ユンギボの映画日記

ユンギボ(@yungibo)によるあらすじ紹介、ネタバレなしのレビュー、解説・考察をお届け‼

『キャプテン・アメリカ/シビル・ウォー』(吹替え版)感想

2016年5月14日(土)、池袋で『キャプテン・アメリカ/シビル・ウォー』を観賞して来ました。

冒頭からリアル・ヒーローものの定番「ヒーローは危険じゃないのか?」問題が勃発。
それって、この前の『スーパーマンVSバットマン』でもやってたし、『ウォッチメン』や『X-MEN』とかでも散々、やったネタじゃんと思いますよね。まぁ、そーなんですけど。
でも、今回の話はそこからキャプテン・アメリカとアイアンマンか仲違い。対決するストーリーになってて、これが一筋縄ではいかんのですよ。アメリカ政府は「お前ら、アメリカ政府の許可なく、暴れすぎ。国民に対して責任を持てないから、国連の指示で動くヒーロー活動をしろ。嫌なら引退しな!」と言ってくるんです。
自分が暴れまわった為に一般人への被害を出してしまったアイアンマン。そーでなくとも前作『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』では自ら敵を作ってしまった訳ですからね。害妄想から心配性の塊になってしまってるんです。だから、以前のようにコミカルなジョークを飛ばさなくなり、むしろアベンジャーズを組織として維持する事に必死な大人へ成長。ソッコーで政府の意見に賛同。
方や、キャプテン・アメリカは前作『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』で「アベンジャーズが所属していた組織=シールドは悪の組織=ヒドラに乗っ取られてた」トラウマから、大好きなアメリカ政府さえも信じられないメンタルに。 それがピュアな少年まま現代に甦ったキャプテンだけに、「本当に信じられる物はなんだ?!」と兵隊としてのアイデンティティー探しですよ。勿論、政府の申し出には乗っかりません。
でもね、キャプテンの気持ちも解るよ!!
かと言って、アイアンマンも悪くない!!
複雑!!
これは、子供が観ても解らないですねー。大人のドラマですよ。現にボクの隣に座ってたお父さんに連れられた小学生はアクション・シーン以外、ずっとポカーンとしてましたよ。あと10年後に見直せ!!
そんな中、キャプテンの元親友、元宿敵=ウィンター・ソルジャーがテロ活動に勤しんでると情報が入るんです。アイアンマン・チームはバッキーをボコる為に血眼。キャプテン・アメリカは秘密裏にスタンドプレー。そこから、政府的には反逆者となったキャプテンと政府の所有となったアイアンマンが対決する羽目になるという燃える展開に。
本作ではキャプテンとアイアンマンは勿論、キャプテンとウィンター・ソルジャーとの関係や新キャラのブラックパンサーとブラック・ウィドウの関係などが掘り下げて描かれていく辺り、非常にグッとくる訳ですよ! そして、何よりも、今までの作品で時間を掛けて描かれてきたドラマもありましたよ。トニー・スタークとローディーの友情だったり、ホークアイとスカーレット・ウィッチの疑似兄妹関係、キャプテンとブラック・ウィドウの恋愛に発展しそうでしない危うい関係とかね。それが、もうどんどん後戻り出来ない境地までズタズタに崩れていくんです。観ていて、ヒヤヒヤですよ。特にラストはシェイクスピアの悲劇かと言うくらいに胸が痛みました。ちゃんと人間ドラマで見せていく上に伏せんとアクションとサプライズの連続ですよ。
もう、盛り沢山ですよ。盛り沢山すぎて、途中で「なんで戦わないといけないんだっけ?」と前半のストーリーを忘れる始末です。
そーゆーシリーズ通して観ている人は「今まで色んな事があって、乗り越えてきた仲間だったじゃん!」と感情移入もヒトシオな訳です。その境地に達するには、ホントは全作品、観といた方が良いんでしょーけど、とりあえず下記の作品を押さえておけば大体OK!
①『アイアンマン』
②『アイアンマン2』(『アイアンマン3』は駄作なので観る必要なし!)
③『インクレティブル・ハルク』(本作は余裕があればでOK!)
④『アベンジャーズ
⑤『アベンジャーズ/エイジ・オブ・ウルトロン』(『アベンジャーズ』の2作目)
⑥『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(『キャプテン・アメリカ』の2作目。)
⑦『アントマン

メチャメチャ続きな切なさ+気になるラストでしたが、まぁ、シリーズものですから。



キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』
★★★★☆
星4つ

『SHARING』(ロングバージョン)&(アナザーバージョン)感想

2016年5月5日(木)にテアトル新宿で『SHARING』のアナザーバージョン(99分)を。5月6日(金)にはロングバージョン(117分)を観賞して来ました。

劇場で観賞しながら、「これは、なかなか観れない斬新な作品を観てるぞ」という気持ちになりました。
というのも311東日本大震災をホラーというか怪奇なダークファンタジーとして撮った作品でして、劇中、都内でのみ話が進行していくので、一見、不謹慎にも思えたのですが、当事者でない日本人の心境をサラリと描き倒した印象があります。
東日本大震災で恋人を亡くし、それ以来、恋人の幻を見る心理カウンセラーの女性と東日本大震災で被災した人を演劇で演じる事になった女子学生の2人を主軸に、ちょっとズレた日常が描かれていきます。心理カウンセラーの女性の方は、「震災の前に予知夢を見た」という人々の研究をしていて、まるっきり震災での出来事を消化できてなく、トラウマから脱出できたない訳です。方や、演劇少女の方は「被災者の気持ちになって演じる事なんて出来る訳ない」と仲間たちと衝突し、孤立化していくんです。「震災をどう受け取るか?」「被災者の気持ちに寄り添えるのか?」みたいなテーマがチラホラと垣間見えて、その問題提議と向き合ってないボクの胸に突き刺さったりします。
それでいて今作が説教臭くないのは、謎の男子生徒のドッペルゲンガー登場、ドコまでが夢か分からない構成、「神は本当にいるのか?」的モチーフ、虚像の記憶など、様々な要素をブチ込み、着地点不明な興味の引っ張っり方にあるんです。デヴィッド・リンチとか黒沢清な雰囲気ですよ。重厚なホラーテイストな音楽も最高でした。迷宮のような大学の入り組んだ構造を上手く使ってる演出もグッド!
個人的には、「現実の話かと思ったら、演劇の作中劇でしたー」とか「現実に起きた事かと思いきや夢でしたー」という構成や震災という現実にあった出来事を映画の中で語り、また、その映画の中で演劇として再構築している辺り、ウディ・アレンの『スターダスト・メモリー』やゴダールの映画を思い出しましたけど、まぁ、意識されてないでしょー。
ただ、観ている時に気になっていた「冒頭のイマジナリーラインを越えてる理由」や「画面に写ってない物の音」や「一眼レフカメラによる手持ちのぎこちなさ」「カット割りの乱暴さ」等の本筋と関係ない所なんかに観賞しながら意味を見出そうとしてたものだから、集中力を妨げられました。まぁ、そこら辺の事は、どーやら「こだわり」があったらしく大体、パンフレットに答えが載ってましたが。
ちなみに、アナザーバージョンはロングバージョンの主人公2人の話のみに構成したバージョンでして、ドペルゲンガーが出てこなかったり、アナザーバージョンにしか出てこないシーンがあったりします。が、主人公2人の話に集約したアナザーバージョンは他の摩訶不思議シーンをカットしてある為、1つ1つシーン(特に会話シーン)が長くなった印象でダレました。別に見なくて良かったとまで思いました。
ロングバージョンのハッピーエンドなのかバッドエンドなのかも分からない衝撃的なラストもグッときました。
あと、ホント、会話のシーンだけサクサク進んでくれたら……。


