ユンギボの映画日記

ユンギボ(@yungibo)によるあらすじ紹介、ネタバレなしのレビュー、解説・考察をお届け‼

名優ケビン・コスナー主演の大赤字SF映画『ウォーター・ワールド』(#48)

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『ウォーター・ワールド』

地球上の島々が水没。ディストピア世界を舞台にした海洋版「マッドマックス」といったSF映画

水中をハイスピードで泳げるミュータントで“ならず者”の主人公。ギャング団“スモーカー”から、背中にイレズミの入った娘と、その母親代わりの女を救出。伝説の場所=“ドライランド”を目指します。実は、背中のイレズミこそ“ドライランド”の地図。“スモーカー”たちは、その為に、娘を追ってきます。

主演は、髪が濡れて薄毛が気になるケビン・コスナー。“スモーカー”は実写版クッパも演じたデニス・ホッパー。基本的にはノーテンキ映画って感じなんですけど、テレビ東京版の日本語吹き替えで再観賞。
ケビン・コスナーをフィックス声優の津嘉山正種さん、デニス・ホッパー内海賢二さんが担当。人間味増々の津嘉山コスナー、テンション爆アゲの内海ホッパー。吹替え版だけでも必見の作品です。

また、陸地のない世界なので「土が貴重品」「バーで飲むのが真水」「バイクの代わりにジェットスキー」などの設定が面白いです。また水中撮影は結構、頑張っていて、海中深くに沈んだ都市のビジュアルは楽しいです。

主演のケビン・コスナーもプロデューサーとして製作費を出資。ハワイ沖での撮影の際、海が荒れたりして、撮影は度々、停止。当時としては破格の製作費が掛かり、さらにゴールデン・ラズベリー賞にノミネートしまくりました。

当時はバカにしまくってましたが、今観ると愛嬌のあるB級映画として楽しく観れました。『マッドマックス2』を『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』くらい頭悪くした印象。と思ってたら本作の撮影を担当しているディーン・セムラーは、両作に参加してました。ちなみに、セムラーさんは、ケビン・コスナーが監督・主演した『ダンス・ウィズ・ウルブズ』でアカデミー賞撮影賞を受賞しています。


星1つ
★☆☆☆☆

【関連動画】

ウォーターワールド (1995) 予告編


監督
ケヴィン・レイノルズ
出演者
ケヴィン・コスナー
デニス・ホッパー
ジーン・トリプルホーン
制作国 アメリ
ジャンル 洋画/アクション
制作年 1995
本編時間 143分

全く気が抜けない賞金稼ぎたちの珍道中西部劇『続・夕陽のガンマン』(#47)

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『続・夕陽のガンマン

「続」と言いつつ、『夕陽のガンマン』の続編ではない『続・夕陽のガンマン』。

アメリカ開拓時代の西部を舞台に、3人の賞金稼ぎを描いた本作。重厚かつ壮大で、178分という大作にも関わらず、マカロニ・ウエスタン。マカロニ・ウエスタンとは、イタリア製西部劇の事。アメリカの時代劇をイタリアで作ってるという、日本で例えるとチャンバラを外国で作ってるようなB級仕様なんです。

とは言え、そんな事は関係ないくらいクオリティが高いです。それは何か?

第一に監督のセルジオ・レオーネ監督の演出力。レオーネの映画は“静寂と顔の映画”と思います。“静と動”のギャップ強め。ただ歩く姿が延々と続き、突然の銃撃シーンが始まります。全然、気が抜けません。
そして、顔のアップ。キャラクターの思考や性格を役者の顔のアップで表現。細かい芝居も見逃しません。

第二に、壮大なロケ撮影。日本ではまず有り得ない、どこまでも続く砂漠。広大な荒野。石造りの建物。役者を画面の端に配置。ロケ地のスケール感も画に綴じ込めています。

第三に、エンタメ満載の脚本。同じ賞金稼ぎとして命を狙い合う男たち。対立し合いながらも、目的の為(主に金の為)に共闘。軽口、嫌味を言い合いながらのヤリトリはユーモラス。
それでいて、失われつつ古き物への哀愁がモチーフの一つになっています。

第四に、テンポの良い編集。映画の全てのパターンが詰まってるんじゃないかと言うくらい、バリエーション豊富。切替し、目線アングル、長回し、超ロングショット……などなど。


そんな本作のストーリーを追いながら、名場面をご紹介。

賞金の掛かったイーライ・ウォラック。ウォラックを捕まえ、保安官に受け渡し、賞金を頂くクリント・イーストウッド。いよいよ町の中で、見せしめとして絞首刑が執行される瞬間。イーストウッドがライフルを撃ち、絞首刑の縄を切り落とす。実は2人は仲間。野次馬を銃で脅し、急ぎトンズラ。そんな金の稼ぎ方。

その二人が金の事で仲違い。イーストウッドがウォラックを砂漠に置いてけぼり。

やっと荒野の店に辿り着いたウォラック。押し入った店で、いくつかの銃をバラバラにして組み立て直すシーン。実はアドリブだとか。ウォラック曰く、「監督が何も説明してくれないから、適当にやるしかなかった」との事。それにしては、銃口を構えてみせたり、シリンダーの回転音を聞いたり。とってもプロっぽい。それを店主にも聞かせるのが最高。

別の相棒と金を稼いでるイーストウッドを発見するウォラック。今度はウォラックの復讐だ!! イーストウッドへ水もやらず砂漠を歩かせ続けるウォラック。眼の前で水筒をガブ飲みするウォラック。砂漠の直射日光で顔中、火傷まみれになるイーストウッド

そんなタイミングで現れた一台の馬車。中は死人だらけ。唯一の生き残りから、“大量の金貨を隠した墓”の名前を聞いたウォラック。一方、ウォラックの隙きをついて“墓石の名前”を聞き出すイーストウッド。仕方なく共闘関係を結ぶ二人。

近くで見つけた教会にて、静養。傷を治すイーストウッド。なんと教会の牧師をしていたのがウォラックの兄。両親の死や死に際に会いたがってたという話を聞くセンチメンタルなウォラック。結局、兄とはケンカ別れ。それでも、イーストウッドには「たらふく飯を食わせてくれてよー、なかなか離してくれねーんだよー」と強がるウォラック。兄とのヤリトリを隠れて見てたのに、何も言わず、葉巻を渡すイーストウッド。思わず、グッときてしまいます。

一方、前半で暗躍を垣間見せる程度だったリー・ヴァン・クリーフが登場。南軍に化けた二人に対して、北軍の軍曹に化けてたクリーフ。二人から金貨の話を聞き出します。そこから新たな旅の始まり。

クリーフはウォラックをフルボッコ。情報を聞き出し、イーストウッドと旅へ。ウォラックは別の収容所へ移送中に脱出。結局、南北戦争の戦場で二組は再会。クリーフは姿を消し、イーストウッドとウォラックは共に旅へ。

次に辿り着いたのは、橋を挟んで北軍と南軍のにらめっこが続ける戦場。このシーンはローケーションに圧倒的なスケールでセットが組まれ、もはや記録映像のようなリアリティ。

