ユンギボの映画日記

ユンギボ(@yungibo)によるあらすじ紹介、ネタバレなしのレビュー、解説・考察をお届け‼

『マジカル・ガール』感想

2016年4月18日(月)、ヒューマントラスト有楽町で『マジカル・ガール』を観賞して来ました。

これは、ちょっと仕事が忙しくても観に行きたいと仕事帰りに駆け込んだ訳です。ボクを含めても3人しか居なかったですよ。やれやれ。

これは、ちょっとあれですね。変な映画を観たなって感じです。深夜、テレビ替えてたらタイトルも知らない映画がやってて、流し見程度に見てたら、段々、目が離せなくなる。見終わって、なんか変な映画を見ちゃったなーという謎の満足感。あれに似た感じですね。何が「変な映画」って、良い意味で不親切。淡々と見てたら、次々と謎が出てくるんですよ。歩み寄らないといけない。「ん? これは、どーゆー事だ? こーゆー事なのかな?」と。謎といっても作中で描いてないだけで、ストーリー中では省略してるだけなんですよね。
冒頭、白血病で余命1年もない中学生くらいの女の子と無職のオヤジの話から始まるんです。娘の願望ノートをオヤジが発見するシーンから泣いちゃってましたよ。「悲しい気持ちになる映画なのかなー」と思ってたら、話が飛んでもない所へ転がっていくんですよ。娘はマドマギ風の『魔法少女ユキコ』なるアニメのキャラに憧れてて、願望ノートにそのコスチュームを着て自分を夢みてるんですよ。そんで、コスチューム(有名デザイナーによる一点モノにつき90万円!!)を買ってやりたいけど、絶望的に金の無いオヤジは奮闘するんです。
所が、泣く準備が整った辺りで、急に新しい章のテロップが出て、美人なんだけど影のありまくる専業主婦の話が勝手に始まるんですよ。心の病なのか知らないけど、友達の家で奇怪な発言をして周りをドン引きさせたり、旦那も変な奴で「欠かさず薬だけ飲んでれば何をしても良い」と謎の薬を飲ませ続けるんですね。スクリーン全体から漏れ出る危うさ。「だから、ナンナンダ、この映画は?!」と。でも、進むにつれて、話が繋がってくるんですねー。
監督は「脅迫をモチーフにしたフィルム・ノワールを作りたいと思った。というのも登場人物たちをモラル面で極限状態に置くのに最適なタイプの映画だからだ。そうすると普通の人が日常生活では到底なし得ない決心を下す必要がある。」と語ってます。おっしゃってる通り、話はどんどんダークで真っ黒な世界観へ変わっていくんです。もう、不安で胸がいっぱいになりました。後味がバツグンに悪いですよ!
小さな謎だらけなのに謎に触れない中、サクサク話が進んでいく危うさ。ラストへ向かい集約されていく展開のカタルシス。見せないインパクト。エロ描写もハッキリと見せない色気、暴力描写も直接的に見せない怖さ。音楽も、BGMがほとんど入らない緊張感。逆にポイントでガッツリつかわれる長山洋子のアイドル時代のデビュー曲「恋はSA‐RA SA‐RA」。これ、スペイン映画ですよ?!
監督は日本文化オタク(主にサブカル)らしく、YouTubeでアイドル・ソングを漁りまくってたら見つけたそーですよ。作中には美輪明宏の映画『黒蜥蜴』オマージュも。
パンフのインタビューには江戸川乱歩とか丸尾末広手塚治虫寺山修司今敏の名前がポンポン出てくるから凄いです。どーりでダークな訳だ。逆に日本では昨今、あまり見れなくなった怪奇映画のテイストが懐かしくなったのも納得。パンフレット自体は薄いのですが、町山智浩さんによる批評、本作の監督=カルロス・ベルムトと園子温の対談など気になる企画が豊富。掘り下げたくなる映画だけに、貴重な情報源になる1冊。


『マジカル・ガール』
★★★☆☆
星3つ

『バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生』(4DX3D )感想

2016年4月6日(水)、ユナイテッドシネマ豊洲で『バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生』を4DX/吹き替え版で観賞して来ました。