『SHARING』(ロングバージョン)
★★★☆☆
星3つ

『SHARING』(アナザーバージョン)
★★☆☆☆
星2つ

【過去作品】『怪談 せむし男』感想

2016年5月2日(月)、ラピュタ阿佐ヶ谷で開催されている「OIZUMI 東映現代劇の潮流」というプログラムで1963年のモノクロ映画『怪談 せむし男』が上映されていたので、行ってきました。

この映画、前々から見たかったんですよ! なぜなら、今作で主演の西村晃が好きだから!!
まぁ、西村晃と言えば一般的には『水戸黄門』のイメージかもしれませんけど、実は黒澤明深作欣二今村昌平などの作品にもバンバン出ている名優ですよ!
所が何故か時々、『散歩する霊柩車』とか『怪談 蛇女』とか『怪談 片目の男』とかB級ホラー映画に出演してたりするんですよ。そして、ほとんどがことごとく未ソフト化作品。そんな西村晃の本作の役所はタイトルの「せむし男」役です。
バッチしホラーメイク(むしろドラキュラ風味)して、背中に入れ物して、腰を丸めて、「これは仮装か?」と言う、もはや悪ふざけなワンマンショー。もう芝居も上手いんだかフザけてるんだか分かりません。それ所かストーリーも、複雑な話なのか分かりにくいだけなんだかも分からないくらい、あって無いよーなモノ。
未亡人が変死した旦那の死の真相を探る為、愛人との浮気用に隠れて使っていたという別荘へやって来る所から始まるのですが、ドアを開けると既にそこには、せむしの西村晃が!!
しかも、下からライトを当てたお化け風照明!
「キャー!!」
「お待ちしておりました、奥様。どーぞコチラへ」
という、お約束のパターンで中へ招き入れて、未亡人が振り返ると居ない!
「あれ?!」
突如、屋敷の上の階から西村せむし晃の高笑い「ケッケケケケケ!!」
だから、何なんだよ! 怖がらせたいのか、笑わせたいのか?!
未亡人を襲うカラス(部屋の中なのに)。
グチャッ!!
カラスを鷲掴みにしてる西村せむし晃!
怖い!!(けど笑いそう。)
クライマックスには、看護婦の服を破り脱がし、ポッチャリ美人な未亡人の服を破り脱がすという破天荒すぎるキテレツ・シーンが待ってます!
なんで、そんな事をしたのか設定的には意味が分かりませんが、何か、あの顔で迫ってくると怖いです!
終始、こんな感じで、全然、話が頭に入ってこなかったですよ。 まぁ、そーゆー予想以上に中身の無い映画なんです。
西洋館、ロウソク、カラス、十字架、地下の独房、入り口入ってすぐドーンと置いてある巨大な雪男風な怪物の彫刻……とヨーロピアンなアイテム&モチーフを大量投入。「怪談」というよりは「ゴシック・ホラー」な作風で、ハマー・フィルムとかロジャー・コーマン的な楽しみ方です。


『怪談 せむし男』
★★☆☆☆
星2つ

『マジカル・ガール』感想

2016年4月18日(月)、ヒューマントラスト有楽町で『マジカル・ガール』を観賞して来ました。

これは、ちょっと仕事が忙しくても観に行きたいと仕事帰りに駆け込んだ訳です。ボクを含めても3人しか居なかったですよ。やれやれ。

これは、ちょっとあれですね。変な映画を観たなって感じです。深夜、テレビ替えてたらタイトルも知らない映画がやってて、流し見程度に見てたら、段々、目が離せなくなる。見終わって、なんか変な映画を見ちゃったなーという謎の満足感。あれに似た感じですね。何が「変な映画」って、良い意味で不親切。淡々と見てたら、次々と謎が出てくるんですよ。歩み寄らないといけない。「ん? これは、どーゆー事だ? こーゆー事なのかな?」と。謎といっても作中で描いてないだけで、ストーリー中では省略してるだけなんですよね。
冒頭、白血病で余命1年もない中学生くらいの女の子と無職のオヤジの話から始まるんです。娘の願望ノートをオヤジが発見するシーンから泣いちゃってましたよ。「悲しい気持ちになる映画なのかなー」と思ってたら、話が飛んでもない所へ転がっていくんですよ。娘はマドマギ風の『魔法少女ユキコ』なるアニメのキャラに憧れてて、願望ノートにそのコスチュームを着て自分を夢みてるんですよ。そんで、コスチューム(有名デザイナーによる一点モノにつき90万円!!)を買ってやりたいけど、絶望的に金の無いオヤジは奮闘するんです。
所が、泣く準備が整った辺りで、急に新しい章のテロップが出て、美人なんだけど影のありまくる専業主婦の話が勝手に始まるんですよ。心の病なのか知らないけど、友達の家で奇怪な発言をして周りをドン引きさせたり、旦那も変な奴で「欠かさず薬だけ飲んでれば何をしても良い」と謎の薬を飲ませ続けるんですね。スクリーン全体から漏れ出る危うさ。「だから、ナンナンダ、この映画は?!」と。でも、進むにつれて、話が繋がってくるんですねー。
監督は「脅迫をモチーフにしたフィルム・ノワールを作りたいと思った。というのも登場人物たちをモラル面で極限状態に置くのに最適なタイプの映画だからだ。そうすると普通の人が日常生活では到底なし得ない決心を下す必要がある。」と語ってます。おっしゃってる通り、話はどんどんダークで真っ黒な世界観へ変わっていくんです。もう、不安で胸がいっぱいになりました。後味がバツグンに悪いですよ!
小さな謎だらけなのに謎に触れない中、サクサク話が進んでいく危うさ。ラストへ向かい集約されていく展開のカタルシス。見せないインパクト。エロ描写もハッキリと見せない色気、暴力描写も直接的に見せない怖さ。音楽も、BGMがほとんど入らない緊張感。逆にポイントでガッツリつかわれる長山洋子のアイドル時代のデビュー曲「恋はSA‐RA SA‐RA」。これ、スペイン映画ですよ?!
監督は日本文化オタク(主にサブカル)らしく、YouTubeでアイドル・ソングを漁りまくってたら見つけたそーですよ。作中には美輪明宏の映画『黒蜥蜴』オマージュも。
パンフのインタビューには江戸川乱歩とか丸尾末広手塚治虫寺山修司今敏の名前がポンポン出てくるから凄いです。どーりでダークな訳だ。逆に日本では昨今、あまり見れなくなった怪奇映画のテイストが懐かしくなったのも納得。パンフレット自体は薄いのですが、町山智浩さんによる批評、本作の監督=カルロス・ベルムトと園子温の対談など気になる企画が豊富。掘り下げたくなる映画だけに、貴重な情報源になる1冊。