イーストウッドとウォラックは、向こう岸へ渡る為に、橋を爆破。両軍隊を撤退させ、前へ進んでいきます。この爆破シーンも凄まじく、瓦礫や石の破片がカメラに向かって吹き飛んできます。CGや特撮では出せない、ほとんど事故映像。

そんなこんなで、やっとゴールへ。そこはサッドヒルの墓地。イーストウッドに教えられた墓石の名前を探し、走り回るウォラック!! バックに名作曲家エンニオ・モリコーネによるファンファーレ!! カメラもグルグル回る!!
そして、墓石の前に現れるクリーフ。イーストウッド、ウォラック、クリーフの3人が顔を揃えます。とうとうクライマックスの決闘シーン。腰からブラ下げたガンベルト。手はいつでも銃を抜ける姿勢。ひたすら交互に映し出される3人のどアップ!! 目のアップ!! 互いの様子を伺う3人の緊張感みなぎる表情!! こだまする銃声。勝負は一瞬で決まります。

ラストはウォラックに墓を掘らせるイーストウッド。掘らせるだけ掘らしておいて、物語の序盤同様、輪にした縄を木から吊るしていたイーストウッド。銃で脅し、輪に頭を入れるよう指示。金貨の半分を馬に乗せ、走り去るイーストウッド。どんどん走り去るイーストウッドを呼び続けるウォラック。

このシーンでの「ごめんなさぁ〜い」というウォラックのセリフは吹替えを担当する大塚周夫さんのアドリブだとか。原音では名前を呼ぶだけ。吹替え映画史に残る最高のアドリブだと思います。本作では、昭和の古き良きゆる〜い体制で、他にもアドリブをこれでもかとブチ込んでいるそう。ボクのマイヘイバレットなセリフは、イーストウッドを脅す際の「心臓ほじくり出してムシャムシャ食ってやるぞ!!」です。

本作には、テレビ放送時、カットされたシーンも追加収録された《日本語吹替完声版》が作られました。今ではDVDやBlu-rayなどのソフトにも収録されています。
ウォラック役の大塚周夫さん、クリーフ役の納谷悟朗さん、北軍大佐役の小林清志さんが追加収録に参加。もう故人であるイーストウッド役の山田康雄さんの追加収録分は多田野曜平さんがクリソツで担当。どの役どころもフィックス声優の方々なので、安定のクオリティです。


星5つ
★★★★★

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『続・夕陽のガンマン』海外版


続・夕陽のガンマン The Trio [The Good the Bad and the Ugly]

THE GOOD, THE BAD AND THE UGLY 1966年 / イタリア / 179分 / 西部劇
監督
セルジオ・レオーネ

出演
クリント・イーストウッド山田康雄/多田野曜平)
リー・ヴァン・クリーフ納谷悟朗
イーライ・ウォラック大塚周夫
ほか

『タイタニック』ヒット後のディカプリオが選んだ異色のロード・ムービー『ザ・ビーチ』(#46)

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本作は、『スラムドッグ$ミリオネア』でアカデミー賞8部門を受賞したダニー・ボイル監督の2000年の作品。当時は、『トレインスポッティング』がヒット。ユアン・マクレガーキャメロン・ディアス共演の『普通じゃない』でハリウッド進出。『タイタニック』ヒットで、注目の的になったレオナルド・ディカプリオを主演に作られたのが本作。そんな背景を頭に入れて観ると、なかなか感慨深い作品です。


バンコクへ旅行に来たディカプリオ演じる青年リチャード。せっかく海外へ来たのに、観光客まみれの風景にウンザリ。そんな中、ホテルの隣室だったマリファナ中毒者から“ザ・ビーチ”の場所が記された地図をゲット。旅で知り合ったフランス人カップルと“ザ・ビーチ”を探すと決意。トントン拍子に進んで、地図に記された島まで辿り着きます。

冒険談としてのワクワクはここまで。ここから先はダークな世界観へ。

見つけたのはヒッピーのコミュニティのような村。限られた人々で自給自足の生活をするコミューン。美しい海。自由気ままな生活。楽園のような場所が“ザ・ビーチ”だったのです。この村にはルールがあります。この島には、ヒッピー村エリアとマリファナ畑を経営するマフィアのエリアとで二分しているんです。その為、島の情報は他言無用。徹底的に秘密にし、住民を増やさないという事。
その為、村を守る隙のない女リーダーがいるんです。その女リーダーとリチャードは、町に買い物へ行く事に。その際、リチャードが“ザ・ビーチ”の場所を教えてしまったバカ観光客たちとバッタリ再会!! 女リーダーが居るというのに、「あの時は面白い情報を教えてくれて、ありがとな!! オレらも、これから行ってみるわ!! ガッハハハ!!」とか言い出したもんだから大変!!

女リーダーを演じるのは、マーベル映画『ドクター・ストレンジ』や『コンスタンティン』『ナルニア国物語』など、異界のキャラを演じる事の多いティルダ・スウィントン。あの整った爬虫類顔でディカプリオを睨むシーンに、思わずヒヤリ。まるで裏の裏まで見透かされているよう。一気に物語はシリアス雰囲気に包まれていきます。

本作の中で、ディカプリオはマリファナ中毒シーンや、まるで当時の自分をセルフパロディのような調子に乗るキャラを演じています。その尖った作風は選んだのも、当時のアイドル人気から脱却を目指していたのだと思います。実際、『タイタニック』のヒット直後のディカプリオの元には大量のオファー&脚本が届き、その中から選んだのが本作。その後、ディカプリオはマーティン・スコセッシの元、演技派俳優の道を模索していきます。そう軌跡を思い起こしながら本作を観ると感慨深いものです。

また、本作での旅行シーンをハイライト・パッチワークで繋いだスタイリッシュな編集。マリファナで追い詰められていく主人公の妄想シーンの画作り。まだ若くイケイケだったダニー・ボイルの映像センスをビンビンに感じる事が出来ます。

そんな本作でしたが、興行的にも評価面も惨敗。その後の『28日後…』ヒットまで、ダニー・ボイル低迷時代に入ります。ディカプリオは、『あのころ僕らは』という低予算映画に出演。その二年後、スコセッシ監督の『ギャング・オブ・ニューヨーク』とスティーヴン・スピルバーグの『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』まで出演作品はありませんでした。


星3つ
★★★☆☆

実録・銀行強盗立て籠もり事件を映画化『狼たちの午後』(#45)

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実際に起こった銀行立て籠もり事件を超リアル路線で描いた本作。この銀行強盗の立て籠もり事件は、発生当日、とても話題になった事件です。監督は社会派のリアル思考のシドニー・ルメット監督。主演は言わずもがなな名優アル・パチーノ。まさに最強タッグ!!