映画としては出来損ないだけど、アメコミ・ファンへのサービスは過剰な1本でした。
本作は「スーパーマン」モノの前作である『マン・オブ・スティール』の続編でもあり、クリストファー・ノーラン監督の『ダークナイト』のバットマン・シリーズとは別モノという位置づけが、まず分かりにくいですよね。アメコミ・ヒーローものを短い期間で大量生産し過ぎなんですね。更に付け加えると、原作やアメコミを知らない人は「?」となるんじゃないかと思うシーンが幾つかある始末ですよ。
それには色々な原因が考えられますが、1番の問題は本作の監督であるザック・スナイダーが冷静さを失う程のアメコミ・オタクだという事です。
そもそも、「バットマンVSスーパーマン」とか言ってるけど、原作のコミックの中では結構、共演したり戦ったりしてるんです。その決定版なのが『ダークナイト・リターンズ』ってコミック。タイトルがカブってるけど、映画『ダークナイト』とは全く別物のお話です。ザック・スナイダー監督はアメコミ・オタクでは有名で、過去には前作『マン・オブ・スティール』を始め、『ウォッチメン』や『300(スリー・ハンドレット)』とかのアメコミ原作映画を作ってきた人。インタビューでも「『ダークナイト・リターンズ』の影響がメチャクチャ大きいよ」とか語ってますが、本作を観てみたら、「まんまじゃねーかよ!」という話でした。
コミック『ダークナイト・リターンズ』でのバットマンは老人でヒーロー活動を引退しており、悪が根絶できないと悩んで、もの凄い葛藤するんですね。ここら辺のリアルな悩めるヒーロー像をクリストファー・ノーラン監督は映画の中に持ち込み、作ったのが『ダークナイト』シリーズなんです。すぐにウジウジ悩むから何で悩んでたのか忘れましたけど。法では取り締まれない悪人たちを根絶……と言うか文字通り叩きのめす為に老人バットマンはアイアンマン並みにパワーアップさせたアーマースーツを着て、活動再開。しかし、その前に立ちはだかるのは政府の下請けに成り下がったスーパーマン。このコミックには、法の名の下に正義を守るスーパーマンと時には法を犯しても悪党を始末するバットマンの対決が描かれているんです。
だから、本作に登場する対スーパーマン用のアーマースーツなんて、「あっ! コミックに出てきたやつだー!」とテンション上がる訳です。写真で見てた観光地を実際に訪れた感覚。
更にテンション上がったのはベン・アフレック演じるゴツくてデカいバットマン! ティム・バートン版のマイケル・キートンやノーラン版のクリスチャン・ベールの演じる神経質な偏屈系のバットマンのイメージが強い人には、ちょっとあれかもしれないですが、コミックのバットマンは割りと力技の人でゴツいんです。ジョエル・シューマッカー版のヴァル・キルマージョージ・クルーニーの男臭いを通り越して野獣臭い方が近い印象だったんです。
最初、ベン・アフレックのような大根役者がキャスティングされた時はYシャツに醤油をかけられた気分でしたが、これがなかなかイイネ! 飛び道具をあまり使わない! とりあえず、力いっぱい殴る! 「あっ、コミックに出てきたバットマンだ!」と感激しました。
今作の悪役は、スーパーマンの宿敵=レックス・ルーサー。過去の映画版ではジーン・ハックマンやケビン・スペンシーなどオッサン俳優たちが演じてきた役どころですが、本作では天才と童貞を演じさせたら右に出るものはいないジェシー・アイゼンバーグと若返り設定。バットマンベン・アフレックで高齢化させた分、若造に振り回される中年たちにも見えなくはないのですが、ある種の対比になっているのでしょう。スーパーなパワーなんて無いくせに姑息な作戦でスーパーマンを翻弄し、権力や地位を手に入れようと目論むネズミ男的な人物として描かれてきた宿敵ルーサーのキャラ。ですが、本作ではチャラチャラした混沌を好む目的不明のクレイジーな天才肌にシフトチェンジされています。このキャラ設定がジェシーの演技もあって『ダークナイト』のジョーカーと丸かぶり。これを「ルーサーはこんなキャラじゃない!」と思うか、「さすがザック! 味付けにジョーカー風味まで足すのか!」と思うかで大分、好みの別れる所ではあります。過去のルーサーが汚い大人や悪徳政治家のシンボルだった事を考えると、悩みまくりの陰気な2大ヒーローの敵役に金と権力と女をはべらす若者=リア充が悪フザケの延長で悪事を働くというのは、ザックのオタクレーダー的には非常に正しいですね。
ジョーカーと言えば、バットマンの基地(バット・ケープ)の中にジョーカーに落書きされたと思われるバットマンのスーツが飾られてるのがチラッと見えるシーンがありましたが、あれは20年もバットマンとして戦ってきた本作の設定を活かしたザックのオタク・サービスでしょう。
ただ、本当の意味でザックのオタク・アイデンティティーが爆発(脱線)するのは、唐突に加勢してくれるイカした美女=ワンダーウーマンの浮きまくりの登場シーン。もはや、作風さえ変わってしまう訳です。バットマンとスーパーマンの「お前の連れか?」というヤリトリがモテない男子学生に変わる瞬間でもあります。過去に『エンジェル・ウォーズ』という作品でオタク事故を起こしたザックの発作と思うと微笑ましささえ感じました。そんなザック・スナイダーのフライングしたアメコミ愛が「とりあえず、アレも入れよう。コレも入れよう。」の連発でストーリーにまとまりが無くなり、破綻。バットマンの話をしてたかと思うとスーパーマンの話になってて、ルーサーのエピソードと謎の美女もチラ見せしつつー、低偏差値の腕力怪獣も出してー……と、とにかく長い映画になってしまったんですね。アイデンティティー探しに悩むヒーロー像ってのもノーラン以降の流行りパターンだし、国家にとってのスーパーパワーを持つヒーローの脅威問題も『アイアンマン』や『ウォッチメン』とかで手あかが付いてます。展開も2大ヒーローものの有りがちパターンだしで、ストーリーは予想できるレベル。しかも、全編通して暗い。バットマンはダークヒーローだから暗くても良いですが、スーパーマンはノーテンキな程、明るいヒーローだったはずなのに。唯一、面白い要素はスーパーマンを神と比喩した宗教エッセンスだったんですけど、それもストーリーには大して絡んでこずで。そもそも、「スーパーマンがビルを吹っ飛ばしたりして戦ってる間に巻き添えで死んでる人間もいるんだ!」という『ガメラ2』な設定からスーパーマン不信が始まったはずなのに、その問題もうやむやにされた感があります。
ザックお得意の写ってる物はオールCGだけど手持ち撮影風のリアリティーで対抗演出や突然のスローモーションによるエモーショナル演出も効力薄めな結果に。

4DXに関しては、アクション・シーンが単調なせいもありますが、4DX効果も単調で乱気流に突っ込んだ飛行機くらいの揺れがずっと続いてる感じでした。むしろ、ちょっと酔いました。
ただ、日本語吹き替えは大作にも関わらず浮ついたタレントを起用せず、ちゃんと実績のある声優さんばかりだったので、安定のクオリティーでした。こーゆー吹き替え映画ばかりだと良いのですが。
パンフは監督・キャストのインタビューやイントロダクション、初期設定アートコンセプト、過去作品紹介、長谷川町蔵渡辺麻紀さんにより批評なんかが掲載されてましたが、大量の写真で水増しされた薄めの印象。情報もネット検索程度なので、本作ヒットの方のみお勧めレベルでした。

バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生』(4DX・吹き替え版)
★★☆☆☆
星2つ

『ヘイトフル・エイト』感想

2016年3月20日(日)、『ヘイトフル・エイト』をユナイテッドシネマ浦和で観賞して来ました。

クエンティン・タランティーノこと我らがワガまま番長タラちゃんの新作。
キル・ビル』や『ジャンゴ』など張っ倒したくなるような作品群を経て、今作は密室サスペンス劇ですよ。
しかも長い! 168分もあるんですよ! でもね、全然、長くても観れる作品でしたよ!
ほとんどの場面が雪山の小屋の中で繰り広げられるのに、それだけ見応えありました!
舞台は南北戦争から間もない雪山。吹雪で雪山の小屋に閉じ込められた8人の心理戦なんです。それの何が問題って、べらぼーな賞金の懸けられた女を護送している賞金稼ぎが神経質に心配性をオプション追加したよーな乱暴者なもんですから、偶然、居合わせた客に「お前、ドコへ行く予定なんだ? 何者だ?」と1人1人尋問していくんですよ。所が、どいつもこいつも胡散臭さプンプンで、びた一文信用できない奴ばっかなんですよ。
タイトルの『ヘイトフル・エイト』とは「憎しみに満ちた8人」という意味。憎しみが満ちてますからね。物騒ですよー。全員、悪党。つまり、タラちゃん版『アウトレイジ』なお話なんです。
前半は、賞金稼ぎの司会進行により自己紹介していく胡散臭いメンツの腹の探り合いと言うか、信用度チェックなんですけど、明らかなウソ発言だらけだし、尋問のはずなのに、どーも謎ばかりが増えていく。そもそも、重要人物である賞金の懸けられた女が何の罪を犯したのかも語られないんです。それ所か、「奴隷制の存続を巡り北軍と南軍に分かれて争われた南北戦争」から数年しか経過してないのに、元北軍の黒人と元南軍の差別主義者がヒリヒリするトークバトルをし出したりと、全く落ち着かない状況に。そんな中で、賞金稼ぎが「信用できないから、お前の銃をよこせ」とか空気読めない発言したりするから、いつ何が起きてもおかしくないピリピリムードが延々と続くんですよ。ドアが閉まらないだけで怒鳴ってましたよ。
後半は急展開。新たなミステリーが追加され、ある異常な事件が勃発。疑心暗鬼の雨の中、彼らの正体や今までの謎が怒涛の如く明らかになっていくのと同時に予想を軽やかにフライングしたバイオレンスでクライマックスへ雪崩れ込んでいくんです。前半とは違う意味で気が気じゃない1回で2度おいしいカツカレー方式。
特に今作で異例なのは70mmウルトラ・パナビジョンという横にガッツリ長い画面サイズなんですよ。分かりやすく言うとパノラマな感じ。なもんで、ほとんどのカットで小屋の右の壁から左の壁まで映ってるんですね。手前にいる登場人物と奥にいるいる登場人物とで違う事をしてたりするから、「怪しい動きを探してね」な参加型な構成になってるんです。正体不明のウソつきだらけですからね、もう半ばアトラクションですよ。まぁ、映画館で観ないと、あまり効果は無いでしょうが(……と言うかテレビで観たら逆に分かりにくくなるのでは)。
さすがタラちゃんなのは、話も後半に差し掛かって、急に「これは、こーゆー事なんです。」とナレーションで状況を説明し出すんですよ。いや、脚本上、そーするのは分かりやすいけど「えっ?! そーゆー映画だっけ?!」と焦りましたよ。「自由すぎるだろ!(笑)」と。
そんな、のっぴきならないストーリーの中にドスンと横たわる差別と欲望という重たいテーマを盛り込んでいる辺りは妙に現代とリンクしていて、突き刺さるものがあります。
それ以外にも、タラちゃん念願の映画音楽界の巨匠エンリオ・モリコーネによる伸び伸びと作った感じが窺える書下ろし楽曲や、種田陽平による秀逸すぎる完ぺきな小屋のセット、空間を彩る控えめな照明、ラストで抜群の効果を発揮しているスプリット・レンズなど、作品世界を楽しむグッとくるポイント満載。


ヘイトフル・エイト
★★★★☆
星4つ

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(4DX3D)感想

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を4DX版で再度、観賞して来ました。

前回は吹き替え版3Dで観賞しましたが、今回、期間限定でリバイバル上映してたので、「今だ!!」とばかりに4DXですよ! やはり、4DXは凄まじいですね。
冒頭、頭が2つあるトカゲをマックスが踏みつける描写から、席を後ろからつっつく効果から始まり、ウォーボーイズたちに追われるシーンで下水みたいな所を通ると水しぶきが飛んできます。
そっから車で爆走シーンに入る訳ですが、走ってる間、ずっと揺れてましたよ。かなりリアルな感じで。この作品、ほとんどの時間、車に乗ってるから、自分もホントに車にずっと乗ってたよーな気分でしたね。
途中、嵐の中に突っ込みますね。そしたら、水しぶきですよ。雷が光ったら強烈ライトがピカッ!
クライマックスのカーチェイス・シーンでは画面にかかるくらいの煙がモクモク。

こんなに楽しいエンターテイメントは無いな! ってくらい楽しかったです。
ディズニーランドが三輪車に思えるくらい、アトラクションでした!!
これは、俄然、4DXとの相性バツグンで、むしろ、こんなに向いてる作品はないんじゃないだろーかってくらい良かったです!!!!
大満足!!!!


『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(4DX版)
★★★★★
星5つ

『さらば あぶない刑事』感想

2016年3月11日(金)、シネマサンシャイン池袋で『さらば あぶない刑事』を観賞。

ネットのレビューなんか見てると、『あぶ刑事』を観た人は「タカとユージがカッコ良かったー!」とか言うんですよねー。ボクも言います。タカとユージがとにかくカッコ良かった!!
2人のPVかと思いましたよ。内容なんかメチャクチャで、もう忘れましたけど、とにかくカッコよかった。

今作のタカとユージの2人はもう定年なんですね。登場時は新米刑事だった仲村トオルが2人を追い越して上司になってるんだけど、全然、相手にされないコミカル・シーンがツボでしたね。
でも、それは表向きの関係で、裏では2人の事を想う仲村トオルには泣けました。
で、定年までの3日間の間に事件を解決しないといけないサスペンス要素や、普段は杖をついてるのに、ハイキックがインパクト大の悪役=吉川晃司など見所いっぱいです。

