の話のみに構成したバージョンでして、ドペルゲンガーが出てこなかったり、アナザーバージョンにしか出てこないシーンがあったりします。が、主人公2人の話に集約したアナザーバージョンは他の摩訶不思議シーンをカットしてある為、1つ1つシーン(特に会話シーン)が長くなった印象でダレました。別に見なくて良かったとまで思いました。
ロングバージョンのハッピーエンドなのかバッドエンドなのかも分からない衝撃的なラストもグッときました。
あと、ホント、会話のシーンだけサクサク進んでくれたら……。


『SHARING』(ロングバージョン)
★★★☆☆
星3つ

『SHARING』(アナザーバージョン)
★★☆☆☆
星2つ

【過去作品】『怪談 せむし男』感想

2016年5月2日(月)、ラピュタ阿佐ヶ谷で開催されている「OIZUMI 東映現代劇の潮流」というプログラムで1963年のモノクロ映画『怪談 せむし男』が上映されていたので、行ってきました。

この映画、前々から見たかったんですよ! なぜなら、今作で主演の西村晃が好きだから!!
まぁ、西村晃と言えば一般的には『水戸黄門』のイメージかもしれませんけど、実は黒澤明深作欣二今村昌平などの作品にもバンバン出ている名優ですよ!
所が何故か時々、『散歩する霊柩車』とか『怪談 蛇女』とか『怪談 片目の男』とかB級ホラー映画に出演してたりするんですよ。そして、ほとんどがことごとく未ソフト化作品。そんな西村晃の本作の役所はタイトルの「せむし男」役です。
バッチしホラーメイク(むしろドラキュラ風味)して、背中に入れ物して、腰を丸めて、「これは仮装か?」と言う、もはや悪ふざけなワンマンショー。もう芝居も上手いんだかフザけてるんだか分かりません。それ所かストーリーも、複雑な話なのか分かりにくいだけなんだかも分からないくらい、あって無いよーなモノ。
未亡人が変死した旦那の死の真相を探る為、愛人との浮気用に隠れて使っていたという別荘へやって来る所から始まるのですが、ドアを開けると既にそこには、せむしの西村晃が!!
しかも、下からライトを当てたお化け風照明!
「キャー!!」
「お待ちしておりました、奥様。どーぞコチラへ」
という、お約束のパターンで中へ招き入れて、未亡人が振り返ると居ない!
「あれ?!」
突如、屋敷の上の階から西村せむし晃の高笑い「ケッケケケケケ!!」
だから、何なんだよ! 怖がらせたいのか、笑わせたいのか?!
未亡人を襲うカラス(部屋の中なのに)。
グチャッ!!
カラスを鷲掴みにしてる西村せむし晃!
怖い!!(けど笑いそう。)
クライマックスには、看護婦の服を破り脱がし、ポッチャリ美人な未亡人の服を破り脱がすという破天荒すぎるキテレツ・シーンが待ってます!
なんで、そんな事をしたのか設定的には意味が分かりませんが、何か、あの顔で迫ってくると怖いです!
終始、こんな感じで、全然、話が頭に入ってこなかったですよ。 まぁ、そーゆー予想以上に中身の無い映画なんです。
西洋館、ロウソク、カラス、十字架、地下の独房、入り口入ってすぐドーンと置いてある巨大な雪男風な怪物の彫刻……とヨーロピアンなアイテム&モチーフを大量投入。「怪談」というよりは「ゴシック・ホラー」な作風で、ハマー・フィルムとかロジャー・コーマン的な楽しみ方です。


