ユンギボの映画日記

ユンギボ(@yungibo)によるあらすじ紹介、ネタバレなしのレビュー、解説・考察をお届け‼

『サウルの息子』感想

2016年2月29日(月)、新宿シネマテリカで『サウルの息子』を観賞して来ました。

アカデミー賞外国映画賞&ゴールデングローブ賞外国映画賞受賞。カンヌ国際映画祭グランプリ受賞。
と快挙を成し遂げてるのが本作。

こらまた難儀な撮影方法が凝ってる映画です。
始まって早々、どーやら森の中なんですけど、1カット目からピントが合ってないんですね。「おやおや、どーしたー?」と思っていたら、男がフレーム・イン。彼が本作の主人公のサウルなんですが、彼にはしっかりとピントが合っています。カメラはサウルが歩いて行く方向に同行していくんですね。周りを流れていく大勢の人々を誘導している様子のサウル。その大勢の人達を「シャワー室」と呼ばれる部屋へ入れて行く時に、ここがユダヤ人の強制収容所で、「シャワー室」は「ガス室」だと初めて気づくのです。
今作は、ナチスの命令によりユダヤ人大量殺害の実行を指示されていた「ゾンダーコマンド」と呼ばれる人達の話です。ユダヤ人を殺しまくってたナチスの中でPTSDが流行り、なんとナチスガス室送りのユダヤ人の殺害を同じユダヤ人にやらせてたんですね。本作の主人公=サウルの仕事は移送されてきた同胞のユダヤ人をシャワー室だと騙してガス室で殺し、次の移送列車が到着する前に遺体を処理し、ガス室に残った血や糞尿を掃除する事。
もう、ただでさえゲンナリなんですけど、カメラが主人公を延々と追いかけ回してるので、観客も追体験させられる訳ですね。相変わらず主人公の表情と主人公が見てる物にしかピントが合わないので、ガス室へ入れられるユダヤ人たちや死体の山などはうっすらしか見えないんですよ。
ハウルは無表情で作業を淡々と進めるだけで、他の物にピントが合わないので、主人公が周りを見ないよーにしてる事が示唆されてる訳です。完全に心を閉ざしてるんですよ。でも、音がリアルで「ドアを叩く音」や「人々の叫び声」が状況を想像させるんですね。
なんだ、この体験映画は?!
今作は画面比率がスタンダード・サイズ(ほぼ正方形に近いブラウン管のテレビの画格)になっていて、横長の画面サイズに馴れた今、スタンダード・サイズで主人公の視点を意識させるのも効果的だと思いました。
ストーリー的には、そんなサウルが少年の死を目撃してから変な動きをし出すんですね。そんで、ある目的の為、ナチの目を盗み、収容所の中をあっちこっち動き回るんです。「サウル、どーした?」と思いながら見てると、収容所内のレジスタンスたちは、また別の動きを画策していて、そいつらと接触するサウルの行動を通して、ある歴史の事件へと発展していく展開なんですな。
ただ、凝った撮影方法が一貫され過ぎてて、画的な変化が少ないのが、ちょっと辛かった。

パンフレットは歴史的な整合性の紹介や監督の想いや考え方の解るインタビュー等が掲載されてて、薄い割りに、なかなか濃い内容だったので買いだと思います。

サウルの息子
★★★☆☆