でも、やはり、そもそもの話。タカとユージのカッコ良さを引き出した監督の作風に尽きますよね。
映画が始まってすぐ、何故か...eiga

暗い廊下で柴田恭兵が踊ってる! なんだ、コレ?! でも、その軽やかで色気があってカッコイイ! そこへ独房の中でヤクザから情報を聞き出した舘ひろし登場。
何故かタキシードで外した蝶ネクタイを襟からぶら下げたまま。なんだ舘ひろしの昭和に忘れてきたよーなダンディズムは! そこ必然性は無いがカッコイイ!
冒頭5分で、この調子。その後、デデーンとタイトルが出るんです。オープニングから空撮にタイトル・ロゴ&キャスト・クレジットをまさか平成になって名画座でもない劇場で観れる日が来るとは! 思い出される東映プログラム・ピクチャー臭さに懐かしの涙ですよ!
もう、これは監督のハッタリ宣言ですよ。「リアリティー? 必然性? 知らねーよ! この映画はそーゆー映画なの! あり得ない奴ばかりが暴れる映画なんだよ!」っていうね! それでも、「こーゆー奴いる訳ないじゃん」と思わせない「映画の嘘」が抜群に上手いんですよ。
それもそのはず。まだ東映が破天荒すぎる「映画のウソ」で観客のハートをカツアゲしていた頃、数々の名作を世に送り出していたのが今作の監督=村川透監督なんです。もはやレジェンド的な存在の人なんです。
ボクが小学校の頃、家に帰ると松田優作のドラマ『探偵物語』の再放送をやってて、そのソフトでスタイリッシュなカッコ良さにシビれたもんですよ。その中でメイン監督の1人が村川透監督だったんですね! 村川透松田優作コラボに夢中だったボクは『最も危険な遊戯』『殺人遊戯』『処刑遊戯』の「遊戯シリーズ」や『蘇る金狼』、『野獣死すべし』を体中に浴びて生活してた訳ですよ。
「遊戯シリーズ」はプロフェッショナルな殺し屋が主人公。『蘇る金狼』の主人公なんて三億円事件の真犯人で、その金を元手に大手企業を上り詰めていくという話ですからね。もう村川透と言えば、観客をワクワクさせる為なら、どんな有り得ない事も巧みな「映画のウソ」で信じ込ませる天下一品の「映画のウソつき」ですよ!
で、それらの作品を東映の子会社である東映セントラルアーツで量産してたんですね。その頃のセントラルアーツのカラーは強烈で、その後の様々な作品、製作者たちに多大な影響を与えた訳ですよ。ちなみに、ドラマ版がヒットした後に映画版で続編を制作した先駆けも『あぶ刑事』が最初。
そのセントラルアーツが『あぶ刑事』シリーズも作っており、しかも、当時のプロデューサーである黒澤満さんが本作の製作総指揮も担当してるんです。
撮影も村川監督と組んでた仙元誠三カメラマン。この人も生ける伝説みたいな人で、特に手持ち撮影で有名。松田優作の動き回るアクティブなハード・アクションを手持ちカメラで追い掛け、余す所なくフィルムに収めてました。
今作でも柴田恭兵が敵のアジトへ踏み込んで行くアクション・シーンを手持ちで追い掛けてて、すっげー懐かしい気持ちになりましたよ。テンション上がる、上がる!!
昔からの顔触れにもう一人。脚本家の柏原寛司。この人も『探偵物語』のメイン・ライターの一人で、他にも『傷だらけの天使』や『大都会』から『名探偵コナン』や『ルパン三世』まで様々な伝説的作品に関わってる脚本家ですよ。
監督:村川透、脚本:柏原寛司、製作:黒澤満、撮影:仙元誠三という往年の超超ちょー豪華で濃ゆすぎるメンツがバシッと揃ったのが、本作なんです!
これは、言い過ぎでも何でもなく、このレジェンドたちが今までに生み出した作品群、日本映画界に与えた影響を考えると、彼らの新作を劇場で観れるって事は、日本映画の歴史を目撃するよーなモンですよ!! 事件なんですよ! 幸せ過ぎる。
「昔、流行ったドラマの続編でしょ?」と言って、プログラム・ピクチャーの邦画を観た事も無いエセな自称映画ファンにこそ観てもらいたい作品ですね。日本には、これだけ凄いレジェンド達がいるんだぞ!!
アクションに特化した作品作りをしてきたセントラルアーツらしい、ケレンに満ちた傑作でしたよ!
柴田恭兵が犯人を追いかけるシーンで「ミュージック・スタート!!」と叫ぶと音楽が流れ始め、定年とは思えない猛ダッシュするシーンには驚きましたね! これって『モテキ』じゃん! 『モテキ』でサブカルをパロディ化、『バクマン。』でサブカル文化自体を映画作品化し、もはや、自身がサブカルになった大根監督と同じセンスって、村川監督、どんだけ感性が若いんだよ!!
また、ハーレー手放しのりでショットガンを撃つノースタントの舘ひろしの現役感!!
ホントにこれで終われるのか『あぶ刑事』!?


『さらば あぶない刑事
★★★★★
5つ星

『残穢(ざんえ)―住んではいけない部屋―』感想

2016年3月4日、浦和ユナイテッド・シネマで『残穢(ざんえ)―住んではいけない部屋―』を観賞。

これは、面白い!! 今年の暫定1位ですね!(『サウルの息子』や『オデッセイ』を超えてね)
「怖いor怖くない」以前にお話や構成が面白いじゃないですか!
実話怪談あるあるな「不思議な出来事だが理由は解らず仕舞い」の後日談や過去の因縁を明らかにしていく物語なので、ホラー映画というよりもホラー演出のミステリー推理モノを観ているよう。と言うのも、読者が投稿してきた実話怪談話を短編として書き直す作家の主人公(松下奈緒)と投稿してきた体験者(橋本愛)により、「なぜ、そんな不可解な事が起きるのか?」という謎解きを理詰めなアプローチで黙々と調べていくんですね。だから、近所の人や大家さん、自治会などに話を聞いていくというドキュメンタリー要素もリアルに演出されてます。
その合間合間で新たな怪談エピソードが加算されていくんです。で、その怪談エピソードも精神病患者を入れてた座敷牢だったり、近所のゴミ屋敷、赤ちゃんに纏わる話だったりと一発一発のタブー度も高い!
物件情報を調べてるはずなのに、それと共に平気で実話怪談も収集していくんですよ! お前ら、柳田國男か!!
そもそも、モチーフが日本的というな土着性を感じます。それら別々に集めてたはずの怪談エピソードたちが、物語終盤で集約されていく展開は思わず、ゾッとしますよ!
これは、『本当にあった呪いのビデオ』シリーズの先輩監督であり、本作の監督でもある中村義洋によるパロディでもあるんですな! この手の作品を知り尽くしてる感が見事ッス!!
だってさー、引っ越し先の部屋や家を建てる土地が「曰く付きなんじゃー」なんて誰でも考えそうな事だし、そーでなくともパソコンを使った恐怖演出とか部屋の間取りを活用した恐怖演出など、身近感が恐怖に直結しますよ!
役者以上の存在感ありありな美術セット、小道具など細部へのこだわり、無音上等の研究熱心な恐怖シュチュエーション作り、次から次へ登場する変人キャラたちと全てがパーフェクト!!

パンフレットにはスタッフ&キャストの怖く見せるこだわりから、登場した部屋の間取りを紹介しながら「予算を抑えて見せる美術」も垣間見えるページも! 面白かった!