『怪談 せむし男』
★★☆☆☆
星2つ

『マジカル・ガール』感想

2016年4月18日(月)、ヒューマントラスト有楽町で『マジカル・ガール』を観賞して来ました。

これは、ちょっと仕事が忙しくても観に行きたいと仕事帰りに駆け込んだ訳です。ボクを含めても3人しか居なかったですよ。やれやれ。

これは、ちょっとあれですね。変な映画を観たなって感じです。深夜、テレビ替えてたらタイトルも知らない映画がやってて、流し見程度に見てたら、段々、目が離せなくなる。見終わって、なんか変な映画を見ちゃったなーという謎の満足感。あれに似た感じですね。何が「変な映画」って、良い意味で不親切。淡々と見てたら、次々と謎が出てくるんですよ。歩み寄らないといけない。「ん? これは、どーゆー事だ? こーゆー事なのかな?」と。謎といっても作中で描いてないだけで、ストーリー中では省略してるだけなんですよね。
冒頭、白血病で余命1年もない中学生くらいの女の子と無職のオヤジの話から始まるんです。娘の願望ノートをオヤジが発見するシーンから泣いちゃってましたよ。「悲しい気持ちになる映画なのかなー」と思ってたら、話が飛んでもない所へ転がっていくんですよ。娘はマドマギ風の『魔法少女ユキコ』なるアニメのキャラに憧れてて、願望ノートにそのコスチュームを着て自分を夢みてるんですよ。そんで、コスチューム(有名デザイナーによる一点モノにつき90万円!!)を買ってやりたいけど、絶望的に金の無いオヤジは奮闘するんです。
所が、泣く準備が整った辺りで、急に新しい章のテロップが出て、美人なんだけど影のありまくる専業主婦の話が勝手に始まるんですよ。心の病なのか知らないけど、友達の家で奇怪な発言をして周りをドン引きさせたり、旦那も変な奴で「欠かさず薬だけ飲んでれば何をしても良い」と謎の薬を飲ませ続けるんですね。スクリーン全体から漏れ出る危うさ。「だから、ナンナンダ、この映画は?!」と。でも、進むにつれて、話が繋がってくるんですねー。
監督は「脅迫をモチーフにしたフィルム・ノワールを作りたいと思った。というのも登場人物たちをモラル面で極限状態に置くのに最適なタイプの映画だからだ。そうすると普通の人が日常生活では到底なし得ない決心を下す必要がある。」と語ってます。おっしゃってる通り、話はどんどんダークで真っ黒な世界観へ変わっていくんです。もう、不安で胸がいっぱいになりました。後味がバツグンに悪いですよ!
小さな謎だらけなのに謎に触れない中、サクサク話が進んでいく危うさ。ラストへ向かい集約されていく展開のカタルシス。見せないインパクト。エロ描写もハッキリと見せない色気、暴力描写も直接的に見せない怖さ。音楽も、BGMがほとんど入らない緊張感。逆にポイントでガッツリつかわれる長山洋子のアイドル時代のデビュー曲「恋はSA‐RA SA‐RA」。これ、スペイン映画ですよ?!
監督は日本文化オタク(主にサブカル)らしく、YouTubeでアイドル・ソングを漁りまくってたら見つけたそーですよ。作中には美輪明宏の映画『黒蜥蜴』オマージュも。
パンフのインタビューには江戸川乱歩とか丸尾末広手塚治虫寺山修司今敏の名前がポンポン出てくるから凄いです。どーりでダークな訳だ。逆に日本では昨今、あまり見れなくなった怪奇映画のテイストが懐かしくなったのも納得。パンフレット自体は薄いのですが、町山智浩さんによる批評、本作の監督=カルロス・ベルムトと園子温の対談など気になる企画が豊富。掘り下げたくなる映画だけに、貴重な情報源になる1冊。


『マジカル・ガール』
★★★☆☆
星3つ

『バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生』(4DX3D )感想

2016年4月6日(水)、ユナイテッドシネマ豊洲で『バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生』を4DX/吹き替え版で観賞して来ました。