冒頭から、とにかく上手いんです。オープニングから、さり気ないニューヨークの日常風景が流れます。街に住む一般の人々の姿がポンポンとテンポ良く映し出されます。その流れでポンポンとテンポ良く車から降りてくるアル・パチーノが映ります。まるで本当のニューヨークの風景のよう。
そのまま相棒と銀行へ入店。静かなトーンから、突然、銀行強盗が発生!!
主人公たちは隠してた銃を取り出し、従業員たちに向けます。スピーディーに金を用意させます。金の出所を混乱させる為、帳簿も燃やします。従業員たちを金庫へ綴じ込めようとします。
しかし、上手くいってたように見えたのはココまで!! 銀行内の電話がなります。出てみると相手は警察。なんと、もう警官隊が銀行を取り囲んでいたのです!! 帳簿を燃やした際の煙から通報されていたのです!!
テンパる主人公たち。ここから緊張感マンサイの立て籠もり事件ドラマが始まるのです!!

本作の面白ポイントは、登場人物たちのキャラクター。アル・パチーノが演じる主人公はやたら人間味あふれるキャラ。
冒頭で従業員たちを金庫へ綴じ込めようとするシーン。一人の女性従業員が「私、トイレが近いんで、今のうち(綴じ込められる前)に行っておきたいんだけど」と言い出します。それに対して、少し考え、「他に行きたい奴はいるか?」って。ユーモラス!! 普通なら「そんなの我慢しろ」ですよね。案の定、相棒に「そんなん言い出したら皆、行くって言い出すぞ」と注意される始末。
そんなキャラなんで、刑事に逃亡用のヘリを要求するシーンでは、仲間意識を感じ始めた人質たちに対し、「そうだ!! みんな一緒に連れて行くよ!! みんなで一緒に外国へ逃亡しよう!!」とか言い出す可愛い奴なんです。

それだけではありません。とにかく口が上手く、雄弁なんです!!
テレビ局のアナウンサーからの電話で「今、生放送中だから、取材させてくれ」との要望を快く快諾。「事件を起こした理由を聞かせてくれ」と聞かれ、「アンタ、給料いくらもらってんだ? 今のご時世、どんな仕事があるんだ? 働けても満足いく金なんかもらえないだろ?」と言い負かしちゃうんです。テレビ局も「これは放送できない」と一方的に取材中断。

交渉してくる刑事に対しても、強気に言い負かしてくるんです。それを見ていた野次馬たちも強盗犯の主人公を応援し出すんです。もう庶民の代弁者みたいになっていくんですね。銀行の周りで応援の垂れ幕を持参する人々まで現れます。

もうボンクラ感と口の達者さにギャップ萌!!

そんな主人公に対して、警察は主人公の関係者たちに話を聞いて回ったり、主人公の生活を調べたりするんです。それがまた面白い!!
奥さんに話を聞きに行くと、「普段は大人しくて、ほとんど喋らないのよ」とノンストップで喋り倒すお喋りオバさん。同性愛の男性の愛人に話を聞くと「ワタシの体を性転換手術させる為にお金が必要だったのよ」と。
もう“銀行強盗してでも金が欲しくなるよな”と思わせてくれるんです。
銀行の中で手も足も出ない主人公が、奥さんと愛人に電話するシーンがあります。その思いを語るシーンがとにかく切なくて良いんです。

そんなシーンの積み重ねによって、主人公に同情してしまうんです。悪い事をしてるのに感情移入してしまうんです。

本作の脚本を書いているは、監督業もこなすフランク・ピアソンさん。当初、事件の概要や手に入る大量の資料を網羅。所があまりにも様々な要素が複合的に重なり、全く纏めきれなかったとの事。所が、主人公のキャラに焦点を合わせ、その周辺で纏めていく事で素晴らしい脚本が完成。フランク・ピアソンさんは、本作でアカデミー賞脚本賞を受賞。

シドニー・ルメット監督は役者を徹底的なリハーサルで追い込む事で有名。所が本作では、役者たちにアドリブで芝居をさせ、そこから撮影する芝居を作り込んでいったとの事。その効果は絶大。人質になった従業員たちも背景でちゃんと各々のキャラを持ち、芝居しているのが解ります。銀行から出られないので、暇を持て余してバドミントンしてたり、女子トークしてたり、ウォークマンで音楽を聴いていたり。それが凄くリアル。まるで本当に事件現場にカメラが入ったドキュメンタリーのよう。

主人公の相棒を演じるのは、ジョン・カザール。「ゴットファーザー」シリーズや『ディア・ハンター』などの名作映画に出演するカザール。演技力には定評があり、様々な賞を受賞。しかし、癌により42歳の若さで亡くなりました。アル・パチーノとは10代の役者の卵時代からの友人。そんな二人のヤリトリは流石な阿吽の呼吸。特に、緊張しきっているカザールをパチーノがなだめるシーンは名場面!!
このカザールの役どころも面白くて。緊迫した状況の中、タバコを吸う人質に対し、「タバコは体に悪い」と説教したりする訳です。銀行強盗に言われたくねーよというコミカルさ。「同性愛者」というテレビ報道を聞くと、「オレは同性愛者じゃない。ちゃんとテレビ局に違うと訂正してくれ」とか言い出す訳です。警官隊に囲まれてるんだから、そんな状況じゃねーだろ!! とツッコミたくなります。彼も、ちょっと可愛いのです。

そんな人間味溢れる犯人たち。観ている観客も完全に感情移入し切った後のクライマックス。まさかの展開で突然、事件の幕切れがやってきます。


星5つ
★★★★★

警官に狙われた警官による汚職ポリス映画『セルピコ』(#44)

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セルピコ

冒頭から、唐突に銃で撃たれた主人公が病院へ運ばれていくシーンで幕開け。
その報告を受けた警官たちも「とうとう、やられたか」みたいな神妙なムード。それは、主人公のセルピコが警官仲間たちに嫌われまくってるからなんです。音楽も無し。静かなスタート。

主人公の回想シーンのように本編の始まり。警察官になった日が描かれる。1日目から汚職警官の先輩に洗礼を受けます。レストランで「駐車違反を見逃してやってんだから貰っとけ」と飯代無料サービス。こんなんじゃダメだと試験を受け、鑑識の部署へ。そこでも、賄賂が横行。「ウチはこーゆールールなんだから受け取っとけ」。上司に報告。それでも、掛け合ってもらえず。
今度は刑事に昇格。「クリーンな部署」と紹介された新たな部署へ。所が、初日から「お前の分け前だ」と金を渡される始末。
とにかく、「金は受け取らない」と警官仲間たちからのお誘いを事ごく拒否。「金を受け取らないお前は信用できない」と冷たい目。

