ユンギボの映画日記

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『マジカル・ガール』感想

2016年4月18日(月)、ヒューマントラスト有楽町で『マジカル・ガール』を観賞して来ました。

これは、ちょっと仕事が忙しくても観に行きたいと仕事帰りに駆け込んだ訳です。ボクを含めても3人しか居なかったですよ。やれやれ。

これは、ちょっとあれですね。変な映画を観たなって感じです。深夜、テレビ替えてたらタイトルも知らない映画がやってて、流し見程度に見てたら、段々、目が離せなくなる。見終わって、なんか変な映画を見ちゃったなーという謎の満足感。あれに似た感じですね。何が「変な映画」って、良い意味で不親切。淡々と見てたら、次々と謎が出てくるんですよ。歩み寄らないといけない。「ん? これは、どーゆー事だ? こーゆー事なのかな?」と。謎といっても作中で描いてないだけで、ストーリー中では省略してるだけなんですよね。
冒頭、白血病で余命1年もない中学生くらいの女の子と無職のオヤジの話から始まるんです。娘の願望ノートをオヤジが発見するシーンから泣いちゃってましたよ。「悲しい気持ちになる映画なのかなー」と思ってたら、話が飛んでもない所へ転がっていくんですよ。娘はマドマギ風の『魔法少女ユキコ』なるアニメのキャラに憧れてて、願望ノートにそのコスチュームを着て自分を夢みてるんですよ。そんで、コスチューム(有名デザイナーによる一点モノにつき90万円!!)を買ってやりたいけど、絶望的に金の無いオヤジは奮闘するんです。
所が、泣く準備が整った辺りで、急に新しい章のテロップが出て、美人なんだけど影のありまくる専業主婦の話が勝手に始まるんですよ。心の病なのか知らないけど、友達の家で奇怪な発言をして周りをドン引きさせたり、旦那も変な奴で「欠かさず薬だけ飲んでれば何をしても良い」と謎の薬を飲ませ続けるんですね。スクリーン全体から漏れ出る危うさ。「だから、ナンナンダ、この映画は?!」と。でも、進むにつれて、話が繋がってくるんですねー。
監督は「脅迫をモチーフにしたフィルム・ノワールを作りたいと思った。というのも登場人物たちをモラル面で極限状態に置くのに最適なタイプの映画だからだ。そうすると普通の人が日常生活では到底なし得ない決心を下す必要がある。」と語ってます。おっしゃってる通り、話はどんどんダークで真っ黒な世界観へ変わっていくんです。もう、不安で胸がいっぱいになりました。後味がバツグンに悪いですよ!
小さな謎だらけなのに謎に触れない中、サクサク話が進んでいく危うさ。ラストへ向かい集約されていく展開のカタルシス。見せないインパクト。エロ描写もハッキリと見せない色気、暴力描写も直接的に見せない怖さ。音楽も、BGMがほとんど入らない緊張感。逆にポイントでガッツリつかわれる長山洋子のアイドル時代のデビュー曲「恋はSA‐RA SA‐RA」。これ、スペイン映画ですよ?!
監督は日本文化オタク(主にサブカル)らしく、YouTubeでアイドル・ソングを漁りまくってたら見つけたそーですよ。作中には美輪明宏の映画『黒蜥蜴』オマージュも。
パンフのインタビューには江戸川乱歩とか丸尾末広手塚治虫寺山修司今敏の名前がポンポン出てくるから凄いです。どーりでダークな訳だ。逆に日本では昨今、あまり見れなくなった怪奇映画のテイストが懐かしくなったのも納得。パンフレット自体は薄いのですが、町山智浩さんによる批評、本作の監督=カルロス・ベルムトと園子温の対談など気になる企画が豊富。掘り下げたくなる映画だけに、貴重な情報源になる1冊。


『マジカル・ガール』
★★★☆☆
星3つ