映画としては出来損ないだけど、アメコミ・ファンへのサービスは過剰な1本でした。
本作は「スーパーマン」モノの前作である『マン・オブ・スティール』の続編でもあり、クリストファー・ノーラン監督の『ダークナイト』のバットマン・シリーズとは別モノという位置づけが、まず分かりにくいですよね。アメコミ・ヒーローものを短い期間で大量生産し過ぎなんですね。更に付け加えると、原作やアメコミを知らない人は「?」となるんじゃないかと思うシーンが幾つかある始末ですよ。
それには色々な原因が考えられますが、1番の問題は本作の監督であるザック・スナイダーが冷静さを失う程のアメコミ・オタクだという事です。
そもそも、「バットマンVSスーパーマン」とか言ってるけど、原作のコミックの中では結構、共演したり戦ったりしてるんです。その決定版なのが『ダークナイト・リターンズ』ってコミック。タイトルがカブってるけど、映画『ダークナイト』とは全く別物のお話です。ザック・スナイダー監督はアメコミ・オタクでは有名で、過去には前作『マン・オブ・スティール』を始め、『ウォッチメン』や『300(スリー・ハンドレット)』とかのアメコミ原作映画を作ってきた人。インタビューでも「『ダークナイト・リターンズ』の影響がメチャクチャ大きいよ」とか語ってますが、本作を観てみたら、「まんまじゃねーかよ!」という話でした。
コミック『ダークナイト・リターンズ』でのバットマンは老人でヒーロー活動を引退しており、悪が根絶できないと悩んで、もの凄い葛藤するんですね。ここら辺のリアルな悩めるヒーロー像をクリストファー・ノーラン監督は映画の中に持ち込み、作ったのが『ダークナイト』シリーズなんです。すぐにウジウジ悩むから何で悩んでたのか忘れましたけど。法では取り締まれない悪人たちを根絶……と言うか文字通り叩きのめす為に老人バットマンはアイアンマン並みにパワーアップさせたアーマースーツを着て、活動再開。しかし、その前に立ちはだかるのは政府の下請けに成り下がったスーパーマン。このコミックには、法の名の下に正義を守るスーパーマンと時には法を犯しても悪党を始末するバットマンの対決が描かれているんです。
だから、本作に登場する対スーパーマン用のアーマースーツなんて、「あっ! コミックに出てきたやつだー!」とテンション上がる訳です。写真で見てた観光地を実際に訪れた感覚。
更にテンション上がったのはベン・アフレック演じるゴツくてデカいバットマン! ティム・バートン版のマイケル・キートンやノーラン版のクリスチャン・ベールの演じる神経質な偏屈系のバットマンのイメージが強い人には、ちょっとあれかもしれないですが、コミックのバットマンは割りと力技の人でゴツいんです。ジョエル・シューマッカー版のヴァル・キルマージョージ・クルーニーの男臭いを通り越して野獣臭い方が近い印象だったんです。
最初、ベン・アフレックのような大根役者がキャスティングされた時はYシャツに醤油をかけられた気分でしたが、これがなかなかイイネ! 飛び道具をあまり使わない! とりあえず、力いっぱい殴る! 「あっ、コミックに出てきたバットマンだ!」と感激しました。