残穢(ざんえ)―住んではいけない部屋―』
★★★★★
5つ星

『ライチ☆光クラブ』感想

2016年3月1日(火)、池袋で『ライチ☆光クラブ』を観賞して来ました。

原作は腐女子バイブル的マンガだけあって、劇場はサブカル女子だらけでしたねー。場所も池袋だし。原作マンガは読んでないんですが、映画本編を観てみて納得。BLあり、エロあり、グロあり。奴らの餌じゃないですか。「早く帰ってラノベ以外の本を読め」と思いましたけど。
面白いのが、これ、ボクの好きなB級映画のテイストって話ですよ。
工場跡地をアジトにして、6人くらいの中学生たちが自分たちのルールと言うか規律を守る「光クラブ」なる組織を作っており、「体の成長は罪じゃない。大人になるまで生きてるのが罪なのだ。」とか言ってるんですよね。
冒頭で、アジトに潜入して来た女教師を縛り上げ、「どーやって殺すか」ってのを相談してるんですよ。「いやいや、オレの考えた方法の方がエグいぜ!」みたいな。結局、腹をかっ捌いて殺したんですけど。
ボクは思いましたねー。「とんでもねー奴らだなー」って。
そいつらがロボットを作って、「女を捕まえて来い!」って外に放ったら、間違って酔っ払いとか連れて来ちゃう。そこら辺から「なんだ、この映画は?」と。笑って観てたんですけど、どー観てもシリアスな演出なんですよ。まぁ、だから笑えたんですけど。「これ、ロジャー・コーマン(B級映画の帝王)の映画かなー」と思ってたら、このロボット、ホントに激カワ女学生を連れ去って来るんですよ。そっからが話の本題。
とりまイスに縛りつけて「だれも、この女に触んじゃねーぞ!」となるんですよ。でも、当たり前田のクラッカーで、みんな興味津々で仲間の間に亀裂やら暗躍やらテンヤワンヤ。
アメリカにはエクスプロイテーション・フィルムってジャンルがありますけど、エクスプロイテーションって日本語で搾取(奪い取るとかの搾取ネ)って意味なんです。黒人を観客に見据えたブラックスプロイテーション。ポルノ映画はセックスプロイテーション。みたいな事です。観客を呼ぶ為だから芸術性や話の質はどーでも良いって作品なんです。だから、大抵の作品は見終わった後、何も残らないんですね。
そーゆー考えでいくと、本作はサブカル女子スプロイテーションですよ。
男同士のフェラ・シーンとか奴らしか喜ばねー。ユリ映画『キャロル』とか観てコーフンしてる女が楽しむ作品ですね。
まぁ、ノンケは楽しめないかと言うと、決して、そんな事はないですよ。
その後、少女と見張り役のデクノ坊のロボットとの交流が描かれていき、予想をフライングした反乱のクライマックへと流れ込んでいきます。「この先、どーなるの?」な興味がラストまで集中力を持続させた展開で、この架空のアングラな世界観へ引き込まれました。架空の話ながら、現代の日本では「無い!」と断言できないテーマの濃さ!
それにエクスプロイテーションって文化ですからね。サブカル女子がどーゆーのが好きかというのを観て、「なるほど」となるんですよ。アメリカのB級映画を「意味わかんなーい」「チープでダサ~い」「キモ~い」とか言ってるコミュ障たちが同じようなストーリーなのに、マンガ原作という事でこぞって劇場に足を伸ばしてるんですよ。良い事です。

★★★☆☆
星3つ

『尾崎支配人が泣いた夜 DOCUMENTARY of HKT48』感想

2016年3月1日(火)、池袋シネマ・ロサで『尾崎支配人が泣いた夜 DOCUMENTARY of HKT48』を観賞。

今作はAKB48の姉妹グループであるHKT48のドキュメンタリーです。
ボクはテレビも観ないし、アイドルにもビタ一文たりとて興味がないのですが、「絶対DVDで観なさそう」という事とタイトルに引かれて、観てきました。
『尾崎支配人の泣いた夜』!
誰だ、尾崎支配人って!?
泣いたって何があったんだ?!
そしたら、尾崎支配人、全然、出てこないんですよ!
HKT48の中心人物らしいけど、グループ内でどーゆーポジションなのか解らない指原莉乃が監督してて、グループの歴史を辿りながら、メンバーたちへインタビューしていく構成になんです。
んで、やっぱりアイドル・グループだけあって過去の映像素材が豊富なんですよ。結成当時からひたすら撮られ続けてたんでしょーね。逆に、こんなにカメラに囲まれて生きてたら恋愛してる時間を作れる事の方が凄いですよ!
って言ってますけど、グループの歴史を知らないから、事の重要度が訳ワカメ。
そんな事よりも、端から見てると宗教団体みたい。
これは森達也の『A3』か?!と思いながら観てましたよ。「彼女たちの思想=何が正しいか、何がどれだけ自分の比重を占めてるか」という事が、あまりにもボクの身近に無さすぎて、カルト教団と同じレベルに見えるんですよ。まぁ、どの世界でも、重要度のズレや振り幅ってありますからね。
トークの内容事態はバカな女の子たちの他愛ない会話なんですけど、やはり、ライブやらセンター争い、総選挙とプレッシャーの場数が多いだけあって、思想がプロなんですね。同じ歳の女の子たちに、彼女たち程の思想があるかと思うと人生観が変わるんだろーなぁ。と感心しました。
そんで、メンバー同士で複雑な感情が入り乱れてるんですね。当たり前なんですけど、仲の良いor悪いもあれば、嫉妬するメンバーも居るし、自分の事のよーに泣けるメンバーも居るんですね。
いつの間にやら、ボクも貰い泣きですよ。もう何が泣けるんだか解らないけど、複雑&不安定な精神状態の中で様々なアクシデント……というか大人が商売の為にあれこれ難題を押し付けてくる訳ですよ。
もう、可哀想で、可哀想で。大人たちに虐められてるよーにしか見えませんでしたよ。
最後らへんで加入したメンバーとか、もはや小学生だからね! 女子高生でもないんですよ! もう、虐待ですよ!(笑)
所々、指原莉乃監督が「う~ん」と悩んでるメイキング的な映像が挿入されて、作品構成の主旨と外れるから「このシーンはこーゆー理由で入れたんですよ」という言い訳にしか見えなかったですが、こんなんプロがやったら怒られますよ(笑) アイドルという素人が監督してるという商売だから成り立つ。映画として観れぱ観る程、不思議な映画でした。テレビ番組みたい。

