ユンギボの映画日記

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【演劇】NODA・MAP第20回公演『逆鱗』感想

2016年1月31日、東京芸術劇場NODA・MAP第20回公演『逆鱗』を観劇して来ました。

水族館を舞台に人魚ショー開催の為、人魚の捕獲を企てる人間たちと海の底で暮らす人魚たちの物語をスピィーディーに描写。いつも以上に飛び交う言葉遊びがギャグに直結。ゲラゲラと笑いながら観ていたのですが、ピンボケした断片的なストーリーが重たいテーマへと結実していくクライマックスは圧巻でした。
パンフレットのインタビューによると、着想について「確か、水族館から入りましたね。」との事。マジかよ。そこから、ここまで風呂敷を広げ、組み立ていったと考えると、スゴ過ぎて、逆にゾッとしますね。
人魚に関してもピュアでファンタジー色を押し出すのではなく、滅びかけた小さな村のように土着質な描写が薄気味悪い童話のよう。都会的な水族館との対比になって世界観へ引きずり込まれました。また、地上の話と海の底の話と、唐突に場面が飛び合い、その度に世界観がリセットされたような。微妙に設定やキャラクターが変わっていく事により、ラストのメタファーのヒントを小出しにしており、そのヒント回収も観劇中の楽しいミッションになっていく訳ですよ。
まぁ、とは言え、世界観という事で言えば、広げまくった大風呂敷は幾重にもバラバラになり、回収する事なくウヤムヤにされた感もあります。それでも情報量の多い比喩表現のメタファー設定はちょっとウカウカしていると置いてけぼり食らう勢いがありますから、「何を残し、何を放置したんだ?」という観賞後の楽しみにもなる訳です。
人魚役を松たか子がある時はピュアに、ある時は強かに。前半はでずっぱりという訳ではないのですが、存在感バツグンで、ちょっと近づけないオーラを放ってました。逆にもう一人の主人公を演じる瑛太は田舎の陽気なアンちゃんノリで問答無用に仲間入りできる好感度。映像作品ではバタ臭く見える井上真央も演劇のスケール感に馴染んでおり、飴とムチとムチみたいな役を魅力的に演じてました。そんな中、コメディーリリーフな役回りで観客から笑いをカツアゲしていく阿部サダヲ池田成志の安定感。それだけに、ラストの阿部サダヲの後ろ姿のギャップにはグッとくるものがありました。今回の野田秀樹大先生は助手任せの学者先生の役。よく見ますね、学者役。
で、今回は海がテーマなので、衣裳が面白いです。
デザインもですが、質感も「なるほど!」と膝を叩いてしまいます。それが、アンサンブルの動きで面白いように変化してて、見応えありました。プロジェクター映像を使ったネタも今までにない使い方で、もはや手品の域です。

余裕があったら、あと1回、当日券で観劇したいです。そのくらいの情報量。
ちなみに、今回のパンフレット、表紙のデザインがgoodでした。中身はリリー・フランキーによる稽古場見学の記事から野田秀樹の製作現場を垣間見れたのがナイス!
どーしても演劇って、パンフを作ってる時期も作品がどーゆー感じで完成するか解らないから、難しいと思いますが、その中でも題材ネタの対談(今作では野田秀樹×さかなくん)やキャストたちの稽古の手応え、方向性についてのインタビューなど、大変、頑張ってると思います。いつもながら、あっぱれ。


『逆鱗』
★★★★☆
星4つ