今作の悪役は、スーパーマンの宿敵=レックス・ルーサー。過去の映画版ではジーン・ハックマンやケビン・スペンシーなどオッサン俳優たちが演じてきた役どころですが、本作では天才と童貞を演じさせたら右に出るものはいないジェシー・アイゼンバーグと若返り設定。バットマンベン・アフレックで高齢化させた分、若造に振り回される中年たちにも見えなくはないのですが、ある種の対比になっているのでしょう。スーパーなパワーなんて無いくせに姑息な作戦でスーパーマンを翻弄し、権力や地位を手に入れようと目論むネズミ男的な人物として描かれてきた宿敵ルーサーのキャラ。ですが、本作ではチャラチャラした混沌を好む目的不明のクレイジーな天才肌にシフトチェンジされています。このキャラ設定がジェシーの演技もあって『ダークナイト』のジョーカーと丸かぶり。これを「ルーサーはこんなキャラじゃない!」と思うか、「さすがザック! 味付けにジョーカー風味まで足すのか!」と思うかで大分、好みの別れる所ではあります。過去のルーサーが汚い大人や悪徳政治家のシンボルだった事を考えると、悩みまくりの陰気な2大ヒーローの敵役に金と権力と女をはべらす若者=リア充が悪フザケの延長で悪事を働くというのは、ザックのオタクレーダー的には非常に正しいですね。
ジョーカーと言えば、バットマンの基地(バット・ケープ)の中にジョーカーに落書きされたと思われるバットマンのスーツが飾られてるのがチラッと見えるシーンがありましたが、あれは20年もバットマンとして戦ってきた本作の設定を活かしたザックのオタク・サービスでしょう。
ただ、本当の意味でザックのオタク・アイデンティティーが爆発(脱線)するのは、唐突に加勢してくれるイカした美女=ワンダーウーマンの浮きまくりの登場シーン。もはや、作風さえ変わってしまう訳です。バットマンとスーパーマンの「お前の連れか?」というヤリトリがモテない男子学生に変わる瞬間でもあります。過去に『エンジェル・ウォーズ』という作品でオタク事故を起こしたザックの発作と思うと微笑ましささえ感じました。そんなザック・スナイダーのフライングしたアメコミ愛が「とりあえず、アレも入れよう。コレも入れよう。」の連発でストーリーにまとまりが無くなり、破綻。バットマンの話をしてたかと思うとスーパーマンの話になってて、ルーサーのエピソードと謎の美女もチラ見せしつつー、低偏差値の腕力怪獣も出してー……と、とにかく長い映画になってしまったんですね。アイデンティティー探しに悩むヒーロー像ってのもノーラン以降の流行りパターンだし、国家にとってのスーパーパワーを持つヒーローの脅威問題も『アイアンマン』や『ウォッチメン』とかで手あかが付いてます。展開も2大ヒーローものの有りがちパターンだしで、ストーリーは予想できるレベル。しかも、全編通して暗い。バットマンはダークヒーローだから暗くても良いですが、スーパーマンはノーテンキな程、明るいヒーローだったはずなのに。唯一、面白い要素はスーパーマンを神と比喩した宗教エッセンスだったんですけど、それもストーリーには大して絡んでこずで。そもそも、「スーパーマンがビルを吹っ飛ばしたりして戦ってる間に巻き添えで死んでる人間もいるんだ!」という『ガメラ2』な設定からスーパーマン不信が始まったはずなのに、その問題もうやむやにされた感があります。
ザックお得意の写ってる物はオールCGだけど手持ち撮影風のリアリティーで対抗演出や突然のスローモーションによるエモーショナル演出も効力薄めな結果に。

