ユンギボの映画日記

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実録・銀行強盗立て籠もり事件を映画化『狼たちの午後』(#45)

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実際に起こった銀行立て籠もり事件を超リアル路線で描いた本作。この銀行強盗の立て籠もり事件は、発生当日、とても話題になった事件です。監督は社会派のリアル思考のシドニー・ルメット監督。主演は言わずもがなな名優アル・パチーノ。まさに最強タッグ!!

冒頭から、とにかく上手いんです。オープニングから、さり気ないニューヨークの日常風景が流れます。街に住む一般の人々の姿がポンポンとテンポ良く映し出されます。その流れでポンポンとテンポ良く車から降りてくるアル・パチーノが映ります。まるで本当のニューヨークの風景のよう。
そのまま相棒と銀行へ入店。静かなトーンから、突然、銀行強盗が発生!!
主人公たちは隠してた銃を取り出し、従業員たちに向けます。スピーディーに金を用意させます。金の出所を混乱させる為、帳簿も燃やします。従業員たちを金庫へ綴じ込めようとします。
しかし、上手くいってたように見えたのはココまで!! 銀行内の電話がなります。出てみると相手は警察。なんと、もう警官隊が銀行を取り囲んでいたのです!! 帳簿を燃やした際の煙から通報されていたのです!!
テンパる主人公たち。ここから緊張感マンサイの立て籠もり事件ドラマが始まるのです!!

本作の面白ポイントは、登場人物たちのキャラクター。アル・パチーノが演じる主人公はやたら人間味あふれるキャラ。
冒頭で従業員たちを金庫へ綴じ込めようとするシーン。一人の女性従業員が「私、トイレが近いんで、今のうち(綴じ込められる前)に行っておきたいんだけど」と言い出します。それに対して、少し考え、「他に行きたい奴はいるか?」って。ユーモラス!! 普通なら「そんなの我慢しろ」ですよね。案の定、相棒に「そんなん言い出したら皆、行くって言い出すぞ」と注意される始末。
そんなキャラなんで、刑事に逃亡用のヘリを要求するシーンでは、仲間意識を感じ始めた人質たちに対し、「そうだ!! みんな一緒に連れて行くよ!! みんなで一緒に外国へ逃亡しよう!!」とか言い出す可愛い奴なんです。

それだけではありません。とにかく口が上手く、雄弁なんです!!
テレビ局のアナウンサーからの電話で「今、生放送中だから、取材させてくれ」との要望を快く快諾。「事件を起こした理由を聞かせてくれ」と聞かれ、「アンタ、給料いくらもらってんだ? 今のご時世、どんな仕事があるんだ? 働けても満足いく金なんかもらえないだろ?」と言い負かしちゃうんです。テレビ局も「これは放送できない」と一方的に取材中断。

交渉してくる刑事に対しても、強気に言い負かしてくるんです。それを見ていた野次馬たちも強盗犯の主人公を応援し出すんです。もう庶民の代弁者みたいになっていくんですね。銀行の周りで応援の垂れ幕を持参する人々まで現れます。

もうボンクラ感と口の達者さにギャップ萌!!

そんな主人公に対して、警察は主人公の関係者たちに話を聞いて回ったり、主人公の生活を調べたりするんです。それがまた面白い!!
奥さんに話を聞きに行くと、「普段は大人しくて、ほとんど喋らないのよ」とノンストップで喋り倒すお喋りオバさん。同性愛の男性の愛人に話を聞くと「ワタシの体を性転換手術させる為にお金が必要だったのよ」と。
もう“銀行強盗してでも金が欲しくなるよな”と思わせてくれるんです。
銀行の中で手も足も出ない主人公が、奥さんと愛人に電話するシーンがあります。その思いを語るシーンがとにかく切なくて良いんです。

そんなシーンの積み重ねによって、主人公に同情してしまうんです。悪い事をしてるのに感情移入してしまうんです。

本作の脚本を書いているは、監督業もこなすフランク・ピアソンさん。当初、事件の概要や手に入る大量の資料を網羅。所があまりにも様々な要素が複合的に重なり、全く纏めきれなかったとの事。所が、主人公のキャラに焦点を合わせ、その周辺で纏めていく事で素晴らしい脚本が完成。フランク・ピアソンさんは、本作でアカデミー賞脚本賞を受賞。

シドニー・ルメット監督は役者を徹底的なリハーサルで追い込む事で有名。所が本作では、役者たちにアドリブで芝居をさせ、そこから撮影する芝居を作り込んでいったとの事。その効果は絶大。人質になった従業員たちも背景でちゃんと各々のキャラを持ち、芝居しているのが解ります。銀行から出られないので、暇を持て余してバドミントンしてたり、女子トークしてたり、ウォークマンで音楽を聴いていたり。それが凄くリアル。まるで本当に事件現場にカメラが入ったドキュメンタリーのよう。

主人公の相棒を演じるのは、ジョン・カザール。「ゴットファーザー」シリーズや『ディア・ハンター』などの名作映画に出演するカザール。演技力には定評があり、様々な賞を受賞。しかし、癌により42歳の若さで亡くなりました。アル・パチーノとは10代の役者の卵時代からの友人。そんな二人のヤリトリは流石な阿吽の呼吸。特に、緊張しきっているカザールをパチーノがなだめるシーンは名場面!!
このカザールの役どころも面白くて。緊迫した状況の中、タバコを吸う人質に対し、「タバコは体に悪い」と説教したりする訳です。銀行強盗に言われたくねーよというコミカルさ。「同性愛者」というテレビ報道を聞くと、「オレは同性愛者じゃない。ちゃんとテレビ局に違うと訂正してくれ」とか言い出す訳です。警官隊に囲まれてるんだから、そんな状況じゃねーだろ!! とツッコミたくなります。彼も、ちょっと可愛いのです。

そんな人間味溢れる犯人たち。観ている観客も完全に感情移入し切った後のクライマックス。まさかの展開で突然、事件の幕切れがやってきます。


星5つ
★★★★★