そんな感じで観てたら、あの「尾崎支配人」が登場。ある事件について、みんなの前で話そうとしてたら涙が!!
室内だったから夜かは解らなかったけど。


『尾崎支配人が泣いた夜 DOCUMENTARY of HKT48
★★☆☆☆
星2つ

『サウルの息子』感想

2016年2月29日(月)、新宿シネマテリカで『サウルの息子』を観賞して来ました。

アカデミー賞外国映画賞&ゴールデングローブ賞外国映画賞受賞。カンヌ国際映画祭グランプリ受賞。
と快挙を成し遂げてるのが本作。

こらまた難儀な撮影方法が凝ってる映画です。
始まって早々、どーやら森の中なんですけど、1カット目からピントが合ってないんですね。「おやおや、どーしたー?」と思っていたら、男がフレーム・イン。彼が本作の主人公のサウルなんですが、彼にはしっかりとピントが合っています。カメラはサウルが歩いて行く方向に同行していくんですね。周りを流れていく大勢の人々を誘導している様子のサウル。その大勢の人達を「シャワー室」と呼ばれる部屋へ入れて行く時に、ここがユダヤ人の強制収容所で、「シャワー室」は「ガス室」だと初めて気づくのです。
今作は、ナチスの命令によりユダヤ人大量殺害の実行を指示されていた「ゾンダーコマンド」と呼ばれる人達の話です。ユダヤ人を殺しまくってたナチスの中でPTSDが流行り、なんとナチスガス室送りのユダヤ人の殺害を同じユダヤ人にやらせてたんですね。本作の主人公=サウルの仕事は移送されてきた同胞のユダヤ人をシャワー室だと騙してガス室で殺し、次の移送列車が到着する前に遺体を処理し、ガス室に残った血や糞尿を掃除する事。
もう、ただでさえゲンナリなんですけど、カメラが主人公を延々と追いかけ回してるので、観客も追体験させられる訳ですね。相変わらず主人公の表情と主人公が見てる物にしかピントが合わないので、ガス室へ入れられるユダヤ人たちや死体の山などはうっすらしか見えないんですよ。
ハウルは無表情で作業を淡々と進めるだけで、他の物にピントが合わないので、主人公が周りを見ないよーにしてる事が示唆されてる訳です。完全に心を閉ざしてるんですよ。でも、音がリアルで「ドアを叩く音」や「人々の叫び声」が状況を想像させるんですね。
なんだ、この体験映画は?!
今作は画面比率がスタンダード・サイズ(ほぼ正方形に近いブラウン管のテレビの画格)になっていて、横長の画面サイズに馴れた今、スタンダード・サイズで主人公の視点を意識させるのも効果的だと思いました。
ストーリー的には、そんなサウルが少年の死を目撃してから変な動きをし出すんですね。そんで、ある目的の為、ナチの目を盗み、収容所の中をあっちこっち動き回るんです。「サウル、どーした?」と思いながら見てると、収容所内のレジスタンスたちは、また別の動きを画策していて、そいつらと接触するサウルの行動を通して、ある歴史の事件へと発展していく展開なんですな。
ただ、凝った撮影方法が一貫され過ぎてて、画的な変化が少ないのが、ちょっと辛かった。

パンフレットは歴史的な整合性の紹介や監督の想いや考え方の解るインタビュー等が掲載されてて、薄い割りに、なかなか濃い内容だったので買いだと思います。

サウルの息子
★★★☆☆

『ヤクザと憲法』感想

2016年2月26日、ポレポレ東中野で『ヤクザと憲法』を観賞。

現代ヤクザの事務所に密着して、何だか色々とヤバめの映像を撮影したドキュメンタリーです。
オープニング、本作を撮影する「約束ごと」が紹介されます。

1、取材謝礼金は支払わない
2、収録テープ等は事前に見せない
3、モザイクは原則かけない

スゴくない?!
また、さらにスゴいのは、冒頭、事務所を案内する組員に対して、「この袋なんですか? マシンガンとか入ってるんですか?」と、やたらダイレクト&デンジャラスな質問を炸裂させる本作スタッフさんでした。
事務所の中を案内してた組員も「ちゃいますよ! (組立式)テントが入ってるんですよ~。」と応戦。
所が、更に「銃とか無いんですか?!」「他の組が襲撃して来たら、どーするんですか?!」と怖いくらい突っ込んだ質問を続けるんですね。「なっ……無いんですよー。にっ……日本で銃を持ってたら銃刀法違反で捕まっちゃうじゃないですかぁ~」という大変、正しいけど明らかに動揺してるのがリアル過ぎる返答。もう笑うしかないんですよ。
まぁ、そんな本作はチャンバラ、ドンパチや仁義なき抗争なんて東映の実録映画なシーンは一切ありません。むしろ、逆にヤクザの事務所に密着して、何もない日常を淡々と捉え、その中からテレビでは見れないヤクザの生活、バックボーン、あるあるネタを浮き彫りにしていく作品なんです。
やれ、居酒屋の女将が「警察がなに守ってくれるぅー? 組長さんはちゃんと私らの事を守ってくれるでー」とカメラに向かって証言したり。
やれ、「ヤクザの子供は幼稚園にも入れへんねん。」と訴えてみたり。
やれ、選挙の報道が載る新聞を片手にボソッと「ワシ、選挙権ないねん。」と呟いてみたり。
つまり、本作はヤクザを捉える事により、「基本的人権の尊重」をうたっている日本国憲法の矛盾をも浮き彫りにしていく所がスゴいんですね。ヤクザはあくまでもメタファーなんですよ!
このドキュメンタリーを制作したのが東海テレビというテレビ局というのが、またスゴいです。しかも、テレビ局制作の作品に有りがちな説明過多になっないんです。むしろ、少ない!
バカなテレビマンがやりがちなナレーションも音楽もない。つまり、誤魔化しの手管を使ってないって事なんですね。
撮影の対象になっているヤクザたちも赤裸々にカメラを受け入れてるですね。むしろ、ガサ入れに入った警察の横柄な対応の方が浮いて見えます。
日本の片隅でボクらの知らない世界を見せてくれる。これぞ、あぁ、ドキュメンタリー……なのです。