4DXに関しては、アクション・シーンが単調なせいもありますが、4DX効果も単調で乱気流に突っ込んだ飛行機くらいの揺れがずっと続いてる感じでした。むしろ、ちょっと酔いました。
ただ、日本語吹き替えは大作にも関わらず浮ついたタレントを起用せず、ちゃんと実績のある声優さんばかりだったので、安定のクオリティーでした。こーゆー吹き替え映画ばかりだと良いのですが。
パンフは監督・キャストのインタビューやイントロダクション、初期設定アートコンセプト、過去作品紹介、長谷川町蔵渡辺麻紀さんにより批評なんかが掲載されてましたが、大量の写真で水増しされた薄めの印象。情報もネット検索程度なので、本作ヒットの方のみお勧めレベルでした。

バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生』(4DX・吹き替え版)
★★☆☆☆
星2つ

『ヘイトフル・エイト』感想

2016年3月20日(日)、『ヘイトフル・エイト』をユナイテッドシネマ浦和で観賞して来ました。

クエンティン・タランティーノこと我らがワガまま番長タラちゃんの新作。
キル・ビル』や『ジャンゴ』など張っ倒したくなるような作品群を経て、今作は密室サスペンス劇ですよ。
しかも長い! 168分もあるんですよ! でもね、全然、長くても観れる作品でしたよ!
ほとんどの場面が雪山の小屋の中で繰り広げられるのに、それだけ見応えありました!
舞台は南北戦争から間もない雪山。吹雪で雪山の小屋に閉じ込められた8人の心理戦なんです。それの何が問題って、べらぼーな賞金の懸けられた女を護送している賞金稼ぎが神経質に心配性をオプション追加したよーな乱暴者なもんですから、偶然、居合わせた客に「お前、ドコへ行く予定なんだ? 何者だ?」と1人1人尋問していくんですよ。所が、どいつもこいつも胡散臭さプンプンで、びた一文信用できない奴ばっかなんですよ。
タイトルの『ヘイトフル・エイト』とは「憎しみに満ちた8人」という意味。憎しみが満ちてますからね。物騒ですよー。全員、悪党。つまり、タラちゃん版『アウトレイジ』なお話なんです。
前半は、賞金稼ぎの司会進行により自己紹介していく胡散臭いメンツの腹の探り合いと言うか、信用度チェックなんですけど、明らかなウソ発言だらけだし、尋問のはずなのに、どーも謎ばかりが増えていく。そもそも、重要人物である賞金の懸けられた女が何の罪を犯したのかも語られないんです。それ所か、「奴隷制の存続を巡り北軍と南軍に分かれて争われた南北戦争」から数年しか経過してないのに、元北軍の黒人と元南軍の差別主義者がヒリヒリするトークバトルをし出したりと、全く落ち着かない状況に。そんな中で、賞金稼ぎが「信用できないから、お前の銃をよこせ」とか空気読めない発言したりするから、いつ何が起きてもおかしくないピリピリムードが延々と続くんですよ。ドアが閉まらないだけで怒鳴ってましたよ。
後半は急展開。新たなミステリーが追加され、ある異常な事件が勃発。疑心暗鬼の雨の中、彼らの正体や今までの謎が怒涛の如く明らかになっていくのと同時に予想を軽やかにフライングしたバイオレンスでクライマックスへ雪崩れ込んでいくんです。前半とは違う意味で気が気じゃない1回で2度おいしいカツカレー方式。
特に今作で異例なのは70mmウルトラ・パナビジョンという横にガッツリ長い画面サイズなんですよ。分かりやすく言うとパノラマな感じ。なもんで、ほとんどのカットで小屋の右の壁から左の壁まで映ってるんですね。手前にいる登場人物と奥にいるいる登場人物とで違う事をしてたりするから、「怪しい動きを探してね」な参加型な構成になってるんです。正体不明のウソつきだらけですからね、もう半ばアトラクションですよ。まぁ、映画館で観ないと、あまり効果は無いでしょうが(……と言うかテレビで観たら逆に分かりにくくなるのでは)。
さすがタラちゃんなのは、話も後半に差し掛かって、急に「これは、こーゆー事なんです。」とナレーションで状況を説明し出すんですよ。いや、脚本上、そーするのは分かりやすいけど「えっ?! そーゆー映画だっけ?!」と焦りましたよ。「自由すぎるだろ!(笑)」と。
そんな、のっぴきならないストーリーの中にドスンと横たわる差別と欲望という重たいテーマを盛り込んでいる辺りは妙に現代とリンクしていて、突き刺さるものがあります。
それ以外にも、タラちゃん念願の映画音楽界の巨匠エンリオ・モリコーネによる伸び伸びと作った感じが窺える書下ろし楽曲や、種田陽平による秀逸すぎる完ぺきな小屋のセット、空間を彩る控えめな照明、ラストで抜群の効果を発揮しているスプリット・レンズなど、作品世界を楽しむグッとくるポイント満載。


ヘイトフル・エイト
★★★★☆
星4つ