これは辛い!! 職場で誰も味方がいないってのは辛いですよ!! しかも、事が事だけに殺される可能性もあり!! どんどん神経過敏になっていく主人公。恋人ともケンカ。

監督は、シドニー・ルメット監督。少年の殺人事件について議論する裁判員たちを描いた『十二人の怒れる男』。銀行強盗事件を緊張感タップリに描いた『狼たちの午後』。或いは、落ちぶれた弁護士がアメリカ中の注目する裁判に挑む『評決』。マスコミを風刺した『ネットワーク』。そういう映画を撮ってきた監督で、“社会派監督”と呼ばれています。
勿論、本作も「警察内部の汚職」を告発した“社会派映画”ではあります。が、本作を観直して思ったのは、キャラクター映画の監督でもあるという事。
本作の主人公セルピコの様々な面を見せていきます。街の馴染みの靴屋へ行って食事の約束をするセルピコ。ナンパするセルピコ。自分の捕まえた犯人にコーヒーをご馳走するセルピコ。恋人と過ごすセルピコ。動物の世話をするセルピコ。上司に食って掛かるセルピコ。賄賂の受け取りをヒョイとかわすセルピコ。様々な人物と接し、どんな対応をするのか? セルピコの人物像を多面的に見せていきます。
セルピコを演じるアル・パチーノも、その時々で違う顔を見せます。それでも全くブレなくセルピコの人物像を演じきっており、素晴らしいです。

むしろ、ストーリーは、セルピコの日常を追いつつも、短いエピソードの羅列。映画全編で捜査している大事件がある訳でも、恋人との関係の変化を追い続ける訳でもありません。音楽も最低限。

それでいて、緩急も絶妙。恋人に八つ当たり。緊迫したシーンの後、インコにエサをやってるセルピコのシーンが入ります。インコが器用にピーナッツを手で持ったりして、妙にユーモラス。こういったシーン毎の緩急を全編通して取り入れているので、一つの大きなストーリーラインがある訳でもないのに、集中力を極力、途切れさせない技が効果的だと感じました。
芸人や工場労働者など、様々な変装、ファッションに身を包み、犬を連れて歩くアル・パチーノのカッコ良さ!!

このシドニー・ルメット監督のやり方は他の映画でも同様。そこら辺を意識してルメット作品を観ていくと、とても楽しめます。

今回は、吹替え版で観賞。アル・パチーノを吹替えるのは、フィックス声優の野沢那智さん。気だるい演技と怒鳴り声をシーンによって使い分け。メリハリを付けて吹替えています。さらに、セルピコの上司を吹替えている俳優の西村晃さんも抑えた芝居で印象的です。終始穏やかなのに、セルピコが警察外部に相談したとしるや急に怒鳴り出す。通る声が耳に残りました。

星5つ
★★★★★

【関連動画】

SERPICO - Trailer ( 1973 )


製作年: 1973年
原題: SERPICO
メーカー: KADOKAWA
受賞記録: 1974年 第31回 ゴールデングローブ 男優賞(ドラマ)
出演者: アル・パチーノ 、 ジョン・ランドルフ 、 ジャック・キホー 、 ビフ・マクガイア 、 トニー・ロバーツ 、 コーネリア・シャープ 、 バーバラ・イーダ=ヤング 、 アラン・リッチ 、 ハンク・ギャレット 、 ダミエン・リーク
監督: シドニー・ルメット
製作総指揮: ディノ・デ・ラウレンティス
脚本: ウォルド・ソルト 、 ノーマン・ウェクスラー
原作者: ピーター・マーズ
音楽: ミキス・テオドラキス

ワンちゃん冒険活劇映画『野生の呼び声』(#43)

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犬派、ワンちゃん好きに朗報です。今回は、チャーミングな大型犬が旅をする冒険活劇映画『野生の呼び声』をご紹介。

19世紀。アメリカの大きな屋敷で飼われ、ワガママ放題で育った大型犬のバックくん。所が誘拐されて、カナダへ。郵便配達のそり犬の一匹として旅がスタート。初めての団体活動。寒い国での生活。温室育ちのバックくんは、様々な初めてを経験していくのです。もう人間の成長と一緒です。

本作は喋る犬のアニメではありません。CGによる実写。犬も喋りません。表情で見せるんですが、本当に喜んでたり、落ち込んでるように見えるのが素晴らしいです。
人語を喋らない犬で何が起きているのか説明する映像作りがメチャクチャ上手いです。

最初こそ、足手まといで周りを巻き込むバックくん。しかし、そり犬仲間たちとの絆を強めたり、リーダー犬から目をつけられての対立したり。大人の階段のぼっていきます。

時代の変化と共に、居場所を変えていくバックくん。巡り巡って、運命的に出会うのが、町から離れて一人で暮らす老人。この老人役を演じるのがハリソン・フォード。年をとるにつれ、激シブ表情で省エネ芝居を披露し続けるハリソン。本作に関しては、それが良い方向に好転。孤独な老人度は増々。

さり気なく、どんどん絆を深めていくバックくんとハリソンおじいちゃんを描写。画的に派手で解りやすい冒険活劇を展開。ワクワクが止まりません。

そして、行き着いた先は野生の世界でした。


星3つ
★★★☆☆

第二次大戦で原爆を運んだ米軍の船の実録映画『パシフィック・ウォー』(#42)

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広島、長崎へ落とされた原爆を運んだ“インディアナポリスの悲劇”を描いた実録戦争映画。

第二次世界大戦の末期。巡洋艦インディアナポリスに極秘任務が下ります。それは、日本軍の潜水艦がウヨウヨいる海域を抜けて、謎の積み荷を届ける特別ミッション。
人命を引き換えに敵機を追い掛けてくる日本軍のリーサルウェポン=回天。そんな回天の攻撃により、沈没させられたインディアナポリス。冬の海に放り出された乗組員。限りある食料や救命ボートを巡って争うサバイバル。そこへ集まってくる大漁のサメ。息絶えていく生き残った乗組員たち。近くで監視を続ける日本軍の潜水艦。果たして、彼らは生きてアメリカへ戻れるのだろうか。。。。

監督を務めるのは、『ニュー・ジャック・シティ』や『黒豹のバラード』、『パンサー 黒豹の銃弾』など国人のアイデンティティ映画を量産してきたマリオ・ヴァン・ピープルズ。今回は、雇われ監督に徹しているのかと思いきや、乗組員間の黒人と白人の対立を追加。ピリリッと効いた隠し味に。

冒頭は、陸ではしゃぐ乗組員たちの群像劇。彼らのバックボーンを紹介し、ミッション参加へ。状況が絶望的になればなる程、グッとくるポイントは急上昇。
沈みゆく船から命からがら脱出した乗組員たち。一息つく暇もなく襲ってくるサメの群れ。テンポの良い演出に緊張感はマックス。ハラドキ全開で心臓に激ワル!!

話はそこで終わりません。帰国後の責任軍事裁判まで見せ切る圧倒的ボリューム。そこで登場するかつての敵であった日本軍兵士との見えない絆にグッときてしまいました。

オレたちの心の映画『ジョーズ』。その劇中にて、お互いの体に残る傷を見せ合う一番、アットホームなシーン。サメ取り名人役のロバート・ショウが語る“インディアナポリスの悲劇”がまさに本作の出来事。本作を観た後に、『ジョーズ』を観直すとサメへの敵対心がダイレクトに伝わること請合いです!!