『ヤクザと憲法
★★★★☆
星4つ

『オデッセイ』(4DX)感想

2016年2月15日(月)、ユナイテッド・シネマ豊洲で『オデッセイ』を4D・吹替え版で観賞して来ました。

1人ぼっち火星サバイバル映画ながら、意外に軽いノリで観れる映画でした。何故なら、火星に取り残される主人公が「陽気な天然キャラ」だから。
火星で調査を進めてるクルーが砂嵐に襲われ、「作業中止! 逃げろー!」って宇宙船に乗り込んでたら、主人公だけ飛んできたアンテナにぶつかり、砂嵐の中へ吹っ飛んでいくんです。そこまでが冒頭10分くらい。NASAは死んだと思って、壮大に葬式を上げるんです。火星作業クルーの隊長なんて罪悪感にさいなまれてて、部下に「悪くないですよ」とかって慰められたりしてる訳ですよ。そしたら、生きてたっていう。まさかの火星に1人、置いてけぼりですよ。そんな事あります?!
NASAの本部では「あいつは置いてかれたと思ってるに違いない。裏切られたと思ってるはずだ。どんな気持ちだろーな、1人で。いたたまれない。」と心配してるんですけど、次のカットでは火星に取り残された主人公がシャワーから出てきて陽気にディスコ・ソングを聴いてるんですね。このディスコ・ソングもクル...ーの隊長のパソコンから見つけた音楽で、映画中、終始「なんでディスコ・ソングしか入ってねーんだよ!」とキレてる始末。「じゃあ、聴くなよ」とも思うのですが。そんなんなんで、ミュージカルか?!ってくらい全編、次から次へ、ノリノリのディスコ・ソング全開!!
ただ、先日、亡くなったデビッド・ボウイの曲が丸々1曲、使われてるシーンはついついグッときましたね。
それでいて、宇宙で科学的に野菜を育てる方法や水を作り出す方法など、天然だけどバカではない主人公によるサイエンス手管の数々が丹念に描かれていきます。このように、なんてこったな危機的状況を陽気な精神と几帳面な段取りでサバイブしていくのが面白くて、思わず見いっちゃいますね。本作を3回くらい観ておけば、いつ火星に取り残されても大丈夫。ここら辺の科学的考証はパンフに結構ページを割いて掲載されているのですが、かなり信憑性があるらしーです。
主人公が火星での生活を動画で保存しているという設定で主人公によるナレーションで状況を分かりやすく(ユーモラスに)リードしてくれるので、とても観やすい。
それでいて、NASA本部のワタワタや地球へ帰還途中のクルーの重たい空気など……が同時進行で描かれる構成です。その中で垣間見えるリアリティーの説得力はシリアスで、ユーモアを忘れない主人公とのギャップが笑いを生みます。他の隊員の置いて行ったパソコンを漁って、「暇つぶしゲーム見つけたー」とかね。
主人公を演じるのはマット・デイモン。ピッタリです。ボクだけかもしれないですけど、マット・デイモンって天然キャラがハマると思うのですが。抜けてるキャラとか。思うに、若い頃からスコセッシやイーストウッド、ソダーバーグ、スピルバーグなどの大御所監督陣の作品に出てるのに、同年代のジョニデやブラピに比べると何か霞む……と言うか、華がない。そんなデイモンは、それだけで庶民派な好感度があり、天然キャラもナチュラルですね。それこそ、トム・クルーズとかがやったらハナにつきますよ。
火星クルーの女隊長役はジェシカ・チャステイン。『ゼロ・ダーク・サーティ』でビン・ラディンを追うCIA分析官を圧倒的な頑張り屋さんキャラで演じてた女優さんですね。
今作でもクルーの身を預かる気丈な態度ながら、実は罪悪感にさいなまれる繊細な心の持ち主を演じています。本作の監督=リドリー・スコットがお得意とする「強い女」の象徴キャラですね。今までも『エイリアン』のシガニー・ウィーバーや『G.I.ジェーン』のデミ・ムーア、『ハンニバル』のジュリアン・ムーアなど戦場で戦う強い女萌えのリドリー。
ゼロ・ダーク・サーティ』を観て「オレの方がもっと……」と思ったかどーかは知らないですが、そーに違いありません。
ちなみに4D的には良かったです。特に冒頭の砂嵐に襲われるシーンなんて、ずっとソファーが動きまくりのアトラクション感。臨場感ハンパなしです。ボクは吹替えで観たから良かったですが、字幕は追えないんじゃないでしょーか。あと、宇宙空間でのソファーがゆっくり動く浮遊感も絶妙でした。
ただ、リドリーの映画はいつもそーなんですが、長い。クライマックス近くの救出シーン辺りで集中力きれそうになりましたわ。

『オデッセイ』
★★★★☆
4つ星

『ボクソール★ライドショー』(4D2D)ネタバレなしレビュー

2016年2月1日、ユナイテッド・シネマ豊洲で『ボクソール★ライドショー 恐怖の廃校脱出!』(4DX)を観賞して来ました。

ドキュメンタリー風フィクション=POVの名手である白石晃士監督が4DXの世界へ降り立ちました。事件ですね!
内容は、アイドルみたいな女の子3人(誰も見たことない子だった。。。。)とカメラマンが廃墟の中へ入ったが最後、出られなくなるというタイトルに嘘偽りの無い作品でした。全編、手持ちカメラで中継映像を撮っているというテイで突っ込んで行きます。
あっちこっち場所を飛び越える演出やあっという間に昼間から夜へ演出、挙げ句に異次元迷子と白石監督の『コワすぎ!』シリーズの脅かし手練手管を25分に詰め込んだよーな作品でした。
ボクとしてはチョイ見せ幽霊が好みなので、本作のよーな怪物ドーンな描写にはワクワクしないのですが(ただ、登場人物たちを追い詰めていくピエロの造形にはグッときました)、お化け屋敷風味のアトラクション要素に特化した演出は楽しかったです!
で、そのアトラクション色と4DXの相性はバツグン!
背中に当たる衝撃、首もとへの風。足元を触る仕掛けにスクリーン前のスモーク。そして、小雨くらいの水の噴射。もう顔面ビチャビチャですよ! 中でも特に驚かされたのは手持ちカメラの角度に合わせてソファーが動く所。まるでカメラと目線が一体化したよーな錯覚!