『マジカル・ガール』
★★★☆☆
星3つ

『バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生』(4DX3D )感想

2016年4月6日(水)、ユナイテッドシネマ豊洲で『バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生』を4DX/吹き替え版で観賞して来ました。

映画としては出来損ないだけど、アメコミ・ファンへのサービスは過剰な1本でした。
本作は「スーパーマン」モノの前作である『マン・オブ・スティール』の続編でもあり、クリストファー・ノーラン監督の『ダークナイト』のバットマン・シリーズとは別モノという位置づけが、まず分かりにくいですよね。アメコミ・ヒーローものを短い期間で大量生産し過ぎなんですね。更に付け加えると、原作やアメコミを知らない人は「?」となるんじゃないかと思うシーンが幾つかある始末ですよ。
それには色々な原因が考えられますが、1番の問題は本作の監督であるザック・スナイダーが冷静さを失う程のアメコミ・オタクだという事です。
そもそも、「バットマンVSスーパーマン」とか言ってるけど、原作のコミックの中では結構、共演したり戦ったりしてるんです。その決定版なのが『ダークナイト・リターンズ』ってコミック。タイトルがカブってるけど、映画『ダークナイト』とは全く別物のお話です。ザック・スナイダー監督はアメコミ・オタクでは有名で、過去には前作『マン・オブ・スティール』を始め、『ウォッチメン』や『300(スリー・ハンドレット)』とかのアメコミ原作映画を作ってきた人。インタビューでも「『ダークナイト・リターンズ』の影響がメチャクチャ大きいよ」とか語ってますが、本作を観てみたら、「まんまじゃねーかよ!」という話でした。
コミック『ダークナイト・リターンズ』でのバットマンは老人でヒーロー活動を引退しており、悪が根絶できないと悩んで、もの凄い葛藤するんですね。ここら辺のリアルな悩めるヒーロー像をクリストファー・ノーラン監督は映画の中に持ち込み、作ったのが『ダークナイト』シリーズなんです。すぐにウジウジ悩むから何で悩んでたのか忘れましたけど。法では取り締まれない悪人たちを根絶……と言うか文字通り叩きのめす為に老人バットマンはアイアンマン並みにパワーアップさせたアーマースーツを着て、活動再開。しかし、その前に立ちはだかるのは政府の下請けに成り下がったスーパーマン。このコミックには、法の名の下に正義を守るスーパーマンと時には法を犯しても悪党を始末するバットマンの対決が描かれているんです。
だから、本作に登場する対スーパーマン用のアーマースーツなんて、「あっ! コミックに出てきたやつだー!」とテンション上がる訳です。写真で見てた観光地を実際に訪れた感覚。
更にテンション上がったのはベン・アフレック演じるゴツくてデカいバットマン! ティム・バートン版のマイケル・キートンやノーラン版のクリスチャン・ベールの演じる神経質な偏屈系のバットマンのイメージが強い人には、ちょっとあれかもしれないですが、コミックのバットマンは割りと力技の人でゴツいんです。ジョエル・シューマッカー版のヴァル・キルマージョージ・クルーニーの男臭いを通り越して野獣臭い方が近い印象だったんです。
最初、ベン・アフレックのような大根役者がキャスティングされた時はYシャツに醤油をかけられた気分でしたが、これがなかなかイイネ! 飛び道具をあまり使わない! とりあえず、力いっぱい殴る! 「あっ、コミックに出てきたバットマンだ!」と感激しました。
今作の悪役は、スーパーマンの宿敵=レックス・ルーサー。過去の映画版ではジーン・ハックマンやケビン・スペンシーなどオッサン俳優たちが演じてきた役どころですが、本作では天才と童貞を演じさせたら右に出るものはいないジェシー・アイゼンバーグと若返り設定。バットマンベン・アフレックで高齢化させた分、若造に振り回される中年たちにも見えなくはないのですが、ある種の対比になっているのでしょう。スーパーなパワーなんて無いくせに姑息な作戦でスーパーマンを翻弄し、権力や地位を手に入れようと目論むネズミ男的な人物として描かれてきた宿敵ルーサーのキャラ。ですが、本作ではチャラチャラした混沌を好む目的不明のクレイジーな天才肌にシフトチェンジされています。このキャラ設定がジェシーの演技もあって『ダークナイト』のジョーカーと丸かぶり。これを「ルーサーはこんなキャラじゃない!」と思うか、「さすがザック! 味付けにジョーカー風味まで足すのか!」と思うかで大分、好みの別れる所ではあります。過去のルーサーが汚い大人や悪徳政治家のシンボルだった事を考えると、悩みまくりの陰気な2大ヒーローの敵役に金と権力と女をはべらす若者=リア充が悪フザケの延長で悪事を働くというのは、ザックのオタクレーダー的には非常に正しいですね。
ジョーカーと言えば、バットマンの基地(バット・ケープ)の中にジョーカーに落書きされたと思われるバットマンのスーツが飾られてるのがチラッと見えるシーンがありましたが、あれは20年もバットマンとして戦ってきた本作の設定を活かしたザックのオタク・サービスでしょう。
ただ、本当の意味でザックのオタク・アイデンティティーが爆発(脱線)するのは、唐突に加勢してくれるイカした美女=ワンダーウーマンの浮きまくりの登場シーン。もはや、作風さえ変わってしまう訳です。バットマンとスーパーマンの「お前の連れか?」というヤリトリがモテない男子学生に変わる瞬間でもあります。過去に『エンジェル・ウォーズ』という作品でオタク事故を起こしたザックの発作と思うと微笑ましささえ感じました。そんなザック・スナイダーのフライングしたアメコミ愛が「とりあえず、アレも入れよう。コレも入れよう。」の連発でストーリーにまとまりが無くなり、破綻。バットマンの話をしてたかと思うとスーパーマンの話になってて、ルーサーのエピソードと謎の美女もチラ見せしつつー、低偏差値の腕力怪獣も出してー……と、とにかく長い映画になってしまったんですね。アイデンティティー探しに悩むヒーロー像ってのもノーラン以降の流行りパターンだし、国家にとってのスーパーパワーを持つヒーローの脅威問題も『アイアンマン』や『ウォッチメン』とかで手あかが付いてます。展開も2大ヒーローものの有りがちパターンだしで、ストーリーは予想できるレベル。しかも、全編通して暗い。バットマンはダークヒーローだから暗くても良いですが、スーパーマンはノーテンキな程、明るいヒーローだったはずなのに。唯一、面白い要素はスーパーマンを神と比喩した宗教エッセンスだったんですけど、それもストーリーには大して絡んでこずで。そもそも、「スーパーマンがビルを吹っ飛ばしたりして戦ってる間に巻き添えで死んでる人間もいるんだ!」という『ガメラ2』な設定からスーパーマン不信が始まったはずなのに、その問題もうやむやにされた感があります。
ザックお得意の写ってる物はオールCGだけど手持ち撮影風のリアリティーで対抗演出や突然のスローモーションによるエモーショナル演出も効力薄めな結果に。

