ユンギボの映画日記

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家族ぐるみの付き合いをしていた専属運転手から見た巨匠=スタンリー・キューブリックのドキュメンタリー映画『キューブリックに愛された男』

今年は、スタンリー・キューブリックが亡くなって20年。4月にはイギリスで「スタンリー・キューブリック展」が行われ、世界各地で開催。5月にはカンヌ国際映画祭にて『シャイニング』の4K版が上映、Blu-rayとしてソフト化。『シャイニング』の40年ぶりの続編『ドクター・スリープ』も11月公開とキューブリック・イヤーな今年。
そんな中、現在公開中なのは、巨匠=スタンリー・キューブリックの信用を勝ち取り、家族ぐるみの付き合いをしていた専属運転手の男のドキュメンタリー映画キューブリックに愛された男』。試写会へ行けなかったので、ヒューマントラスト有楽町で観てきました。

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(C)2016 Kinetica-Lock and Valentine

本作は、タイトル通り、キューブリックの専属運転手をしながら、映画製作だけでなく身の回りの雑用までこなしていたエミリオ・ダレッサンドロさんとキューブリックとの交流が描かれます。

 

スタンリー・キューブリックとは?

映画好きには言わずと知れた完璧主義者として知られる20世紀を代表する映画監督・スタンリー・キューブリック。LOOK誌のカメラマンから映画界に転向。『時計じかけのオレンジ』、『バリー・リンドン』、『シャイニング』、『フルメタル・ジャケット』など数々の革新的作品を監督。遺作となった『アイズ・ワイド・シャット』の完成した直後の1999年3月7日に、心臓発作のため死去。享年70歳。

誰もが天才と認める名監督ながら、異常な執着心と、細部への執拗なこだわりの持ち主。数々の偉業を成し遂げると同時に、周囲の者へも妥協を許さない姿勢から、“気難しい天才”のイメージがあります。

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(C)2016 Kinetica-Lock and Valentine

 

あらすじ・ストーリー(ネタバレなし)

本作の主人公は、イタリア人のエミリオ・ダレッサンドロ。様々な仕事を転々とし、F1レーサーになったエミリオさん。それだけでは食べていけず、タクシー運転手へ。そんなある日の雪の夜。会社から言われ、ある荷物を運ぶ事に。それが映画『時計じかけのオレンジ』の巨大なペニスのオブジェだったのです。その仕事ぶりを気に入ったキューブリックは、後日、エミリオさんをスカウト。手には、F1レースのエミリオさんの記事の切り抜き。「これは君か?」と訪ねてきたというから用意周到。正式に運転手として雇われます。そこから2人の30年にも及ぶ主従関係と友情がスタート。

多目的作業用自動車=ウニグモの運転を任されるエミリオさん。誰も使いこなせなかったウニグモを動かしたエミリオさんに感心するキューブリック。館の車の世話をしているうちに、雑用仕事も頼まれるように。しかも、キューブリックの意図を知らないまま。

例えば、ロウソクを安定供給してくれる会社を探すように言われたら、それが『バリー・リンドン』の為だったり。或いは、近所で見つけたガス工場跡地の偵察がのちの『フルメタル・ジャケット』の為だったり。そのうち、雑用は屋敷の用事や家族の事、飼ってた動物たち(犬や猫、ウサギ、ロバ……って、動物園かよ!!)までに渡り、すっかりキューブリックの信用を得る訳です。

そんな調子で正反対に思える2人の20年が描かれていきます。

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(C)2016 Kinetica-Lock and Valentine

 

キューブリック家のルール

人に厳しいキューブリックが家族にも守らせていた12条のルールが下記のもの。

1.ドアを開けたら閉めること
2.明かりをつけたら消すこと
3.錠を開けたら、かけること
4.物を壊したら直すこと
5.自分で直せなければ直せる人を呼ぶこと
6.物を借りたら返すこと
7.物を使うなら大事に扱うこと
8.散らかしたら片づけること
9.動かしたら元の場所へ戻すこと
10.他人の物を使う時は許可を得ること
11.使い方が分からぬ時は手を出さぬこと
12.自分が関与せぬことには干渉しないこと