ボクソール★ライドショー 恐怖の廃校脱出!』
★★★☆☆
星3つ

【演劇】NODA・MAP第20回公演『逆鱗』感想

2016年1月31日、東京芸術劇場NODA・MAP第20回公演『逆鱗』を観劇して来ました。

水族館を舞台に人魚ショー開催の為、人魚の捕獲を企てる人間たちと海の底で暮らす人魚たちの物語をスピィーディーに描写。いつも以上に飛び交う言葉遊びがギャグに直結。ゲラゲラと笑いながら観ていたのですが、ピンボケした断片的なストーリーが重たいテーマへと結実していくクライマックスは圧巻でした。
パンフレットのインタビューによると、着想について「確か、水族館から入りましたね。」との事。マジかよ。そこから、ここまで風呂敷を広げ、組み立ていったと考えると、スゴ過ぎて、逆にゾッとしますね。
人魚に関してもピュアでファンタジー色を押し出すのではなく、滅びかけた小さな村のように土着質な描写が薄気味悪い童話のよう。都会的な水族館との対比になって世界観へ引きずり込まれました。また、地上の話と海の底の話と、唐突に場面が飛び合い、その度に世界観がリセットされたような。微妙に設定やキャラクターが変わっていく事により、ラストのメタファーのヒントを小出しにしており、そのヒント回収も観劇中の楽しいミッションになっていく訳ですよ。
まぁ、とは言え、世界観という事で言えば、広げまくった大風呂敷は幾重にもバラバラになり、回収する事なくウヤムヤにされた感もあります。それでも情報量の多い比喩表現のメタファー設定はちょっとウカウカしていると置いてけぼり食らう勢いがありますから、「何を残し、何を放置したんだ?」という観賞後の楽しみにもなる訳です。
人魚役を松たか子がある時はピュアに、ある時は強かに。前半はでずっぱりという訳ではないのですが、存在感バツグンで、ちょっと近づけないオーラを放ってました。逆にもう一人の主人公を演じる瑛太は田舎の陽気なアンちゃんノリで問答無用に仲間入りできる好感度。映像作品ではバタ臭く見える井上真央も演劇のスケール感に馴染んでおり、飴とムチとムチみたいな役を魅力的に演じてました。そんな中、コメディーリリーフな役回りで観客から笑いをカツアゲしていく阿部サダヲ池田成志の安定感。それだけに、ラストの阿部サダヲの後ろ姿のギャップにはグッとくるものがありました。今回の野田秀樹大先生は助手任せの学者先生の役。よく見ますね、学者役。
で、今回は海がテーマなので、衣裳が面白いです。
デザインもですが、質感も「なるほど!」と膝を叩いてしまいます。それが、アンサンブルの動きで面白いように変化してて、見応えありました。プロジェクター映像を使ったネタも今までにない使い方で、もはや手品の域です。

余裕があったら、あと1回、当日券で観劇したいです。そのくらいの情報量。
ちなみに、今回のパンフレット、表紙のデザインがgoodでした。中身はリリー・フランキーによる稽古場見学の記事から野田秀樹の製作現場を垣間見れたのがナイス!
どーしても演劇って、パンフを作ってる時期も作品がどーゆー感じで完成するか解らないから、難しいと思いますが、その中でも題材ネタの対談(今作では野田秀樹×さかなくん)やキャストたちの稽古の手応え、方向性についてのインタビューなど、大変、頑張ってると思います。いつもながら、あっぱれ。


『逆鱗』
★★★★☆
星4つ

『グリード チャンプを継ぐ男』感想

2016年1月29日(金)、ユナイテッド・シネマズ浦和で『クリード チャンプを継ぐ男』を観賞。

先月、劇場で予告編を観て号泣した『ロッキー』シリーズのスピンオフ作品です。
『ロッキー』シリーズを観てなくても楽しめる作品かと思ってたら、ガッツリ続編でちょっと引きました。シリーズ観てないと解らないお話です。
最近のスピンオフ映画とか続編映画って前作を観てるのが前提条件なんですね(『007』しかり『スター・ウォーズ』しかり)。
『ロッキー』1作目で主人公=ロッキーが挑むチャンピオンのアポロ・クリード。2作目で再戦。3作目では友情が芽生え、ロッキーはアポロに練習法を学び、闘いに挑むのです。
で、本作の主人公は、そのアポロの愛人の隠し子=ジョンソンなんですね。そんな彼がチャンピオンだった父と同じようにボクシングを始めて、登り詰めていく……という話なんですよ。そーなんです。つまんなそーなんですよ。
案の定、前半は、お約束のパターン展開で、ガッカリしました。アポロの奥さんってのが凄く良い人で、孤児だった主人公を引き取り、学校へ通わせ、今や主人公は立派な勤め人なんですよ。出世もして順風満帆そうなんですけど、冒頭で急に辞めちゃうんですよ。辞めて、ボクサーになると決意するんですね。なんで?
その理由は一貫して「父の、チャンピオンの血がそうさせる」とサイヤ人みたいな事を言うんですね。母親には「ボクシングをやるなら、この家から出ていって」と言われ、ちょっとウジウジしてるけど、あまり悩まない。そこまでしてやる事か感が拭えなかったですねー。
小さな部屋を借りて、ロッキーに弟子入り志願。コツコツ練習を積むも、隠していた「父親がチャンピオン」という事実が露呈。七光りレッテルを貼られ、暴行事件で対戦相手を探していた現役チャンピオンの噛ませ犬に抜擢されるんです。
「いやいや、大抵、予想通りの展開ですけど。」と思いながら観てました。
所が、本作では、さすがにチョイ役かと思っていたロッキーに重大事件が発生。急にのっぴきならない展開へ流れ込んでいくんですね。
登場するなり、もうおじいちゃんなロッキーは、もう何年もジムへは足を運んでないんですね。で、レストラン経営で生計を立てながら、亡くなった奥さんの墓に話しかけるのを楽しみな老人ですよ。しかも、ただ死ぬのを待つ老人で、人生の終わった人なんですね。ロッキーを演じるシルベスタ・スタローンもヨボヨボで「『エクスペンダブルズ』って10年くらい前の映画だっけ?」と思いましたよ。そんなロッキーが主人公に練習法を教え、特訓に付き合っている内に、生きる気力を見つけていくドラマも展開。主人公のエピソードとコラボ技に発展。涙のラストへ流れ込んでいく事になります。
主人公のアパートで、ご都合主義的な偶然で知り合う歌手の女の子とのラブ・ストーリー要素もプラス。
結構、練習シーンが少なく、彼女とケンカしたり、ロッキーと揉めたりと、練習そっちのけな印象なんですけど、その分、ドラマはてんこ盛りです。クライマックスの試合のシーンに結実。もう号泣です。
スター・ウォーズ』もそうでしたが、もう「『ロッキー』の新作を観に行くんだ!」というお祭りとして楽しむ映画だと思いますね。
あと、羽佐間道夫の吹き替え版で劇場公開してほしかったですね。そーなったら、主人公の声はタレント(EXILEとか)使うんでしょーけどね。クソですね!!


クリード チャンプを継ぐ男
★★☆☆☆
星2つ