4DXに関しては、アクション・シーンが単調なせいもありますが、4DX効果も単調で乱気流に突っ込んだ飛行機くらいの揺れがずっと続いてる感じでした。むしろ、ちょっと酔いました。
ただ、日本語吹き替えは大作にも関わらず浮ついたタレントを起用せず、ちゃんと実績のある声優さんばかりだったので、安定のクオリティーでした。こーゆー吹き替え映画ばかりだと良いのですが。
パンフは監督・キャストのインタビューやイントロダクション、初期設定アートコンセプト、過去作品紹介、長谷川町蔵渡辺麻紀さんにより批評なんかが掲載されてましたが、大量の写真で水増しされた薄めの印象。情報もネット検索程度なので、本作ヒットの方のみお勧めレベルでした。

バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生』(4DX・吹き替え版)
★★☆☆☆
星2つ

『ヘイトフル・エイト』感想

2016年3月20日(日)、『ヘイトフル・エイト』をユナイテッドシネマ浦和で観賞して来ました。

クエンティン・タランティーノこと我らがワガまま番長タラちゃんの新作。
キル・ビル』や『ジャンゴ』など張っ倒したくなるような作品群を経て、今作は密室サスペンス劇ですよ。
しかも長い! 168分もあるんですよ! でもね、全然、長くても観れる作品でしたよ!
ほとんどの場面が雪山の小屋の中で繰り広げられるのに、それだけ見応えありました!
舞台は南北戦争から間もない雪山。吹雪で雪山の小屋に閉じ込められた8人の心理戦なんです。それの何が問題って、べらぼーな賞金の懸けられた女を護送している賞金稼ぎが神経質に心配性をオプション追加したよーな乱暴者なもんですから、偶然、居合わせた客に「お前、ドコへ行く予定なんだ? 何者だ?」と1人1人尋問していくんですよ。所が、どいつもこいつも胡散臭さプンプンで、びた一文信用できない奴ばっかなんですよ。
タイトルの『ヘイトフル・エイト』とは「憎しみに満ちた8人」という意味。憎しみが満ちてますからね。物騒ですよー。全員、悪党。つまり、タラちゃん版『アウトレイジ』なお話なんです。
前半は、賞金稼ぎの司会進行により自己紹介していく胡散臭いメンツの腹の探り合いと言うか、信用度チェックなんですけど、明らかなウソ発言だらけだし、尋問のはずなのに、どーも謎ばかりが増えていく。そもそも、重要人物である賞金の懸けられた女が何の罪を犯したのかも語られないんです。それ所か、「奴隷制の存続を巡り北軍と南軍に分かれて争われた南北戦争」から数年しか経過してないのに、元北軍の黒人と元南軍の差別主義者がヒリヒリするトークバトルをし出したりと、全く落ち着かない状況に。そんな中で、賞金稼ぎが「信用できないから、お前の銃をよこせ」とか空気読めない発言したりするから、いつ何が起きてもおかしくないピリピリムードが延々と続くんですよ。ドアが閉まらないだけで怒鳴ってましたよ。
後半は急展開。新たなミステリーが追加され、ある異常な事件が勃発。疑心暗鬼の雨の中、彼らの正体や今までの謎が怒涛の如く明らかになっていくのと同時に予想を軽やかにフライングしたバイオレンスでクライマックスへ雪崩れ込んでいくんです。前半とは違う意味で気が気じゃない1回で2度おいしいカツカレー方式。
特に今作で異例なのは70mmウルトラ・パナビジョンという横にガッツリ長い画面サイズなんですよ。分かりやすく言うとパノラマな感じ。なもんで、ほとんどのカットで小屋の右の壁から左の壁まで映ってるんですね。手前にいる登場人物と奥にいるいる登場人物とで違う事をしてたりするから、「怪しい動きを探してね」な参加型な構成になってるんです。正体不明のウソつきだらけですからね、もう半ばアトラクションですよ。まぁ、映画館で観ないと、あまり効果は無いでしょうが(……と言うかテレビで観たら逆に分かりにくくなるのでは)。
さすがタラちゃんなのは、話も後半に差し掛かって、急に「これは、こーゆー事なんです。」とナレーションで状況を説明し出すんですよ。いや、脚本上、そーするのは分かりやすいけど「えっ?! そーゆー映画だっけ?!」と焦りましたよ。「自由すぎるだろ!(笑)」と。
そんな、のっぴきならないストーリーの中にドスンと横たわる差別と欲望という重たいテーマを盛り込んでいる辺りは妙に現代とリンクしていて、突き刺さるものがあります。
それ以外にも、タラちゃん念願の映画音楽界の巨匠エンリオ・モリコーネによる伸び伸びと作った感じが窺える書下ろし楽曲や、種田陽平による秀逸すぎる完ぺきな小屋のセット、空間を彩る控えめな照明、ラストで抜群の効果を発揮しているスプリット・レンズなど、作品世界を楽しむグッとくるポイント満載。


ヘイトフル・エイト
★★★★☆
星4つ

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(4DX3D)感想

『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を4DX版で再度、観賞して来ました。

前回は吹き替え版3Dで観賞しましたが、今回、期間限定でリバイバル上映してたので、「今だ!!」とばかりに4DXですよ! やはり、4DXは凄まじいですね。
冒頭、頭が2つあるトカゲをマックスが踏みつける描写から、席を後ろからつっつく効果から始まり、ウォーボーイズたちに追われるシーンで下水みたいな所を通ると水しぶきが飛んできます。
そっから車で爆走シーンに入る訳ですが、走ってる間、ずっと揺れてましたよ。かなりリアルな感じで。この作品、ほとんどの時間、車に乗ってるから、自分もホントに車にずっと乗ってたよーな気分でしたね。
途中、嵐の中に突っ込みますね。そしたら、水しぶきですよ。雷が光ったら強烈ライトがピカッ!
クライマックスのカーチェイス・シーンでは画面にかかるくらいの煙がモクモク。

こんなに楽しいエンターテイメントは無いな! ってくらい楽しかったです。
ディズニーランドが三輪車に思えるくらい、アトラクションでした!!
これは、俄然、4DXとの相性バツグンで、むしろ、こんなに向いてる作品はないんじゃないだろーかってくらい良かったです!!!!
大満足!!!!


