ユンギボの映画日記

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警官に狙われた警官による汚職ポリス映画『セルピコ』(#44)

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セルピコ

冒頭から、唐突に銃で撃たれた主人公が病院へ運ばれていくシーンで幕開け。
その報告を受けた警官たちも「とうとう、やられたか」みたいな神妙なムード。それは、主人公のセルピコが警官仲間たちに嫌われまくってるからなんです。音楽も無し。静かなスタート。

主人公の回想シーンのように本編の始まり。警察官になった日が描かれる。1日目から汚職警官の先輩に洗礼を受けます。レストランで「駐車違反を見逃してやってんだから貰っとけ」と飯代無料サービス。こんなんじゃダメだと試験を受け、鑑識の部署へ。そこでも、賄賂が横行。「ウチはこーゆールールなんだから受け取っとけ」。上司に報告。それでも、掛け合ってもらえず。
今度は刑事に昇格。「クリーンな部署」と紹介された新たな部署へ。所が、初日から「お前の分け前だ」と金を渡される始末。
とにかく、「金は受け取らない」と警官仲間たちからのお誘いを事ごく拒否。「金を受け取らないお前は信用できない」と冷たい目。

これは辛い!! 職場で誰も味方がいないってのは辛いですよ!! しかも、事が事だけに殺される可能性もあり!! どんどん神経過敏になっていく主人公。恋人ともケンカ。

監督は、シドニー・ルメット監督。少年の殺人事件について議論する裁判員たちを描いた『十二人の怒れる男』。銀行強盗事件を緊張感タップリに描いた『狼たちの午後』。或いは、落ちぶれた弁護士がアメリカ中の注目する裁判に挑む『評決』。マスコミを風刺した『ネットワーク』。そういう映画を撮ってきた監督で、“社会派監督”と呼ばれています。
勿論、本作も「警察内部の汚職」を告発した“社会派映画”ではあります。が、本作を観直して思ったのは、キャラクター映画の監督でもあるという事。
本作の主人公セルピコの様々な面を見せていきます。街の馴染みの靴屋へ行って食事の約束をするセルピコ。ナンパするセルピコ。自分の捕まえた犯人にコーヒーをご馳走するセルピコ。恋人と過ごすセルピコ。動物の世話をするセルピコ。上司に食って掛かるセルピコ。賄賂の受け取りをヒョイとかわすセルピコ。様々な人物と接し、どんな対応をするのか? セルピコの人物像を多面的に見せていきます。
セルピコを演じるアル・パチーノも、その時々で違う顔を見せます。それでも全くブレなくセルピコの人物像を演じきっており、素晴らしいです。

むしろ、ストーリーは、セルピコの日常を追いつつも、短いエピソードの羅列。映画全編で捜査している大事件がある訳でも、恋人との関係の変化を追い続ける訳でもありません。音楽も最低限。

それでいて、緩急も絶妙。恋人に八つ当たり。緊迫したシーンの後、インコにエサをやってるセルピコのシーンが入ります。インコが器用にピーナッツを手で持ったりして、妙にユーモラス。こういったシーン毎の緩急を全編通して取り入れているので、一つの大きなストーリーラインがある訳でもないのに、集中力を極力、途切れさせない技が効果的だと感じました。
芸人や工場労働者など、様々な変装、ファッションに身を包み、犬を連れて歩くアル・パチーノのカッコ良さ!!

このシドニー・ルメット監督のやり方は他の映画でも同様。そこら辺を意識してルメット作品を観ていくと、とても楽しめます。

今回は、吹替え版で観賞。アル・パチーノを吹替えるのは、フィックス声優の野沢那智さん。気だるい演技と怒鳴り声をシーンによって使い分け。メリハリを付けて吹替えています。さらに、セルピコの上司を吹替えている俳優の西村晃さんも抑えた芝居で印象的です。終始穏やかなのに、セルピコが警察外部に相談したとしるや急に怒鳴り出す。通る声が耳に残りました。

星5つ
★★★★★

【関連動画】

SERPICO - Trailer ( 1973 )


製作年: 1973年
原題: SERPICO
メーカー: KADOKAWA
受賞記録: 1974年 第31回 ゴールデングローブ 男優賞(ドラマ)
出演者: アル・パチーノ 、 ジョン・ランドルフ 、 ジャック・キホー 、 ビフ・マクガイア 、 トニー・ロバーツ 、 コーネリア・シャープ 、 バーバラ・イーダ=ヤング 、 アラン・リッチ 、 ハンク・ギャレット 、 ダミエン・リーク
監督: シドニー・ルメット
製作総指揮: ディノ・デ・ラウレンティス
脚本: ウォルド・ソルト 、 ノーマン・ウェクスラー
原作者: ピーター・マーズ
音楽: ミキス・テオドラキス