 

予告編動画


映画「キューブリックに愛された男」「キューブリックに魅せられた男」90秒予告

 

作品構成

エミリオさんのカレージはお宝の山。つまり、手紙に資料、小道具、衣装の数々(中には『シャイニング』のTシャツまで!!)。その中に残されていたであろうキューブリックの大量の指示のメモにより、物語は当時を回想していく展開。主にエミリオさんとその奥さん本人たちの証言インタビューと当時の写真で構成されています。キューブリック作品の映像の引用はされず。その代わり、ガレージに仕舞われてたであろう秘蔵写真の数々はファン必見。

ちなみに、インタビューに答えるエミリオさん夫婦の床に敷かれた絨毯は、『シャイニング』の撮影で使われたオーバールック・ホテルの絨毯!!

 

評価・考察・感想

キューブリックとエミリオさんの関係

インタビューからもうかがい知れるエミリオさんの人柄はおっとり温厚な田舎紳士。「長い」という理由でキューブリック作品を観てなかったというのも面白いです。
キューブリックが本当に、エミリオさんを気に入っていたと解るのが、F1の仕事を辞めさせようとしてた話。それ所か、エミリオさんがマラソン大会へ参加しており、いない間はなんと撮影もストップしていたというから驚きです!!

完璧主義者で神経質なキューブリックは、指示のメモも細かい!! 口で言えば良さそうなものも含め、タイプライターや直筆のメモで指示。それはエミリオさんが帰宅後も奥さんが嫉妬する程、頻繁に電話。これは奥さんが怒るのも納得です。

故郷へ帰る為、家を売るも、考え直させる為に家まで用意するキューブリック。金にものを言わすエピソードも満載。

それでも一度はキューブリックの元を離れたエミリオさん。しかし、久々に再会した所、エミリオさんに頼んだ映画企画には手をつけてない様子。「君が戻ってきたら始める」とスタートした『アイズ・ワイド・シャット』も、当初は、2週間と言っておきながら、その後2年も撮影する事に。

キューブリックのわがままに付き合うエミリオさんのエピソードがほとんどなんですが、後半に登場するエミリオさんの息子が交通事故にあった時、キューブリックが支援してくれた話には感動。

 

映画ファン、キューブリック・ファン必見のエピソードも満載!!

エミリオさん曰く、「荒い運転」というキューブリックがベンツを壊すエピソードや運転手として採用する前にエミリオさんの運転する車に試乗したエピソード、手紙の中の皮肉など、キューブリックらしいエピソード満載。

女と薬に目がないジャック・ニコルソンとの撮影現場での話や、あまりにも撮影が長いので、スタジオの所長が「スピルバーグやルーカスがスタジオを使いたがってる」と言ってきた話、フェリーニとの電話をさんが通訳した話などは、映画ファンなら心踊るエピソードです。

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(C)2016 Kinetica-Lock and Valentine

 

ほっこりする感動の実話

キューブリックの両親の現場見学を任される程、信用のあったエミリオさん。それでも人の事を考えない人使いの荒いキューブリックには、直接的に言わないまでも、言葉の節々に恨みのようなものを感じさせれ瞬間も。

そんな2人にも訪れる別れの時。仲間たちを呼んでの"お別れ会"。エミリオさんの人生とキューブリックがどう関わってきたのかがセンチメンタルたっぷりに描かれます。
エンディング後の『スパルタカス』のエピソードもお忘れなく!!

キューブリックが、アンソニー・マン監督に代わりメガホンをとった『スパルタカス』では、撮影中も主演のカーク・ダグラスと激突。ダグラスは製作も兼ねていたので、キューブリックの思い通りにいく作品にはならず、ダグラスも「キューブリックは偉大なるクソッタレ」という名言を残しました)

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(C)2016 Kinetica-Lock and Valentine

 カップリング上映のドキュメンタリー映画キューブリックに魅せられた男』記事はコチラ!!

yungibo-no.hatenablog.com

 

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