『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(4DX版)
★★★★★
星5つ

『さらば あぶない刑事』感想

2016年3月11日(金)、シネマサンシャイン池袋で『さらば あぶない刑事』を観賞。

ネットのレビューなんか見てると、『あぶ刑事』を観た人は「タカとユージがカッコ良かったー!」とか言うんですよねー。ボクも言います。タカとユージがとにかくカッコ良かった!!
2人のPVかと思いましたよ。内容なんかメチャクチャで、もう忘れましたけど、とにかくカッコよかった。

今作のタカとユージの2人はもう定年なんですね。登場時は新米刑事だった仲村トオルが2人を追い越して上司になってるんだけど、全然、相手にされないコミカル・シーンがツボでしたね。
でも、それは表向きの関係で、裏では2人の事を想う仲村トオルには泣けました。
で、定年までの3日間の間に事件を解決しないといけないサスペンス要素や、普段は杖をついてるのに、ハイキックがインパクト大の悪役=吉川晃司など見所いっぱいです。

でも、やはり、そもそもの話。タカとユージのカッコ良さを引き出した監督の作風に尽きますよね。
映画が始まってすぐ、何故か...eiga

暗い廊下で柴田恭兵が踊ってる! なんだ、コレ?! でも、その軽やかで色気があってカッコイイ! そこへ独房の中でヤクザから情報を聞き出した舘ひろし登場。
何故かタキシードで外した蝶ネクタイを襟からぶら下げたまま。なんだ舘ひろしの昭和に忘れてきたよーなダンディズムは! そこ必然性は無いがカッコイイ!
冒頭5分で、この調子。その後、デデーンとタイトルが出るんです。オープニングから空撮にタイトル・ロゴ&キャスト・クレジットをまさか平成になって名画座でもない劇場で観れる日が来るとは! 思い出される東映プログラム・ピクチャー臭さに懐かしの涙ですよ!
もう、これは監督のハッタリ宣言ですよ。「リアリティー? 必然性? 知らねーよ! この映画はそーゆー映画なの! あり得ない奴ばかりが暴れる映画なんだよ!」っていうね! それでも、「こーゆー奴いる訳ないじゃん」と思わせない「映画の嘘」が抜群に上手いんですよ。
それもそのはず。まだ東映が破天荒すぎる「映画のウソ」で観客のハートをカツアゲしていた頃、数々の名作を世に送り出していたのが今作の監督=村川透監督なんです。もはやレジェンド的な存在の人なんです。
ボクが小学校の頃、家に帰ると松田優作のドラマ『探偵物語』の再放送をやってて、そのソフトでスタイリッシュなカッコ良さにシビれたもんですよ。その中でメイン監督の1人が村川透監督だったんですね! 村川透松田優作コラボに夢中だったボクは『最も危険な遊戯』『殺人遊戯』『処刑遊戯』の「遊戯シリーズ」や『蘇る金狼』、『野獣死すべし』を体中に浴びて生活してた訳ですよ。
「遊戯シリーズ」はプロフェッショナルな殺し屋が主人公。『蘇る金狼』の主人公なんて三億円事件の真犯人で、その金を元手に大手企業を上り詰めていくという話ですからね。もう村川透と言えば、観客をワクワクさせる為なら、どんな有り得ない事も巧みな「映画のウソ」で信じ込ませる天下一品の「映画のウソつき」ですよ!
で、それらの作品を東映の子会社である東映セントラルアーツで量産してたんですね。その頃のセントラルアーツのカラーは強烈で、その後の様々な作品、製作者たちに多大な影響を与えた訳ですよ。ちなみに、ドラマ版がヒットした後に映画版で続編を制作した先駆けも『あぶ刑事』が最初。
そのセントラルアーツが『あぶ刑事』シリーズも作っており、しかも、当時のプロデューサーである黒澤満さんが本作の製作総指揮も担当してるんです。
撮影も村川監督と組んでた仙元誠三カメラマン。この人も生ける伝説みたいな人で、特に手持ち撮影で有名。松田優作の動き回るアクティブなハード・アクションを手持ちカメラで追い掛け、余す所なくフィルムに収めてました。
今作でも柴田恭兵が敵のアジトへ踏み込んで行くアクション・シーンを手持ちで追い掛けてて、すっげー懐かしい気持ちになりましたよ。テンション上がる、上がる!!
昔からの顔触れにもう一人。脚本家の柏原寛司。この人も『探偵物語』のメイン・ライターの一人で、他にも『傷だらけの天使』や『大都会』から『名探偵コナン』や『ルパン三世』まで様々な伝説的作品に関わってる脚本家ですよ。
監督:村川透、脚本:柏原寛司、製作:黒澤満、撮影:仙元誠三という往年の超超ちょー豪華で濃ゆすぎるメンツがバシッと揃ったのが、本作なんです!
これは、言い過ぎでも何でもなく、このレジェンドたちが今までに生み出した作品群、日本映画界に与えた影響を考えると、彼らの新作を劇場で観れるって事は、日本映画の歴史を目撃するよーなモンですよ!! 事件なんですよ! 幸せ過ぎる。
「昔、流行ったドラマの続編でしょ?」と言って、プログラム・ピクチャーの邦画を観た事も無いエセな自称映画ファンにこそ観てもらいたい作品ですね。日本には、これだけ凄いレジェンド達がいるんだぞ!!
アクションに特化した作品作りをしてきたセントラルアーツらしい、ケレンに満ちた傑作でしたよ!
柴田恭兵が犯人を追いかけるシーンで「ミュージック・スタート!!」と叫ぶと音楽が流れ始め、定年とは思えない猛ダッシュするシーンには驚きましたね! これって『モテキ』じゃん! 『モテキ』でサブカルをパロディ化、『バクマン。』でサブカル文化自体を映画作品化し、もはや、自身がサブカルになった大根監督と同じセンスって、村川監督、どんだけ感性が若いんだよ!!
また、ハーレー手放しのりでショットガンを撃つノースタントの舘ひろしの現役感!!
ホントにこれで終われるのか『あぶ刑事』!?