星4つ
★★★★☆

木村拓哉が海外作へ初進出も大コケした問題作『2046』(#41)

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『2046』ポスター

木村拓哉を始め、アジアのスターたちが集結!! 何度も撮影中断し、5年の歳月をかけて完成された大作映画『2046』。……なんですが、悪評な上に大コケ!! 今回、久々に再観賞して、評判の悪い理由や監督のメチャクチャな演出方法が発覚!! こんなカオスな撮影現場があったとは!!



【公開当時は超話題になってました】
映画は公開前から話題騒然でした。
主演は香港の国際派俳優トニー・レオン。ハリウッド映画でも活躍するチャン・ツィイーコン・リーなど豪華女優陣。日本からは木村拓哉が海外作品への初進出。スターが勢揃い!!
世界的に高い評価を得てた映画『花様年華』と世界観を共通とする作品。予定通りにいかない撮影や当時、流行っていたSARSによる渡航制限などによって、撮影は幾度も中断。製作期間5年。もう話題に事欠かさなかった幻の大作がいよいよ公開!!
だったんですが、興行的に失敗。評判も激ワル!!

ボクも期待値パンパンで劇場へ行き、出て来る頃には絶望してました。「なんだ、この意味の解らない映画は?!」と。「画は綺麗だけど、ストーリーはよく解んなかったなー」っと。

今回、再観賞。……すると、「おっ!! 意外に解るぞ!!」とビックリ!!


【簡単にストーリー・あらすじ】
物語は、1960年代後半の香港。主人公は新聞記者から転職した小説家。でも、作家業は厳しい。官能小説や安い娯楽小説を書き、食いつなぐ日々。その中で、主人公は様々なタイプの女性と出会い、様々な形の恋を経験。あるいは目撃。それらの体験を「2046」というSF小説に取り入れていきます。

その小説の内容も超独特なんです。行ったら誰も帰って来ない《2046》と呼ばれる場所。そこから、唯一、帰って来た日本人の男が主人公。その男がもう一度、謎の列車で《2046》へ向かう話。その中で、アンドロイドへの恋が描かれます。


【この映画が難解な理由】
本作は、現実での主人公の経験談と小説内の物語が横断。行ったり来たり。エピソードは細切れ。筋の通った話がある訳ではなく、短編集のような関連性の薄い話が次々と登場。
結果、複雑な構成に。しかも、主人公も時代によって、違う女と付き合ってたり、一途な恋もあれば、遊びの恋もあり。ギャンブル狂で、金のある時もあれば、超貧乏してる時も。真面目なんだか、チャラい男なのか、主人公のキャラもブレブレ。超観づらい映画が完成したと。


【実は良い所もあるで!!】
ただ、アングルや画面レイアウトがアーティスティック。どのシーンで一時停止しても、絵ハガキになるんじゃないかという高クオリティー
鏡に写った登場人物を撮った独特の構図。狭い廊下での縦構図(奥と手前で人物配置)。扉や家具、小道具を見切れさせた覗き見風カメラ位置。反射物と被らせた窓越しの撮影。煙に包まれた男。カラフルな照明で浮き上がる女たち。シーンによってはモノクロ映像に。
芝居の流れで動くカメラワーク。名カメラマン=クリストファー・ドイルさんによるエモーショナルなハイスピード撮影……などなど。
もっと言うと、メイクや髪型も含めた1960年代のアンティーク・ファッションの数々。時代感を感じるロケ地。美術的にも素晴らしい一本なんです。

ここら辺が、「映画はストーリーで観る」という人(いわば“お話主導派”)と「アートな映画好き」な人(いわば“映像派”)で好みの別れまくる一本に。


【難解な作品にした犯人は勿論、監督です!!】
メガホンをとったのは、香港の巨匠=ウォン・カーウァイ監督の大作映画。ハリウッドの監督たちもファンを公言。日本でも人気の高い監督なんです。

ウォン・カーウァイ監督は、脚本を用意せず、場当たり的な演出や撮影を敢行する変わり者で有名。役者たちのインタビューでは「どこのどんなシーンなんだか撮影時はサッパリだった。完成版を観て、初めて解った」と言われるレベル。そう考えると、こーゆー映画になるのも仕方ない気がします。


【このシーン、カットした??】
なもんで、「撮ったけど使わない」未使用テイクも多そう。特に小説内のSF要素映像。そう思うのも、よく解らないカットが挿入されてるから。編集時に監督がカットしたのではないかと思っちゃいます。

小説内のエピソードは主人公のナレーションによって簡潔に説明。ただ、映し出されてる映像が、説明にない映像なんです。どーゆー描写なのか、どーゆーシーンなのか、解らな過ぎるんです。アジア圏の作品やハリウッド作品にも多く出演する俳優チャン・チェン木村拓哉の短いカットが挿入されてるのですが、どんなシーンなんだかよく解らない!!

主人公のナレーションでは、1967年の夜間外出禁止令が敢行、治安悪化した香港民主化デモの話が。このナレーションに、さっきの映像が被ってきます。最初は、当時の記録映像が映し出されます。その後、ナレーションでは、「愛を求める男女が全てを捨てて、《2046》へ向かう物語」と説明。地下道路(画面奥に車が確認できます。駐車場?)のような場所を走る男たち。木村拓哉を《2046》へ誘うタイの俳優=トンチャイ・マッキンタイア。抱き合う木村拓哉とアンドロイド役のマギー・チャン。イレズミの入った男に抱かれるアンドロイド。それを観て涙を流す木村拓哉。隣の部屋から何かを見つめるチャン・チェン
様々なイメージがインサート的に挿入されてるんですが、全体像が全く解りません。


【カットされたシーンを推測】
そこで公開当時のパンフを発掘。そこには、「《2046》へ旅立つ者は皆、失われた愛をとり戻すという同じ目的を抱いている。《2046》では何も変わらない。過去を愛おしく思う者にとっては理想郷であり、過去を忘れたい者にとっては、耐え難い場所となる。」との記載がありました。
マジで?! だって、本編で出てこないんだもん!!


【キャストのインタビューで推測!!】
パンフのトニー・レオンのインタビューを読んでみると、なんとも衝撃的な真実が発覚!!
「『2046』の撮影に入ったのは『花様年華』を半分撮り終えたところだったんですが、じつは、そのときの僕の役は今とまったく異なり、未来の郵便配達人だったのです。」との事。

なんだって?! 未来の郵便配達人?! もう違う映画じゃねーか!! ケビン・コスナーの『ポストマン』かよ!!
しかも、『花様年華』の撮影も終わってないのに別の映画の撮影し出したの?!
もうメチャクチャです。

トニー・レオンは続けて、脚本の無い現場の様子も証言してます。

「最初にスタートしたときのストーリーは、今となっては僕にはわかりません。毎日現場に行って、ようやくその日の撮影内容を聞くわけですから。全体のストーリーはわからないんです。しかも開始当時はチャン・ツィイーと自分しかいなくて、フェイ・ウォン木村拓哉らは後から加わってきましたし」と。

今度は、木村拓哉のインタビューを引用。また新しい情報が放出!!

