ジム・ジャームッシュ監督の作品で1番好きな作品です。そもそも、ジャームッシュ映画って、起承転結が曖昧であまり好みではないのですが、本作に限っては数年おきに観返してしまいます。唯一、持っているジャームッシュ作品です。
若い頃は幾人もの女性と浮き名を流したドン。もう初老に差し掛かっています。そんなドンの元へピンクの封筒に入った手紙が届きます。
そこなは、「あなたの息子が家出したので、あなたの元へ現れるかも」と。差出人の名のない手紙。
当時、関係を持った女性4人の名前を思い出し、お節介な隣人の手を借りて、住所を突き止めたドン。4人の女性から、手紙の差出人を探す旅へ。
主人公のドンを演じるのは、円熟の域に達しているビル・マーレイ。昔は『ゴーストバスターズ』シリーズや『恋はデジャ・ブ』、『3人のゴースト』など、「サタデー・ナイト・ライブ」出身らしい陽気なコメディ作に出演していたマーレイ。歳を取り、表情だけで心情を伝える独特の空気感で、個性派俳優へスキルアップ。再評価を決定的にした『ロスト・イン・トランスレーション』と同じ年に公開された『コーヒー&シガレッツ』のジム・ジャームッシュと最タッグ。
4人の女性へ会いに行き、歓迎されたり、旦那を紹介され変な空気になったり、追い返されたり、他界した元カノの墓の前で泣いたり、殴られたり。。。。
人生の折返しを過ぎ、岐路に立った男を哀愁タップリに演じています。
4人の元カノもナイス・キャステング。
『郵便配達は二度ベルを鳴らす』や『トッツィー』のヒロインを演じたジェシカ・ラング。『氷の微笑』、『トータル・リコール』、『ラスト・アクション・ヒーロー』のヒロインを演じていたシャロン・ストーン。『ナルニア国物語』シリーズや『少年は残酷な弓を射る』のティルダ・スウィントン。ドラマを中心に活躍し、最近では『ジョーカー』でアーサーの母親を演じたフランセス・コンロイ。アメリカを代表するような女優陣が集結。
また、お節介な隣人をユーモラスに演じ、ワライを誘うジェフリー・ライト。彼も『バスキア』でバスキア役を演じ、ドラマ『エンジェルス・イン・アメリカ』でもオカマの看護師の役で様々な賞を受賞。まさに名優なんですが、本作ではリラックスした演技で主人公のケツを叩くヤリトリが爆笑です。
主人公の旅の全編で奏でられるエチオピア音楽。セリフも無く、淡々と歩く、或いは車を運転するシーン構成。主人公の心情同様、どこへ行くか解らないストーリー展開。カラフルに彩った画作り。センチメンタルな気持ちを駆り立てるプロット。
メンタメ作品とは言い難いですが、琴線に触れる本作は、ついつい何度も観返してしまいます。
まさに、ジム・ジャームッシュ監督が『ダウン・バイ・ロー』や『ストレンジャー・ザン・パラダイス』などで見せた、ロード・ムービーの集大成のような作品なんです。
一つ残念なのは、吹替え版が無い事。出来れば、ビル・マーレイのフィックス声優である安原義人さんか江原正士さんで吹替え版を作って欲しいです。
星4つ
★★★★☆