『さらば あぶない刑事
★★★★★
5つ星

『残穢(ざんえ)―住んではいけない部屋―』感想

2016年3月4日、浦和ユナイテッド・シネマで『残穢(ざんえ)―住んではいけない部屋―』を観賞。

これは、面白い!! 今年の暫定1位ですね!(『サウルの息子』や『オデッセイ』を超えてね)
「怖いor怖くない」以前にお話や構成が面白いじゃないですか!
実話怪談あるあるな「不思議な出来事だが理由は解らず仕舞い」の後日談や過去の因縁を明らかにしていく物語なので、ホラー映画というよりもホラー演出のミステリー推理モノを観ているよう。と言うのも、読者が投稿してきた実話怪談話を短編として書き直す作家の主人公(松下奈緒)と投稿してきた体験者(橋本愛)により、「なぜ、そんな不可解な事が起きるのか?」という謎解きを理詰めなアプローチで黙々と調べていくんですね。だから、近所の人や大家さん、自治会などに話を聞いていくというドキュメンタリー要素もリアルに演出されてます。
その合間合間で新たな怪談エピソードが加算されていくんです。で、その怪談エピソードも精神病患者を入れてた座敷牢だったり、近所のゴミ屋敷、赤ちゃんに纏わる話だったりと一発一発のタブー度も高い!
物件情報を調べてるはずなのに、それと共に平気で実話怪談も収集していくんですよ! お前ら、柳田國男か!!
そもそも、モチーフが日本的というな土着性を感じます。それら別々に集めてたはずの怪談エピソードたちが、物語終盤で集約されていく展開は思わず、ゾッとしますよ!
これは、『本当にあった呪いのビデオ』シリーズの先輩監督であり、本作の監督でもある中村義洋によるパロディでもあるんですな! この手の作品を知り尽くしてる感が見事ッス!!
だってさー、引っ越し先の部屋や家を建てる土地が「曰く付きなんじゃー」なんて誰でも考えそうな事だし、そーでなくともパソコンを使った恐怖演出とか部屋の間取りを活用した恐怖演出など、身近感が恐怖に直結しますよ!
役者以上の存在感ありありな美術セット、小道具など細部へのこだわり、無音上等の研究熱心な恐怖シュチュエーション作り、次から次へ登場する変人キャラたちと全てがパーフェクト!!

パンフレットにはスタッフ&キャストの怖く見せるこだわりから、登場した部屋の間取りを紹介しながら「予算を抑えて見せる美術」も垣間見えるページも! 面白かった!


残穢(ざんえ)―住んではいけない部屋―』
★★★★★
5つ星

『ライチ☆光クラブ』感想

2016年3月1日(火)、池袋で『ライチ☆光クラブ』を観賞して来ました。

原作は腐女子バイブル的マンガだけあって、劇場はサブカル女子だらけでしたねー。場所も池袋だし。原作マンガは読んでないんですが、映画本編を観てみて納得。BLあり、エロあり、グロあり。奴らの餌じゃないですか。「早く帰ってラノベ以外の本を読め」と思いましたけど。
面白いのが、これ、ボクの好きなB級映画のテイストって話ですよ。
工場跡地をアジトにして、6人くらいの中学生たちが自分たちのルールと言うか規律を守る「光クラブ」なる組織を作っており、「体の成長は罪じゃない。大人になるまで生きてるのが罪なのだ。」とか言ってるんですよね。
冒頭で、アジトに潜入して来た女教師を縛り上げ、「どーやって殺すか」ってのを相談してるんですよ。「いやいや、オレの考えた方法の方がエグいぜ!」みたいな。結局、腹をかっ捌いて殺したんですけど。
ボクは思いましたねー。「とんでもねー奴らだなー」って。
そいつらがロボットを作って、「女を捕まえて来い!」って外に放ったら、間違って酔っ払いとか連れて来ちゃう。そこら辺から「なんだ、この映画は?」と。笑って観てたんですけど、どー観てもシリアスな演出なんですよ。まぁ、だから笑えたんですけど。「これ、ロジャー・コーマン(B級映画の帝王)の映画かなー」と思ってたら、このロボット、ホントに激カワ女学生を連れ去って来るんですよ。そっからが話の本題。
とりまイスに縛りつけて「だれも、この女に触んじゃねーぞ!」となるんですよ。でも、当たり前田のクラッカーで、みんな興味津々で仲間の間に亀裂やら暗躍やらテンヤワンヤ。
アメリカにはエクスプロイテーション・フィルムってジャンルがありますけど、エクスプロイテーションって日本語で搾取(奪い取るとかの搾取ネ)って意味なんです。黒人を観客に見据えたブラックスプロイテーション。ポルノ映画はセックスプロイテーション。みたいな事です。観客を呼ぶ為だから芸術性や話の質はどーでも良いって作品なんです。だから、大抵の作品は見終わった後、何も残らないんですね。
そーゆー考えでいくと、本作はサブカル女子スプロイテーションですよ。
男同士のフェラ・シーンとか奴らしか喜ばねー。ユリ映画『キャロル』とか観てコーフンしてる女が楽しむ作品ですね。
まぁ、ノンケは楽しめないかと言うと、決して、そんな事はないですよ。
その後、少女と見張り役のデクノ坊のロボットとの交流が描かれていき、予想をフライングした反乱のクライマックへと流れ込んでいきます。「この先、どーなるの?」な興味がラストまで集中力を持続させた展開で、この架空のアングラな世界観へ引き込まれました。架空の話ながら、現代の日本では「無い!」と断言できないテーマの濃さ!
それにエクスプロイテーションって文化ですからね。サブカル女子がどーゆーのが好きかというのを観て、「なるほど」となるんですよ。アメリカのB級映画を「意味わかんなーい」「チープでダサ~い」「キモ~い」とか言ってるコミュ障たちが同じようなストーリーなのに、マンガ原作という事でこぞって劇場に足を伸ばしてるんですよ。良い事です。