「最初、僕の設定は〈殺し屋〉だと聞かされていました。監督からもキーワードは〈殺し屋〉だと聞かされていて…。でも、“そんなシーン、撮ってねぇな”という感じはあったので(笑)。撮影は本当になまもので、明日は監督がどんなことを考え出すんだろうという感じでした。」だって!!

全然、殺し屋の設定とか出てこないのに、何がキーワードだよ!! キムタクも「(笑)」じゃねーよ!! カオスかよ!!

ちょっと面白いので、他のキャストのインタビューも引用しますね。

フェイ・ウォンのインタビュー引用。
「そもそも、カーウァイ監督の映画に出るときは特別な準備も必要ない。とにかく深く理解する必要もなくて、その場で言われたことをやればいいという感じ。ご存知のように、撮影に入ってからも長い中断があったので、実際にでき上がった映画と、当初計画していたものは大幅に変わっていると思うし。カーウァイ監督の映画に出ると、最後まで自分の役がとういう役かはっきりわからないのが普通なのよ。」だそーな。

もはや、ちょっと監督をディスってるようにも聞こえますね!!

しかし、役柄も曖昧なまま、どんな演出をするのでしょうか?

続いて、チャン・ツィイーのインタビューを引用。
「きちんとした脚本はなく、毎日1、2枚の紙を渡され、今日はこの演技をするようにと言われて、それだけに没頭する。監督から『こうしろ』と指示されることはなく、実際に演じながらキャラクターを創っていくんです。まずは自分で考えて試して、それに対して『こうしてみたら?』と監督がアドバイスするという繰り返しでしたね。(中略)カットされているシーンもかなりありましたが(笑)、大満足よ。」と。

相当、時間に余裕のある(監督が時間に縛られない考えの)現場っぽいっすね。スタンリー・キューブリックのような何テイクも撮って、軌道修正していく(予算との兼ね合いは放置して)贅沢な現場のイメージでしょうか。
よくそんな状況で芝居できますね!!って感じですが、そこにもある“秘密のやり方”があったみたいです。

続きまして、カリーナ・ラウのインタビューを引用。
「じつは未来の部分を撮影しているとき、私のキャラクターについて、あまりよくわかっていなかったの。だから、監督が用意してくれた、それぞれのキャラクターに合った音楽を聴いて理解しようとしたわ。ちょっと補足すると、撮影に入る前に監督から、それぞれのキャラクターごとに選曲された音楽を渡されていの。(中略)撮影のときにも同じ音楽を流すようにして、うまくいくように計らってくれていたのよ。(中略)そのとき私たちに渡された音楽は、実際に映画でも使われているわ。」

そんな技が!! 思い出すのは、イタリアの巨匠セルジオ・レオーネ監督の撮影方法。先にテーマ音楽を幼馴染みの作曲家エンリオ・モリコーネに作らせ、それを現場で爆音タレ流し。曲に合わせ、カット割りも含めた撮影をしてたらしいです。まさに、同じ方法論!! そんな演出をしてたんですね!!

続いて、チャン・チェンにも隠された役柄の設定があった事が発覚!!
チャン・チェンのインタビュー引用。
「僕はロボットで、カリーナ・ラウをものすごく深く愛しているという役。最初、それたまけを説明されたんだ。」

お前、ロボットだったのか!! 全然、解らなかったぞー!!!!
どんだけのシーンがカットされたのか。未公開シーンも全部、観てみたいですねー。


【タイトルにも隠されたテーマ】
そもそも、タイトルの『2046』は2046年の事を意味しています。2046年とは、1997年の香港返還から50年目の節目。中国政府は香港返還の際、「今後、50年は変わらず」を明言。なもんで、2046年には、香港を取り巻く環境も様変わりする可能性があるのです。監督は、そこが本作の出発点と語っています。

パンフの監督インタビュー引用。
「(1997年の香港返還の際)そのときに、人生において変わらずに存在するものがあるだろうかと思った。(中略)でも、政治的な問題を扱った作品を撮るつもりはまったくなかった。僕は人間のほうに興味あるから。この映画は変わりたいと思っている人間を描いた映画。そして約束というものを扱った映画でもあります」との事を。

なるほど。妥協のないウォン・カーウァイ監督の思考が何となく読み取れてきました。


【他のカーウァイ作品との繋がり】
ウォン・カーウァイ監督の代表作が1999年に公開された『欲望の翼』。その製作時、『欲望の翼』は前編で、別途、後編の映画も作る予定だったとか。所が、予算を使い切り後編は頓挫。そのアイディアやキャラクターをそのまま別作品へ転用したと思われるのが、2000年公開の映画『花様年華』。
その『花様年華』の主人公のその後を描いたのが、本作『2046』なんです。

ちなみに、『欲望の翼』は複数の男女の恋心が交錯する恋愛群像劇。『花様年華』は1組の男女が隠れて不倫する大人のラブ・ストーリー。そして、大枠としては恋愛をテーマにしつつ、壮大な規模で展開する本作『2046』。全く作風の違う三作。

ただ、マギー・チャン演じるスー・リーチェンという役は三作共に登場します(役名と演じる役者が同じだけでキャラや設定はブレブレ)。『欲望の翼』でもナンパ男に恋するサッカー場の売り子と、『花様年華』では人妻、『2046』ではトニー・レオン演じる主人公の思い出の女性として。『欲望の翼』のラストでは、トニー・レオンの演じる謎の男が唐突に登場。そのまま何だったのか解らないまま、映画は終わります。役名は“ギャンブラー”とのみ記載されてます。
もしかしたら、『欲望の翼』の作られなかった後編には、ギャンブラーの若かりし頃のトニー・レオンが描かれ(『2046』でもギャンブル狂になった主人公が描かれます)、それが『花様年華』では結婚し、新聞記者として落ち着いた仕事へ転職。『欲望の翼』に登場したマギー・チャンは結婚し、『花様年華』でトニー・レオンと出会う……。そこで初めて、『欲望の翼』→未製作の後編→『花様年華』→『2046』へと繋がる壮大なウォン・カーウァイ・サーガが出来上がっていたのかもしれませんね。

パンフの監督インタビューを引用。「ふたつの映画を同時に作り始めて、『花様年華』が終わったところで『2046』に戻りました。(中略)トニー(・レオン)の役は、『花様年華』の彼とまったく違っている。『2046』を続編とする必要はないと思う。」との事。

さらに続けて、「劇中のキャラクターのように、僕も、過去を忘れようとするほど、過去を思い出してしまった。トニーは最後にどうにかそれを理解する。過去から逃れようとするほど、記憶は鮮やかになっていくことを。だから、過去と共に生きていくしかないんです。そうしているうちにある日、過去が消え去る日がくるかもしれない。これがこの映画のメッセージです」と言ってます。

