ユンギボの映画日記

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2017.05.22 『カフェ・ソサエティ』

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2017.05.22

『カフェ・ソサエティ』を観賞して来ました。

コメディやロマンス、サスペンス、ラブストーリー……。様々なジャンルの映画を作ってきたけど、自作からロマンチストが滲み出ているウディ・アレン監督の最新作です。今回は、黄金期の1930年代のハリウッドを舞台にした大人のラブ・ロマンス映画。なぜ1930年代のハリウッドなのか? 今回のウディ・アレン監督の大人だけがグッとくるロマンチックな狙いは何なのか? ネタバレなしの範囲でお話しします。

そもそもタイトルの意味は、1930年代の都会のお洒落なレストランやクラブへ、毎夜、繰り出すライフスタイル、セレブリティの社交界の事。そーは言ってもウディが過去を描くのは初めてじゃないです。ドキュメンタリー風の偽アメリカ史コメディ『カメレオンマン』は20年代~30年代のニューヨーク。映画の中の人物が現実に出てきちゃう珍騒動ファンタジー『カイロの紫のバラ』は大恐慌時代のニュージャージー。自分の幼少期をスケッチした『ラジオ・デイズ』は第二次世界大戦の開戦間もなくだし、コミカルなサスペンス『ウディ・アレンの夜と霧』は1920年代のヨーロッパ。全部、暗いんですよね。お金のない人々の生活を描いていたんですよね。2011年のタイムスリップ・ファンタジー『ミッドナイト・イン・パリ』は1920年代のパリが多少、きらびやかでしたね。今回は超派手。

主人公はユダヤ系アメリカ人の青年なんです。主人公役は童貞を演じさせたら天下一品、『ソーシャル・ネットワーク』でザッカーバーグ役だったジェシー・アイゼンバーグ。ハリウッドで成功している叔父を頼って会いに行く。すると、プール付き大豪邸でパーティーやってる。様々なスター俳優や映画界の大物、政治家たちが来てるんです。今までのウディ作品ではピンポイントな場所しか描いてなかったですよね。本作では億万長者。貧乏な家庭。ギャング。もう様々な人々が出てきます。一つの時代を多面的に描いてますね。しかも、構成が上手い。上手いのに巧みだから上手さが伝わりにくい地味な上手さ。

田舎者の主人公は叔父の秘書を紹介されるんですね。メチャクチャ美人。で、ロス観光とかに連れて行ってくれるんですね。案の定、主人公は惚れちゃうんですよ。当たり前ですよね。『パニック・ルーム』の子役、クリステン・スチュワートが演じてますね。ちょっと切れ長の目で美形の顔だち。スタイル抜群。本作のスチュワートのきらびやかな衣装のいくつかは本作の為にシャネルが作っているんです。手足長いから何でも着こなしてしまう。しかも、嫌味じゃない。でも、そんな彼女にはある秘密が……。ここからは運命のイタズラ。ロマンチストなウディ監督のタイミングのスレ違い。甘酸っぱいロマンスが全開。“もしも……„の先を描いてる辺りが大人には刺さります。

実は長いスパンの出来事を描いてて、物語の後半で主人公はナイトクラブを経営するんです。実際、当時のニューヨークは人種差別が厳しかったらしいです。所がバーニイ・ジョセフィンというユダヤ人が1938年に様々な人種を受け入れるナイトクラブを作ったっていう実話があります。恐らく、その話がモデルになっていると思われます。ウディはこーいったエピソードや時代背景を盛り込む事により、当時の雰囲気を映画の中で再現しようとしたのではないかと思います。

ウディのインタビューでも「ニューヨークの歴史においても最大級にエキサイティングだった時代で、とてつもなく素晴らしい劇場、カフェ、レストランが存在した。」「あの時代はずっと僕を魅了し続けている」と語っています。

その再現の為、当時の雰囲気のあるバーのレイアウトや階段の作りなど何年も探し回っていたらしいですね。

美術を担当したサント・ロカストはインタビューで「ウディは我々が正確さに固執しすぎて、彼の視覚に訴えかけない舞台装置を作ったりしないか、常に気に掛けていた」と語っています。

また、そんな作りこんだ世界観を美しく見せる本作の撮影監督はイタリア出身のヴィットリオ・ストラーロ。映画好きには有名な人です。『地獄の黙示録』とか『ラスト・エンペラー』なんかで3回アカデミー賞受賞してる人です。今回、初めてデジタルカメラで撮影してます。長年、デジタルカメラでの実験を重ねてきて、やっと満足いくレベルに達したから使ってみることにしたとの事。見てみるとフィルム撮影にしか見えない。むしろ、フィルムっぽさを意図的に演出してましたね。「満足いくレベル」とは、後処理の簡単なデジタルで撮影して「フィルムっぽさを出せるレベル」の事だったのでしょう。

まさに、いつものウディ作品のテイストを残しつつ、新たなことに挑戦しているのが本作なんです。

『カフェ・ソサエティ

★★★★★

星5つ