★★★☆☆
星3つ

『尾崎支配人が泣いた夜 DOCUMENTARY of HKT48』感想

2016年3月1日(火)、池袋シネマ・ロサで『尾崎支配人が泣いた夜 DOCUMENTARY of HKT48』を観賞。

今作はAKB48の姉妹グループであるHKT48のドキュメンタリーです。
ボクはテレビも観ないし、アイドルにもビタ一文たりとて興味がないのですが、「絶対DVDで観なさそう」という事とタイトルに引かれて、観てきました。
『尾崎支配人の泣いた夜』!
誰だ、尾崎支配人って!?
泣いたって何があったんだ?!
そしたら、尾崎支配人、全然、出てこないんですよ!
HKT48の中心人物らしいけど、グループ内でどーゆーポジションなのか解らない指原莉乃が監督してて、グループの歴史を辿りながら、メンバーたちへインタビューしていく構成になんです。
んで、やっぱりアイドル・グループだけあって過去の映像素材が豊富なんですよ。結成当時からひたすら撮られ続けてたんでしょーね。逆に、こんなにカメラに囲まれて生きてたら恋愛してる時間を作れる事の方が凄いですよ!
って言ってますけど、グループの歴史を知らないから、事の重要度が訳ワカメ。
そんな事よりも、端から見てると宗教団体みたい。
これは森達也の『A3』か?!と思いながら観てましたよ。「彼女たちの思想=何が正しいか、何がどれだけ自分の比重を占めてるか」という事が、あまりにもボクの身近に無さすぎて、カルト教団と同じレベルに見えるんですよ。まぁ、どの世界でも、重要度のズレや振り幅ってありますからね。
トークの内容事態はバカな女の子たちの他愛ない会話なんですけど、やはり、ライブやらセンター争い、総選挙とプレッシャーの場数が多いだけあって、思想がプロなんですね。同じ歳の女の子たちに、彼女たち程の思想があるかと思うと人生観が変わるんだろーなぁ。と感心しました。
そんで、メンバー同士で複雑な感情が入り乱れてるんですね。当たり前なんですけど、仲の良いor悪いもあれば、嫉妬するメンバーも居るし、自分の事のよーに泣けるメンバーも居るんですね。
いつの間にやら、ボクも貰い泣きですよ。もう何が泣けるんだか解らないけど、複雑&不安定な精神状態の中で様々なアクシデント……というか大人が商売の為にあれこれ難題を押し付けてくる訳ですよ。
もう、可哀想で、可哀想で。大人たちに虐められてるよーにしか見えませんでしたよ。
最後らへんで加入したメンバーとか、もはや小学生だからね! 女子高生でもないんですよ! もう、虐待ですよ!(笑)
所々、指原莉乃監督が「う~ん」と悩んでるメイキング的な映像が挿入されて、作品構成の主旨と外れるから「このシーンはこーゆー理由で入れたんですよ」という言い訳にしか見えなかったですが、こんなんプロがやったら怒られますよ(笑) アイドルという素人が監督してるという商売だから成り立つ。映画として観れぱ観る程、不思議な映画でした。テレビ番組みたい。

そんな感じで観てたら、あの「尾崎支配人」が登場。ある事件について、みんなの前で話そうとしてたら涙が!!
室内だったから夜かは解らなかったけど。


『尾崎支配人が泣いた夜 DOCUMENTARY of HKT48
★★☆☆☆
星2つ

『サウルの息子』感想

2016年2月29日(月)、新宿シネマテリカで『サウルの息子』を観賞して来ました。

アカデミー賞外国映画賞&ゴールデングローブ賞外国映画賞受賞。カンヌ国際映画祭グランプリ受賞。
と快挙を成し遂げてるのが本作。

こらまた難儀な撮影方法が凝ってる映画です。
始まって早々、どーやら森の中なんですけど、1カット目からピントが合ってないんですね。「おやおや、どーしたー?」と思っていたら、男がフレーム・イン。彼が本作の主人公のサウルなんですが、彼にはしっかりとピントが合っています。カメラはサウルが歩いて行く方向に同行していくんですね。周りを流れていく大勢の人々を誘導している様子のサウル。その大勢の人達を「シャワー室」と呼ばれる部屋へ入れて行く時に、ここがユダヤ人の強制収容所で、「シャワー室」は「ガス室」だと初めて気づくのです。
今作は、ナチスの命令によりユダヤ人大量殺害の実行を指示されていた「ゾンダーコマンド」と呼ばれる人達の話です。ユダヤ人を殺しまくってたナチスの中でPTSDが流行り、なんとナチスガス室送りのユダヤ人の殺害を同じユダヤ人にやらせてたんですね。本作の主人公=サウルの仕事は移送されてきた同胞のユダヤ人をシャワー室だと騙してガス室で殺し、次の移送列車が到着する前に遺体を処理し、ガス室に残った血や糞尿を掃除する事。
もう、ただでさえゲンナリなんですけど、カメラが主人公を延々と追いかけ回してるので、観客も追体験させられる訳ですね。相変わらず主人公の表情と主人公が見てる物にしかピントが合わないので、ガス室へ入れられるユダヤ人たちや死体の山などはうっすらしか見えないんですよ。
ハウルは無表情で作業を淡々と進めるだけで、他の物にピントが合わないので、主人公が周りを見ないよーにしてる事が示唆されてる訳です。完全に心を閉ざしてるんですよ。でも、音がリアルで「ドアを叩く音」や「人々の叫び声」が状況を想像させるんですね。
なんだ、この体験映画は?!
今作は画面比率がスタンダード・サイズ(ほぼ正方形に近いブラウン管のテレビの画格)になっていて、横長の画面サイズに馴れた今、スタンダード・サイズで主人公の視点を意識させるのも効果的だと思いました。
ストーリー的には、そんなサウルが少年の死を目撃してから変な動きをし出すんですね。そんで、ある目的の為、ナチの目を盗み、収容所の中をあっちこっち動き回るんです。「サウル、どーした?」と思いながら見てると、収容所内のレジスタンスたちは、また別の動きを画策していて、そいつらと接触するサウルの行動を通して、ある歴史の事件へと発展していく展開なんですな。
ただ、凝った撮影方法が一貫され過ぎてて、画的な変化が少ないのが、ちょっと辛かった。

