ユンギボの映画日記

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ウディ・アレンが描く大人の恋と名作映画オマージュのバランス『サン・セバスチャンへ、ようこそ』

やっと観て来ました!!

ウディ・アレンの新作『サン・セバスチャンへ、ようこそ』。舞台は、スペイン北部の美しい街。だらしない大人たちの恋とか愛とか嫉妬とか。先行き不透明な恋の矢印を、名作映画オマージュでデコレーションした一本。

映画宣伝の仕事をする妻とサン・セバスチャンを訪れた主人公。この旦那が顔からしてダラしないんだけど、インテリ。大学で映画をおしえつつ、いつまでも完成しない小説を執筆中。……というウディ作では常連みたいなバックボーン。ウディ・アレン監督は毎年のように新作を作っています。なので、ウディ作品は同じような設定、同じようなシチュエーションが多発します。その中でバージョン違いやアップデートしていくのがウディ流。

 

今回は、設定がいつになく面白いんです。それが、サン・セバスチャンの映画祭へやって来た理由。主人公の夫が「妻の仕事に着いてきた」という設定なんです。いつものウディ作なら“主人公が映画監督”“プロデューサーに言われて嫌々やって来た”“奥さんがプロデューサーをやってて頭が上がらない”とか。そんな感じになりそうな所。それが今回、妻の仕事のついでに好き好んで旅行に来たという。ウディ作の変化を感じました。まだ進化するのか!!

そこに絡んでくるのが、妻が担当する新作映画の新人監督。どこへ行くのも同伴。この新人監督にイラ立つ主人公。この若手監督に対する主人公の嫌味なセリフの数々に爆笑。コミカルで抜群のワードセンスが素敵。

 

ともあれ、そんな状況で、体調を崩した主人公。現地の病院へ行ってみる。そこから物語は更に急展開。そこの女医に一目惚れ。立て続けに診察予約。知人への聞き込みで女医の情報をゲット!!

奥さんの映画祭での社交会はそっちのけ。女医へのアプローチで頭いっぱい。何とかデートへ漕ぎ着けて距離の縮まる2人。ただ、ひっかかるのは、その女医は既婚者。旦那がいるんです。しかも、評判激悪の!!

物語は河のように蛇行。どこへ向かうことやら。

この作品がユーモラスなのは夢のシーン。主人公は慣れない土地で現実を反映したような夢を見続けるんです。その夢が明らかに数々の名作映画をオマージュしてるんです。これは映画好きには堪らない!!

オーソン・ウェルズに始まり、ゴダールトリュフォーフェリーニブニュエル、そしてベルイマンなどなど。ウディ監督が度々、インタビューで影響を語る監督たち。なんという巨匠の遊び!!

シーンの丸々の引用は勿論、ご丁寧に撮り方や編集の仕方までクリソツ。オリジナルを観返したくなること請合い。なんなら比べて観たくなる!!

ウディ版では、そこまでそっくりにマネておいて、下らないにも程があるオチを追加。アホらしいパロディに仕上げてる所は気が利いてます。

ウディ・アレンは『愛と死』や『スターダスト・メモリー』でもベルイマンのパロディをやってます。もはやオマージュやパロディさえもウディ流と言える作風の一つ。ですが、今回のギャグとして成立する上、この乱れ打ちっぷり。爆笑と感心の連続でした。

編集はウディ作品を20本以上も担当してきたアリサ・レプセプター。近年は毎年ウディ作で編集を担当。いつもの人です。今回の名作映画パロディシーンも「はいはい、こんな感じね」とヤリトリしてるのが想像できます。

 

さらに本作の魅力はまだまだ。美しいロケ地と淡い濃淡での撮影によるコラボ技。本作で撮影を担当するのは、『地獄の黙示録』『レッズ』『ラスト・エンペラー』でアカデミー賞を受賞しているヴィットリオ・ストラーロ。『カフェ・ソサエティ』『男と女の観覧車』『レディ・イン・ニューヨーク』など近年の相棒カメラマン。いつも抜群の映像センスを駆使。移動による流れるようなワンカットで芝居合戦を途切れる事なく魅せてくれます。しかも、どこで一時停止しても絵ハガキとして飾りたいくらい、どの瞬間も素晴らしいのです。

主人公の女医への恋心。妻に隠れてのデート。そこへ度重なるユーモラスなアクシデント。妻への白々しい夫婦関係。それらは主人公の悩みを通し、ラストに向かっていきます。

 

ちなみに、インタビューなどもなく、激薄情報のパンフは買う必要なし。オシャレ系年寄り映画風に編集された方向性迷子な予告編も可能なら観ない方が良いと思います。

 

サン・セバスチャンへ、ようこそ』

星4つ

★★★★☆