ここまでハッキリとテーマを明言。そう思って本作を観てみると、やたら時計がモチーフとして登場する事に気づきます。
2015年の『映画とイデオロギー』(映画学叢書[監修加藤幹郎]、ミネルヴァ書房)という本で、藤城孝輔さんが「二つの時代のあいだで――『花様年華』と『2046』における狭間の時空間」という論評を書いています。その中で、本作の時計はただ時間を教える為に劇中へ写し込んでいる訳ではなく、時間の断絶を意味していると語っておられます。つまり、時計を写し込む事で物語の時間軸はジャンプ。時間経過を視覚的に表現。
さらに、本作の列車やホテル、アパートという室内シーンの数々も、一時的に身を寄せる滞在場所を意図的に選ばれているという指摘。
ウォン・カーウァイ監督は、取り留めのない時間経過の中で、過去へ捕らわれる恋心を表現していたのです。そう考えると、ストーリー的に繋がりの薄い『花様年華』ですが、主人公のラストの切なさもひとしお。
また混濁した本作の構成も、逆にリアルに思えてくるから不思議です。


星3つ
★★★☆☆

【関連動画】

2046 4K | Official Trailer (English)

隣同士の夫婦が不倫する香港ロマンス映画『花様年華』(#40)

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ボクがウォン・カーウァイの映画の中で一番、好きな映画です。久々の再観賞です。

舞台は1960年代の香港。同じ日に隣同士の部屋へ引っ越して来た二組の夫婦。やたら家を留守にする夫を持つ妻。帰りが遅い事の多い妻の夫。お互いの夫と妻の持ち物から、不倫している事を推測した主人公たち。
それから食事をするような仲に。そこから、まるでゲームみたいに、お互いの連合いの役で不倫の始まりを再現するように。そのまま2人の関係がどんどん変化していくんです。

まず、お互いの連合いの不倫再現ゲームってのがユーモラスなんだけど、切ないですよ。しかも、不必要にダメ出しなんかしたりして。どんどん熱が入っていくのが分かるんですよね。「どっちから誘ったんだろう?」とか。
まるで恋人同士のように仕事後の食事。一緒に小説を書き、その小説の描写を演じてみるんです。それでいて、ベッドは共にしないという関係。友達以上、不倫未満。
物語は、その後、何年も時間を経過していく事になり、2人はすれ違い続けていきます。切ない大人の恋が描かれているんです。

監督のウォン・カーウァイは、脚本もなく、場当たり的に進めいく撮影スタイル。さらに、主人公2人は劇中で芝居をする訳です。もう役者さんたちは、どこの何のシーンを撮影してるのかサッパリだったでしょうね。
主演のトニー・レオンは、ウォン・カーウァイ映画の常連。インタビューで「メチャクチャ神経を使うから、役者によってはグッタリしてるよ。ボクはもう馴れたから何も考えずに現場へ行く」みたいな事を言ってました。

タイトルになっている「花様年華」というのは、劇中に流れるラジオでリクエストされた曲なんです。ボクは詳しくないですが、恐らく、1960年代当時に流行った歌謡曲なんでしょうね。
それを証明するように、全編に渡って、ウォン・カーウァイ監督の古き良き香港への哀愁を感じます。ロケも古めかしい建物ばかり。
主人公たちの住むアパートでは、大家さん主催の麻雀大会を開催。住人たちは徹夜で麻雀をし、夕飯をシェアする関係性。所が、退去後、久々にアパートを訪れるシーンで、大家さんが「最近は住人とも付き合いがなくて。昔は良かったわねー。ご飯食べて行って」とのヤリトリがあります。
ボクはウォン・カーウァイ監督が「オレの子供の頃はこんな感じで良かったぜ」と言ってるような気がします。カーウァイ監督は1957年生まれで、5歳の頃、香港へ引っ越してきたそうです。

そんな監督の想いを受け止めたカメラマン=クリストファー・ドイルのスローモーション撮影がまた切なさをアップさせます。
テーマ曲として使われているのは、鈴木清順 監督による日本映画『夢二』のテーマ曲なんですが、メチャクチャ合ってます。本家より本作の方が合ってる気がします。人の映画の曲も使ってしまうカーウァイ監督。逆に気持ちが良いです。


星4つ
★★★★☆

殺人ミッドナイトツアー映画『コラテラル』(#39)

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久々に『コラテラル』を再観賞。半年に1回くらい観る好きな映画です。『ヒート』や『パブリック・エネミーズ』などのマイケル・マン監督によるスリラーアクション映画。

夢の為、毎夜、コツコツ働く潔癖症のタクシー運転手。そこへ乗って来たのが凄腕の殺し屋。運転手は、一晩で5人のターゲットを殺して回る悪夢のミッドナイトツアーへ出発する羽目に。

本作で兎に角、話題になったのが、トム・クルーズ初の悪役。イメージにない無精髭&シルバーの髪色。安定のアクションワーク。まさに空きのないプロフェッショナルを熱演。冷血に人を殺しつつ、ジャズ好きで、お見舞いには花を持って行くという人間味も。

それに対し、タクシー運転手役にはジェレミー・フォックス。コメディアン出身ながら、映画『Ray/レイ』で主人公レイ・チャールズを演じ、アフリカ系アメリカ人俳優としては3人目のアカデミー主演男優賞を受賞したお方。ムチャを言う殺し屋に対して、リアルに反応。やり過ぎないビックリ芝居が絶妙!!

そんな2人を追う麻薬課の刑事をマーク・ラファロが演じています。マーベル・スタジオ映画のハルク役でインテリ科学者と暴力怪力男の二役を演じているお方。ただ、本作でのラファロは、ピアスに髭、オールバック、革コートという出立ちで、ロスの刑事にしか見えません。

本作では、手持ちのデジタル撮影を駆使。当時としては最新のデジタル撮影を本格使用した本作。真夜中の一晩の出来事を描いているので、暗所に強いデジタル撮影が採用されたとの事。この後、フィルムへの拘りで知られるマイケル・マン監督は、デジタル撮影を多用するようになります。

殺しを止めさせようとするタクシー運転手と、どんな手を使ってでも計画を遂行しようとする殺し屋。全編通して、対立し合う2人。それでも、タクシーという同じ空間で同じ時間を共有。お互いの家族や人生観を垣間見るように。クライマックスでは独特の関係性が。
それを目線や芝居&編集の間で見せるマイケル・マンにシビれてしまいます。


星4つ
★★★★☆

“難解すぎる”押井守監督が干された『天使のたまご』(#38)

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今さら『天使のたまご』を観賞。本作は、1985年製作された押井守 監督のOVA(オリジナル・ビデオ・アニメ)作品。押井守 監督作品が好きなボクですが、“難解”という前評判に尻込みしてました。ちなみに、押井監督は、『ダロス』で世界で初めてOVA作品を作った人。

今回、観賞してビックリ!! 全然、解かんない!! これは“難解”ではなく、“ストーリーを追うような作品ではない”が正解かと。アンドレイ・タルコフスキーアレハンドロ・ホドロフスキーみたいな類の映画。
なんせ、本作の製作後、押井守 監督は「難解な映画を作る監督」というレッテルが貼られ、一時的に干された程との事。

とは言え、見どころが無い訳でも、面白くない訳でもありません!!