パンフレットは歴史的な整合性の紹介や監督の想いや考え方の解るインタビュー等が掲載されてて、薄い割りに、なかなか濃い内容だったので買いだと思います。

サウルの息子
★★★☆☆

『ヤクザと憲法』感想

2016年2月26日、ポレポレ東中野で『ヤクザと憲法』を観賞。

現代ヤクザの事務所に密着して、何だか色々とヤバめの映像を撮影したドキュメンタリーです。
オープニング、本作を撮影する「約束ごと」が紹介されます。

1、取材謝礼金は支払わない
2、収録テープ等は事前に見せない
3、モザイクは原則かけない

スゴくない?!
また、さらにスゴいのは、冒頭、事務所を案内する組員に対して、「この袋なんですか? マシンガンとか入ってるんですか?」と、やたらダイレクト&デンジャラスな質問を炸裂させる本作スタッフさんでした。
事務所の中を案内してた組員も「ちゃいますよ! (組立式)テントが入ってるんですよ~。」と応戦。
所が、更に「銃とか無いんですか?!」「他の組が襲撃して来たら、どーするんですか?!」と怖いくらい突っ込んだ質問を続けるんですね。「なっ……無いんですよー。にっ……日本で銃を持ってたら銃刀法違反で捕まっちゃうじゃないですかぁ~」という大変、正しいけど明らかに動揺してるのがリアル過ぎる返答。もう笑うしかないんですよ。
まぁ、そんな本作はチャンバラ、ドンパチや仁義なき抗争なんて東映の実録映画なシーンは一切ありません。むしろ、逆にヤクザの事務所に密着して、何もない日常を淡々と捉え、その中からテレビでは見れないヤクザの生活、バックボーン、あるあるネタを浮き彫りにしていく作品なんです。
やれ、居酒屋の女将が「警察がなに守ってくれるぅー? 組長さんはちゃんと私らの事を守ってくれるでー」とカメラに向かって証言したり。
やれ、「ヤクザの子供は幼稚園にも入れへんねん。」と訴えてみたり。
やれ、選挙の報道が載る新聞を片手にボソッと「ワシ、選挙権ないねん。」と呟いてみたり。
つまり、本作はヤクザを捉える事により、「基本的人権の尊重」をうたっている日本国憲法の矛盾をも浮き彫りにしていく所がスゴいんですね。ヤクザはあくまでもメタファーなんですよ!
このドキュメンタリーを制作したのが東海テレビというテレビ局というのが、またスゴいです。しかも、テレビ局制作の作品に有りがちな説明過多になっないんです。むしろ、少ない!
バカなテレビマンがやりがちなナレーションも音楽もない。つまり、誤魔化しの手管を使ってないって事なんですね。
撮影の対象になっているヤクザたちも赤裸々にカメラを受け入れてるですね。むしろ、ガサ入れに入った警察の横柄な対応の方が浮いて見えます。
日本の片隅でボクらの知らない世界を見せてくれる。これぞ、あぁ、ドキュメンタリー……なのです。

『ヤクザと憲法
★★★★☆
星4つ

『オデッセイ』(4DX)感想

2016年2月15日(月)、ユナイテッド・シネマ豊洲で『オデッセイ』を4D・吹替え版で観賞して来ました。

1人ぼっち火星サバイバル映画ながら、意外に軽いノリで観れる映画でした。何故なら、火星に取り残される主人公が「陽気な天然キャラ」だから。
火星で調査を進めてるクルーが砂嵐に襲われ、「作業中止! 逃げろー!」って宇宙船に乗り込んでたら、主人公だけ飛んできたアンテナにぶつかり、砂嵐の中へ吹っ飛んでいくんです。そこまでが冒頭10分くらい。NASAは死んだと思って、壮大に葬式を上げるんです。火星作業クルーの隊長なんて罪悪感にさいなまれてて、部下に「悪くないですよ」とかって慰められたりしてる訳ですよ。そしたら、生きてたっていう。まさかの火星に1人、置いてけぼりですよ。そんな事あります?!
NASAの本部では「あいつは置いてかれたと思ってるに違いない。裏切られたと思ってるはずだ。どんな気持ちだろーな、1人で。いたたまれない。」と心配してるんですけど、次のカットでは火星に取り残された主人公がシャワーから出てきて陽気にディスコ・ソングを聴いてるんですね。このディスコ・ソングもクル...ーの隊長のパソコンから見つけた音楽で、映画中、終始「なんでディスコ・ソングしか入ってねーんだよ!」とキレてる始末。「じゃあ、聴くなよ」とも思うのですが。そんなんなんで、ミュージカルか?!ってくらい全編、次から次へ、ノリノリのディスコ・ソング全開!!
ただ、先日、亡くなったデビッド・ボウイの曲が丸々1曲、使われてるシーンはついついグッときましたね。
それでいて、宇宙で科学的に野菜を育てる方法や水を作り出す方法など、天然だけどバカではない主人公によるサイエンス手管の数々が丹念に描かれていきます。このように、なんてこったな危機的状況を陽気な精神と几帳面な段取りでサバイブしていくのが面白くて、思わず見いっちゃいますね。本作を3回くらい観ておけば、いつ火星に取り残されても大丈夫。ここら辺の科学的考証はパンフに結構ページを割いて掲載されているのですが、かなり信憑性があるらしーです。
主人公が火星での生活を動画で保存しているという設定で主人公によるナレーションで状況を分かりやすく(ユーモラスに)リードしてくれるので、とても観やすい。
それでいて、NASA本部のワタワタや地球へ帰還途中のクルーの重たい空気など……が同時進行で描かれる構成です。その中で垣間見えるリアリティーの説得力はシリアスで、ユーモアを忘れない主人公とのギャップが笑いを生みます。他の隊員の置いて行ったパソコンを漁って、「暇つぶしゲーム見つけたー」とかね。
主人公を演じるのはマット・デイモン。ピッタリです。ボクだけかもしれないですけど、マット・デイモンって天然キャラがハマると思うのですが。抜けてるキャラとか。思うに、若い頃からスコセッシやイーストウッド、ソダーバーグ、スピルバーグなどの大御所監督陣の作品に出てるのに、同年代のジョニデやブラピに比べると何か霞む……と言うか、華がない。そんなデイモンは、それだけで庶民派な好感度があり、天然キャラもナチュラルですね。それこそ、トム・クルーズとかがやったらハナにつきますよ。
火星クルーの女隊長役はジェシカ・チャステイン。『ゼロ・ダーク・サーティ』でビン・ラディンを追うCIA分析官を圧倒的な頑張り屋さんキャラで演じてた女優さんですね。
今作でもクルーの身を預かる気丈な態度ながら、実は罪悪感にさいなまれる繊細な心の持ち主を演じています。本作の監督=リドリー・スコットがお得意とする「強い女」の象徴キャラですね。今までも『エイリアン』のシガニー・ウィーバーや『G.I.ジェーン』のデミ・ムーア、『ハンニバル』のジュリアン・ムーアなど戦場で戦う強い女萌えのリドリー。
ゼロ・ダーク・サーティ』を観て「オレの方がもっと……」と思ったかどーかは知らないですが、そーに違いありません。
ちなみに4D的には良かったです。特に冒頭の砂嵐に襲われるシーンなんて、ずっとソファーが動きまくりのアトラクション感。臨場感ハンパなしです。ボクは吹替えで観たから良かったですが、字幕は追えないんじゃないでしょーか。あと、宇宙空間でのソファーがゆっくり動く浮遊感も絶妙でした。
ただ、リドリーの映画はいつもそーなんですが、長い。クライマックス近くの救出シーン辺りで集中力きれそうになりましたわ。

『オデッセイ』
★★★★☆
4つ星