ユンギボの映画日記

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6/11『ゲティ家の誘拐』

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『ゲティ家の誘拐』を観賞。

巨匠=リドリー・スコット監督による実録誘拐事件をサスペンスフルに映像化。

1973年のローマ。美少年が男たちに誘拐される所から始まります。誘拐されたのは、”世界一の大富豪”と言われた石油王のジャン・ポール・ゲティの孫。身代金は1,700万ドル(当時のレートで約50億円)。……というタイトル通りなお話。

しかし、この事件でセンセーショナルだったのは、ゲティさんが「金は一銭も払わない」と発表した事。実はゲティさん、超ドケチだったんです。それでは困ると誘拐された少年の母親はゲティさんに「金を出せ!」と訴えるんですけど、取り合ってもらえません。
そこで、ゲティさんの依頼を受けた元CIAの男とお母さんが犯人グループと交渉にあたるエピソードと犯人グループの元で監禁されてる少年のエピソードが同時進行で展開。

本作の脚本を担当したデヴィッド・スカルパ
「最も難しかったのは全体のバランスで、スリラーとシェイクスピア的な家族ドラマの間を行ったり来たりする構造をめざした」
との事。おっしゃる通り、重厚な語り口の中で、ハラドキな緊張感あふれたサスペンスになっておりました!

さらに、本作には製作時のドタバタも話題になりましたね。2017年12月に全米公開が決まった状況で、10月にゲティさん役のケビン・スペイシーのセクハラ問題が発覚。急遽、10億円かけて、クリストファー・プラマーを代役にして再撮影。わずか9日間でゲティさん出演部分の追加撮影を行い、何とか公開に間に合った訳です。そんな事件があったにも関わらず、むしろ、プラマーは88歳でのアカデミー賞の演技部門ノミネート者で歴代最高齢記録を更新。

急な代役を頼まれたプラマーは
「撮影日数は限られていたが、ありがたいことに私は記憶力が良く、次から次へと撮影を進行してくれるので、連続して演技ができ、(中略)全体の流れがスムーズで助かった」
「リドリー(本作のリドリー・スコット監督)はビジョンがはっきりしており、頭の中ですでに編集をしているので何度もテイクを重ねる必要がなかった。」
と謙虚に語ってます。

お母さん役のミシェル・ウィリアムズ
「朝、撮影現場に着くと、『さあ仕事が始まるよ。カメラはこのアパートの至る所に隠されている。最初はここから始めてもらって、終わりはあそこかな。リハーサルもカメラを回しながらやろうか?』って具合に仕事を進めることが多かった。気に入ったカットが撮れると、『さあ、次はどこだっけ?』ってどんどん先へ進めて、1~2テイクで終わらせちゃうの!」
リドリー・スコット監督の現場を語ってます。

当のリドリー・スコット監督は
「映画会社がケビン・スペイシーをゲティ役に推してきた時は、うーんと思ったが、クリストファー・プラマーはイメージどおりだった。」
クリストファー・プラマーのおかげで全然違う映画になった。スペイシーのゲティはひたすら冷酷なだけだった。しかしプラマーには心の奥に隠した温かさ、寂しさ、人間味がある。ユーモアもね。おかげで、本当に哀れな男として深みが出た。」
と本当はプラマーが良かった発言をしてるんです。

ちなみに、元CIAのゲティさんお抱え調査員を演じるマーク・ウォールバーグにも一悶着あったんです。ウォールバーグは追加撮影に対して、通常のギャラである150万ドル受け取っていたんです。でも、お母さん役のウィリアムズのギャラは1000ドル以下。スコット監督はほぼノーギャラ。そんなギャラ格差事件が明らかになり、ウォールバーグはヤバいヤバいと、追加撮影分のギャラ=150万ドルをセクハラ撲滅運動「Time's Up」の基金に寄付。何とか収まりました……という。
そーゆーうるさ過ぎるバックボーンを知ってみると、やたらに感慨深い一本になっておりました。


『ゲティ家の誘拐』
★★★☆☆
星3つ

※写真は特殊メイクごてごてのケビン・スペイシー版と代役のクリストファー・プラマー版。
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