ユンギボの映画日記

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『ヘイトフル・エイト』感想

2016年3月20日(日)、『ヘイトフル・エイト』をユナイテッドシネマ浦和で観賞して来ました。

クエンティン・タランティーノこと我らがワガまま番長タラちゃんの新作。
キル・ビル』や『ジャンゴ』など張っ倒したくなるような作品群を経て、今作は密室サスペンス劇ですよ。
しかも長い! 168分もあるんですよ! でもね、全然、長くても観れる作品でしたよ!
ほとんどの場面が雪山の小屋の中で繰り広げられるのに、それだけ見応えありました!
舞台は南北戦争から間もない雪山。吹雪で雪山の小屋に閉じ込められた8人の心理戦なんです。それの何が問題って、べらぼーな賞金の懸けられた女を護送している賞金稼ぎが神経質に心配性をオプション追加したよーな乱暴者なもんですから、偶然、居合わせた客に「お前、ドコへ行く予定なんだ? 何者だ?」と1人1人尋問していくんですよ。所が、どいつもこいつも胡散臭さプンプンで、びた一文信用できない奴ばっかなんですよ。
タイトルの『ヘイトフル・エイト』とは「憎しみに満ちた8人」という意味。憎しみが満ちてますからね。物騒ですよー。全員、悪党。つまり、タラちゃん版『アウトレイジ』なお話なんです。
前半は、賞金稼ぎの司会進行により自己紹介していく胡散臭いメンツの腹の探り合いと言うか、信用度チェックなんですけど、明らかなウソ発言だらけだし、尋問のはずなのに、どーも謎ばかりが増えていく。そもそも、重要人物である賞金の懸けられた女が何の罪を犯したのかも語られないんです。それ所か、「奴隷制の存続を巡り北軍と南軍に分かれて争われた南北戦争」から数年しか経過してないのに、元北軍の黒人と元南軍の差別主義者がヒリヒリするトークバトルをし出したりと、全く落ち着かない状況に。そんな中で、賞金稼ぎが「信用できないから、お前の銃をよこせ」とか空気読めない発言したりするから、いつ何が起きてもおかしくないピリピリムードが延々と続くんですよ。ドアが閉まらないだけで怒鳴ってましたよ。
後半は急展開。新たなミステリーが追加され、ある異常な事件が勃発。疑心暗鬼の雨の中、彼らの正体や今までの謎が怒涛の如く明らかになっていくのと同時に予想を軽やかにフライングしたバイオレンスでクライマックスへ雪崩れ込んでいくんです。前半とは違う意味で気が気じゃない1回で2度おいしいカツカレー方式。
特に今作で異例なのは70mmウルトラ・パナビジョンという横にガッツリ長い画面サイズなんですよ。分かりやすく言うとパノラマな感じ。なもんで、ほとんどのカットで小屋の右の壁から左の壁まで映ってるんですね。手前にいる登場人物と奥にいるいる登場人物とで違う事をしてたりするから、「怪しい動きを探してね」な参加型な構成になってるんです。正体不明のウソつきだらけですからね、もう半ばアトラクションですよ。まぁ、映画館で観ないと、あまり効果は無いでしょうが(……と言うかテレビで観たら逆に分かりにくくなるのでは)。
さすがタラちゃんなのは、話も後半に差し掛かって、急に「これは、こーゆー事なんです。」とナレーションで状況を説明し出すんですよ。いや、脚本上、そーするのは分かりやすいけど「えっ?! そーゆー映画だっけ?!」と焦りましたよ。「自由すぎるだろ!(笑)」と。
そんな、のっぴきならないストーリーの中にドスンと横たわる差別と欲望という重たいテーマを盛り込んでいる辺りは妙に現代とリンクしていて、突き刺さるものがあります。
それ以外にも、タラちゃん念願の映画音楽界の巨匠エンリオ・モリコーネによる伸び伸びと作った感じが窺える書下ろし楽曲や、種田陽平による秀逸すぎる完ぺきな小屋のセット、空間を彩る控えめな照明、ラストで抜群の効果を発揮しているスプリット・レンズなど、作品世界を楽しむグッとくるポイント満載。


ヘイトフル・エイト
★★★★☆
星4つ