卵を抱え、一人で生きる少女。森を歩き続け、街を彷徨ううち、一人の青年と出会う。2人は共に行動をするようになります。街では“魚”と呼ばれるシーラカンスのような魚の影を追う人々。街に降り始める雨。繰り返される「あなたはだぁれ?」「この卵は何の卵?」というセリフ。

夜の街並み。フランス地方をモデルとしたという古い建物の数々。影を黒く塗り潰したくらい明確に描かれたコントラスト。細かく描き込まれた作画。まるで、クトゥルフ神話やゴシック・ホラー、あるいはドイツ表現主義の映画を思わせる世界観。まさに、迷宮に迷い込んだ気分です。

キャラクターデザインをした天野喜孝クールなキャラ。主人公2人の声を担当する根津甚八兵藤まこ による朗読のような語りのセリフ(71分の作品で初めてのセリフまで24分も掛かった!!)。

「卵」や「ノアの方舟」など、数々登場するモチーフたち。聖書の隠喩。抽象的に表現されたメタファーは、聖書であったり、現代観をファンタジーで比喩したものと思われます。それらが何を表すのか考えながら観るのも一興。

ボク的には、“卵を抱えた少女”がラストで卵を割ってしまう事から、生まれながらに持っていた“卵”を割ってしまう事で大人になるみたいな事かなと。あと、“影の魚を追う人々”は現代人がモチーフ。“形のない存在”を追うのに右往左往。

まぁ、色々と書きましたが、押井版『8 1/2』みたいなモノで、押井守 監督以外、誰も理解できない気もするんですが。


星2つ
★★☆☆☆

福島原発事故の実録映画『Fukushima 50』(#37)

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まだまだ記憶に新し過ぎる東日本大震災福島原発事故を早々に映画化。まだ体験・記憶が消えやらない中での“あの日”、福島原発の中では、どのような事が起きていたのか?

スタートと同時に巨大な揺れ。割れる海中の断層。崩れる原子力発電所の建物。状況を把握しきれない職員たち。
情報を集約し、全体の指揮を取る所長。原発の最前線で実行していく当局長。そんな地元育ちの同級生2人を中心に物語は展開。
地震津波により、制御不能となる原発メルトダウンを回避すべく判断を迫られる職員たち。奮闘。刻一刻と変わっていく状況。離れた東京から無理な指示を飛ばしてくる本社&政府関係者。上と下の板挟みになっていく所長。避難所へ移動する職員の家族たち。最悪な状況に遺書さえ書く決意の職員たち。

もう自分に置き換えると涙なしには観れない、決断のドラマの連続。テンポ良い編集で、次々と悪状況が発生。まさに命懸けで挑むドラマに涙。また実話というのが更に涙。

メガホンを取ったのは『ホワイトアウト』や『沈まぬ太陽』、『空母いぶき』などの大作映画、オールスター映画を作ってきた若松節朗 監督。もはや、“日本のオリヴァー・ストーン”と呼びたい。

星3つ
★★★☆☆
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全世界のカメラで監視される個人情報シカト世界『AI崩壊』(#36)

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どーにもそそられないタイトルから、観てなかったものの、一度は信じた入江悠 監督の新作だと奮い立たせての観賞。なもんで、イメージ激悪からのスタートだったので、「思ったより楽しめた」な印象。

舞台は、近未来の日本。人工知能(AI)“のぞみ”が、医療や電化製品、デバイスに搭載された時代。そんなAIを開発した天才科学者が本作の主人公。
ある日、当然の暴走を始めた“のぞみ”。その首謀者とされた主人公の逃走劇。生存の選別をし、生きるに値しない人々を死へ追いやろうとする“のぞみ”。“のぞみ”のサーバールームに閉じ込められた主人公の娘。どんどん冷えていくサーバールームで、娘の命は24時間もたない宣告。
そんな中、主人公をはめた真犯人は誰なのか?
世界中の防犯カメラや端末カメラから逃げるという無理難題。サイバー対策課のエリート警官によるデジタル追跡。昔ながらの老&若手刑事による足による追跡。さらには、主人公を追う記者。もう次から次へと追われまくり!! テンポ良く、息つく暇なし!!

逆に言えば、それだけの映画なんですね!!笑 まぁ、エンタメ映画としては満足なんですけど。AIによる管理が当たり前の未来にしては、目新しさは無し(解りやすいとも言えますが)。どのキャラも紋切り型で魅力に欠けるし、ストーリー展開も、予想できてしまいます。劣化版の三池崇史みたいな感じです。

1970年に作られた『地球爆破作戦』というアメリカのB級映画がありました。この映画もコンピューターが暴走して、核爆弾を人質に人間へあれこれ命令してくるって映画でした。『地球爆破作戦』は、予算の無さが悲しいくらいに画面から溢れ出てて、愛嬌がありました。本作は、頭良さそうに作ってる分、カルトさに欠け、好感度が下がっちゃいました。

ただ、本当にテンポ良さ&海外映画のようなスケールの大きさは楽しめました!! 細かい事には目を瞑り、頭を空っぽにして観ると、とても良いです!! 十分だ!!

星3つ
★★★☆☆

スターダムへ返り咲いた人気女優と冴えない男のラスト『ガラスの知恵の輪』第六話(#35)

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東京へ戻り、冴えない日常生活を送るハチ。一方、ユカは新作映画『さらば純情』に出演。賞を受賞した事がキッカケで一躍、スターダムへ返り咲き。

一方、芸能レポーターの妻が新たなマスコミの餌食になり、ハチの中では以前のユカとオーバーラップ。ショーケンのやるせない表情を遺憾なく堪能。

ハチは、帰り道、たまたま喫茶店にいるユカを目撃。2人は久々の再会。第一話とは逆に、今度は運転席にユカ、助手席にハチ。あの時より、落ち着いたトーンの会話が染みてきます。
結局、ユカのスキャンダルをマスコミにリークした事を言えないままのハチ。尻切れトンボで別れてしまう。

その後、ラストに、ユカはハチと見間違えたピエロから、ハチが結婚して遠くへ行ったと知るんです。そのまま終わっちゃうんです。切ないですねー。


星3つ
★★★☆☆

まさかの衝撃展開『ガラスの知恵の輪』第五話(#34)

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小樽のハチの実家に身を寄せるユカ。痴呆症で、受けてもない注文を一生懸命にこなしていく父。そんな、どうしたら良いのか解らない父と楽しそうに談笑しているユカ。妙にアットホームな空気が漂う。

そんな空気をブチ壊すマスコミ。突然、押し寄せて来て、父の作ったガラスの知恵の輪をズカズカ壊してしまうんです。そのショックから、父が急死。憤るハチ。ユカは芸能界へと戻っていくんです。

そんな中、刑務所から出てきたユカの兄貴は、恋人のヤクザと協力。ユカを追い掛けていたレポーターのホモを暴露。コミカルな展開ながら、新たなマスコミの被害者が出てしまうんですね。

星2つ
★★☆☆☆